5月8日放送

 先週の「ほっかいどう元気びと」、紋別の「美(み)はらしの丘 ローズガーデン」の運営者である岸山登茂子さんは、「美しいものを地元に残したい」との一念でバラ園造りに尽力され、10年がかりでその思いを達成させた。「成熟した社会では、人の心が豊かになることこそが大事」と話す言葉からは、これからの地域作りの大切なヒントも感じられた。
ロス・フィンドレーさん  今回の「元気びと」、オーストラリア出身のロス・フィンドレーさん(51歳)も、分野は違うがやはり自分の出来る事で地域に関わってきた人。「世の中を、そして、北海道を、ニセコをもっと楽しくするために何が出来るか」を考え続けている人だ。ニセコエリアでアウトドア体験のプログラムを提供する取り組みの中で大事にしてきた思いを伺った。

 キャンベラ大学でスポーツ学や経営学を学んだロス・フィンドレーさんが北海道にスキーのインストラクターとしてやって来たのは1989年のこと。当時のオーストラリアが不景気で就職難だったからと言うが、仲間と訪れたニセコひらふの山と雪に魅せられて数年後には札幌から移住。ひらふのゲレンデで出会った女性と結婚もし、95年には倶知安町に「NAC(ニセコアドベンチャーセンター)」を立ち上げ、アウトドアの体験観光のビジネスをスタートさせ、今に至る。
 ニセコエリアに移住した頃は、バブル経済が弾けて冬のスキー客も激減。ペンションのオーナー達がどうやってお客をこの場所に呼んだらいいだろうかと頭を悩ませているのを見て、自分の得意分野であるアウトドアスポーツで何か出来ないかとラフティング=川下りに狙いを定め、夏場の観光客を受け入れていったという。
 今ではそんなアウトドアスポーツを楽しみに海外からリピートでやってくる旅行客は勿論、自然に魅せられて国内外からやってくる移住者、ビジネスチャンスを求める人たちも多いニセコエリアだが、お話を聞いていていいなと思ったのは、元々その地域に住んでいた人達自身が今のニセコを楽しんでいるということ。現在、倶知安駅前の商店街は、外から来た人達も新しくお店を開いて人気を呼んでいるそうだが、ロスさん曰く、「元々お店をやっていたおじいちゃん、おばあちゃん達も面白がって、じゃあ、自分達はこうしよう、これもしてみようと刺激を受けている」とのこと。そうして、外からの人、外国からの人、元々地元にいる人達が相互にいいところを認め合い、吸収し合って活性化しているとのこと。そして、その界隈に住む人達が、その場所の「ライフスタイル」を楽しんでいるのだと続ける。
 元々いた人達と、新しくやって来た人達。いいところを引き出し合ってそのエリアの生活そのものを楽しむというのは、高度な知恵のたまものに違いない。互いを尊重し、強みを引き出し合う地域。それこそが、新たな地域作りの醍醐味なのだろう。

ロス・フィンドレーさん  ロスさんは、何度も「ライフスタイル」という言葉を口にし、収録後の「宝ものは何ですか?」の問いかけにも「大切なのは自分のライフスタイルです」と答える。
 「自分の家族、家、遊び、住んでいる町、その店の並び、友達、仕事・・・すべてがライフスタイル。それを良くするために働きかけるのです」と。
  そして、その価値観は人それぞれでいいけれど・・・と前置きし、その生活スタイルを選ぶということの大切さをこう続ける。
 「どこまで仕事を中心にするか?どこまで休めるのか?どこまでリラックスできるのか?その楽しみのために何が出来るのか?・・・それらを大事にしていくと、自分の仕事がいいライフスタイルになっているのかいないのかが見えてくると思う」
 さらに、そういうライフスタイルがはっきりしているのがニセコの良さなのだとロスさんは断言。
 「ニセコは日本だけでなく、アジアの中で一番『外(アウトドア)のライフスタイル』がある場所。何より倶知安町に住む人達がそれを分かって楽しんでいる。町民がそうやって『住む価値』を作ると、世界中の人が集まってきて、リゾートとしての価値も高まってくる。歩いていても東京タワーは無いところだけど、ニセコはそんなライフスタイルが売りものなんです」

 前回の岸山さんと今回のロス・フィンドレーさんの取り組み。バラ園とアウトドアと分野は全く違うが、地域を「どう美しくするか」「どう楽しくするか」というお話を伺いながら、どちらも「これからの私達の暮らし全体をどう成熟させるか」ということが共通項なのではと気づかされる。
 一昔前は、モノを買い求めるという消費そのものが楽しみであり、決められた観光地へ行くことそのものがレジャーだったと思う。例えば、上京して東京タワーを見に行くなどという旅行がその代表だ。他の観光地に負けじと、地域のあちこちがこぞってその土地らしくないハコモノを作ったり名所を作ったりして客を呼ぶ時代も確かにあった。しかし、バブルは弾け、経済はもはや頭打ち。知恵の試される時代に大事なのは、住んでいる人達がいかに土地の魅力を掘り起こし、自分達自身が楽しんでいるかということなのだろう。それこそ、「どんな暮らしをしたいか」というライフスタイルを選び取り、楽しみながら住んでいる人達によってその土地の魅力は倍増するのだ。
 「暮らしを成熟させる」ということは、目に見えないし、外から答えは与えられないが、経済が成熟したその後の「ライフスタイル」のヒントは案外日々の中にあるのかもしれない。季節の移ろいの中の美しさや自然が与えてくれる驚き。川や海や山の中に身を置く心地よさ。人と人との心配り。温かな交流。オーストラリア出身のロス・フィンドレーさんが収録後に何気なく言っていた言葉の中にもヒントはあった。
 「私達外国からやって来た人達も、元々住んでいる日本人からいい影響を沢山受けている。それは、元々からある特性のようなもの・・・『もったいない』もそうだし、『おたがいさま』もそう。そういう気持ちは外国から来た人達の心を穏やかにする。海外の都会から来て少しギスギスしている人もここに3日もいればリラックスするよ」
 公共の場などで人と人との摩擦が起こりそうな場合も、「おたがいさまだから、まあまあ・・・いいじゃないか」と知らず知らずに柔らかくなっているのだそうだ。

 どこに住み、どんな仕事をし、どんな遊びを楽しみ、どんな暮らしをするか?
 お金の有る無しやモノの多寡で測られたこれまでの価値観から自由になってそれらを個々に吟味することが、成熟した社会を生きるためのパスポートになっていくのだろう。
 そして、さらに、「どんな人として生きるか?」という選択も、大切な「ライフスタイル」。それらを自分の物差しで選ぶというのが益々求められていくことなのではと思う。
 「楽しむこと=(イコール)生きること」というエネルギーが伝わってくるニセコの「楽しみ係」ロス・フィンドレーさんとお話をしていてそんなことを感じた。

(インタビュー後記 村井裕子)

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