1月3日放送

 新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞ「ほっかいどう元気びと」をよろしくお願いいたします。

栗山英樹さん 2016年最初のゲストは北海道日本ハムファイターズ監督の栗山英樹さん 54歳。
 お話を伺うまで日数があったので、「ほっかいどう元気びと」として私は栗山さんにどんなインタビューがしたいのかを棚卸しするために、まずはこれまで出されている著書を読んでみる。「覚悟」「伝える」「栗の樹ファーム物語-栗山英樹、野球場をつくる」そして、新刊の「未徹在」に「北海道日本ハムファイターズオフィシャルガイドブック」などなど。こういう作業は大変ながら面白い。相手の考え方やものの見方を知ろうとすることは事前に出来る精一杯の誠意だし、知れば知るほど「問い」が浮かんでくる。ご本人が影響を受けた本のことなども出てくるとそれもまた読みたくなり、栗山さんのお薦めという渋沢栄一の「論語と算盤」にも目を通す。こういう本とのひょんな出会いもまた刺激的だ。
 それらの中から感じ取ったのは栗山さんの「目線の角度」。すべてのものが自分よりも高い所にあり、それらを年齢・立場の区別無く尊敬の気持ちで見上げているというスタンスだ。
 歴史上の人物の考え方などに対しては勿論だが、球団、スタッフ、選手、その家族やファンの人達、夢を叶える場所として選んだ栗山町の人達に対して。すり鉢状の最も低いところに栗山さんが立っていて、そこから360度周りを見上げているという感じ。
 若い選手ひとりひとりにも「尊敬の念」を持つ監督というのは全く新しいタイプだし、人の思いを我が事に出来る共感センサーの感度が高いのもそこから来るのだろう。なるほど、新刊のタイトルも「自分は未だ未熟であるということを自覚せよ」という「未徹在」。そんな人柄はどのように作られ、新たに北海道という地でどのように力を磨いてきたのか、楽しみにお迎えした。

 初めてお話をさせていただいた栗山さんは、そんな事前の印象よりもっともっと「無私の人」。そして、このインタビューの間も自分から愉しい空気にしようとする「サービス精神の人」。確実に「何かに気づいている」であろうのに「自分は識っている人であるのを悟られまいとする人」。監督=偉い人という雰囲気がにじみ出てしまった途端にあらゆるものが崩壊し始めるということをわかっている人なのだろうなと、何となくだがそんなふうに根本にあるものを受け取った。監督という職業はどう考えても過酷なもの。並大抵の神経ではつぶれてしまうだろう。2011年の就任記者会見で「怖さしかない」と答えていた栗山さんが、4シーズン(パリーグ優勝もあれば最下位も経験したその激動の4年)で身に付けた処世術なのかもしれない。お話の中でも、「自分が変に正しいと思ってやってしまうことで、変な悩み方もした。もともと自分がやっていることは全部間違いと思って、その状態からもっと正しいことを追い求めればいいのではないか。自分が正しいと思っていることを全て捨ててしまえばいいのではないかと気づいた」と、自我に囚われない無私でいる大切さを何度も語っていた。「(選手に対して)ほんとうに目の前のコイツのために何が出来るかだけを考えればいいんです」と力を込めて。
 「自分のようなものが監督なんて・・・」「僕の力なんて、僕の人間力なんて・・・」というスタンスは少し意外だったが、「それは、自分を捨てて空っぽにするため。そうして存分にこの身体を使ってほしい」という真っ直ぐな思いだ。そういう人柄だからこその日本ハムファイターズの監督なのだろう。

栗山英樹さん そして、その過酷な監督業を根本から支えているのは、ご自身が夢を叶えようと15年前に一から作り上げた栗山町の「栗の樹ファーム」なのだということも、その場所のことを話す口調の温度の高さで伝わってくる。「我」を自分からすっかり振り落とすことは難しいことだが、自然の樹木や花や虫、澄み切った空や風、優しい雨がそれを後押ししてくれることがある。栗山町とは全くたまたまのご縁で今に繋がっているそうだが、栗山さんは実際に自分で手をかけ、汗を流して周りの環境を作れるこの自然の中の野球場によって、いい循環を自分の中に作り出しているのだろうなと思う。
 「監督」という職業はイコール「人生の目的」ではないが、私的に野球場を作って皆に使って貰うという夢の「栗の樹ファーム」作りは人生の目的と連結している。やがて、「監督」という立場にピリオドを打った後でも、きっと芝を刈ったり樹を植えたり(今年は瓢箪を作るのだと楽しそうに教えてくれる)しながら、そこで巡り会う人々や時々やって来る奇跡的な出来事に幸せを感じながらさらにその先の夢を追い求めていく人なのだろうなと感じた。まるで、ネイティブの北海道人のように。
 栗山さんのフィールド・オブ・ドリームズ。どんな空気が漂っているのか実際に感じてみたく、インタビューの数週間前、すでに積雪はあったが栗山町を訪ねてみた。町に入って程なくして少し小高い丘を上がっていくと、急に目の前に清々しい空間が広がる。うっすらと雪が積もったグラウンド脇には蔓のある植物を這わせるための棚もある。きっと緑の季節には花を咲かせたのであろう草木は冬を待つ佇まい。
 ロッジ内には、キャスター時代に集めたという野球関連のグッズや歴代の人気選手達のバットやシューズも展示され、「どうぞ、どうぞ!見るだけでなく手に取って触ってみて。凄いでしょ?野球って凄く楽しいでしょう?」とあたかも栗山さんに言われているような心地いい空間が広がる。
 「あなたの宝ものは何ですか?」の収録後の問いかけに、栗山さんは「宝ものはその時々で変わる」と答え、以前はジョー・ディマジオと撮った写真など「モノ」だったかもしれないが、監督の今は「まず、選手達」。形のないものが宝ものになったと続ける。「例えば、中田翔には爆発的な記録を残してやりたいとか大谷翔平の成績も伸ばしてやりたいとか、そんな思いが強い。そのひとりひとりのタイトルが僕にとっても宝もの。これから、それは出来る可能性があるものばかりなので僕は本当に幸せです」と。
 栗山監督としては、今年の大命題はとにもかくにもファイターズ優勝なのだが、更にその先に北海道で繋がっていく夢はどんな夢なのだろう。更にその先はどんなふうに「宝もの」が変わっていくのだろう。
 厳しい立場にも立たされながらも、この栗山英樹さんという人はどんな時でも「宝もの」を見つけていく人なのかもしれない。勿論、ずっとこの先も「野球」という大好きなフィールドの中に。
 そのキーワードが今回のお話の中に沢山ちりばめられていた。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP