12月6日放送

 フリーのアナウンサーになって「話し方講座」をスタートさせてからすでに10年。コーチングの学びなども取り入れたことで少しずつわかってきたことがある。
 なぜ話し方は難しく、自分の考えを要約して分かりやすく話すことが簡単ではないのかということ。私は、人の頭の中を“押し入れ”に喩えてこんなふうに説明する。
 「次から次へとモノ(=情報)が入ってくると(=インプット)、押し入れの中はごちゃごちゃになってしまい、いざ何かを取り出そうとしても(=アウトプット)うまく引き出せないのが理由のひとつ」だと。つまり、自分の考えや伝えたいことを曖昧なまま“何となく”話してしまうと、聞く人も“何となく”を聞かされることになり、一体何を言いたいのかが分かりにくい話し方になってしまう。まずは、漠然とした状態を整理すること。そのために自分の中から思いを一つ一つ言語化していくことが欠かせない。“押し入れ”の中は、例えば自分の価値観も他人の価値観も折り重なって仕舞われているわけで、その選り分け作業をしなければ自分のほんとうに伝えたいことなど自分でも分からないままになってしまう。
 「大切にしてきたことは何か」「どんな自分になりたいか」という問いかけで思いを引き出しながら講座を進めていくと、勘のいい人達はどんどん自分で自問自答の習慣を身に付けていき、自分の中で解決しにくかった課題なども、「なぜそうなのか?」「どうやって前に進めばいいのか?」と客観的に問いかけ思いを紐解くコツを身に付けていく。それはそのまま、「自分はどう生きたいか」に繋がり、“誰かのせい”といった他責に走ることなく、主体的に自分を生きる思考法を身に付けていくことになる。あとは、音声としてのアウトプットのコツを取り入れて自信を付けていくだけだ。
 とはいえ、それは地道な作業。小さな頃から、頭の中の“押し入れ”を整理していける会話のかかわりがやはり大事なのではと思っている。

田川瑞枝さん 今回の「ほっかいどう元気びと」のゲストは、片付けの手法を子供世代からお年寄りまで幅広く伝えている札幌在住のライフオーガナイザー 田川瑞枝さん 53歳。専業主婦だったという田川さんが「一般社団法人 日本ライフオーガナイザー協会」のマスターライフオーガナイザーという資格を取得したのは2010年のこと。きっかけは、2003年の十勝沖地震をその時住んでいた釧路で体験し、高い棚や食器棚などから凄まじい勢いでモノが“飛んでくる”のを目の当たりにして日頃の整理整頓の重要さに気づいたからという。防災の面からもモノを片付けておくことが必要と整理収納アドバイザーの資格を取り、その後、札幌へ転居したのを機にさらにライフオーガナイザーの学びを深めていったのだそうだ。
 耳新しいライフオーガナイザー、まずは田川さんの表現で説明して貰う。
 「ライフオーガナイザーというのは、片付けの仕事をする人。片付けというと整理整頓がきちんと出来ているというふうに思われがちですが、『思考の整理』を先にしてから、自分のイメージに合わせたゴールを目指して片付けをしていきましょうというサポート役です」
  片付けなきゃとやみくもに始めてみてもあまりの膨大さに途中で挫折・・・という経験は誰しもあると思うが、その前に計画を立て、期限を決めてから取りかかるという「計画=オーガナイズ」が欠かせないのだそうだ。ライフオーガナイザーは、当事者が自分で整理を計画的に進めていけるように、問いかけから始めていく。コーチ役でもあり、コンサルタントでもあり、アドバイザーでもあり、その人が目標を達成するのに寄り添う伴走者のような存在。その会話のやりとりから浮き彫りになるのは、「自分はどんな暮らし方がしたいのか」「どんな生き方がしたかったのか」。人は皆それぞれ違うので、個別に紐解き、その人に合った片付け方をまずは見つけていくことが欠かせないのだそうだ。
 お話を聞いていて、「片付け」も「話し方」も似たようなアプローチが必要だということがとても興味深かった。まずは、自分と向き合って「思考の整理」からというのが共通項。混沌としているものをひとつひとつ明確にすることで分かってくるのは「自分」だ。自分が分かってくれば次の行動が見えてくる。「片付け」のアプローチからは「時間管理」「家計管理」も可能になり、片や「話し方」のアプローチからは「適切な人間関係構築」が可能になり、いずれもそこから「自分をマネジメント出来る自分」が作られる。
 田川さんは、現在、高校でライフオーガナイズの授業を持っているとのことだが、その意識を若いうちから身に付けることの大切さを伝えたいという使命感に共感を覚えた。

田川瑞枝さん なぜ、人の片付けのサポートという言ってみればとても個人的なことを手伝う仕事に向かって行ったのだろう。そのあたりを訊いてみると意外な背景が浮かび上がってきた。
  田川さん自身、この学びをする前は自分の軸が無かったのだと言う。「主婦として生活のみならず考え方も夫に依存。逆に子供達に対しては自分が守っているのだと支配的になっていました」と、とても率直にご自身のビフォー・アフターを話してくれる。
 収録後の「宝ものは何ですか?」の問いかけでは、さらに、「お母さんの言うことを聞いていれば間違いがないのよと“優しい口調で絶妙にコントロール”していたところがありました」とも。そんな自分が変われたきっかけが、「ライフオーガナイザー」の学びだったそうで、“人はひとりひとり皆違うのだ”ということや“ものごとの捉え方は思考の選択によってマイナスをプラスにも変えることか出来る”ということに気づけ、そこから、個の考え方を身につけていた子供達に逆に守られていたのは自分だったということに気づいたのだという。人は幾つになっても変われるのだということをひとりでも多くの人に伝えたい。それが活動の原動力だと紐解かれていった。

 ライフオーガナイザーは、モノに囲まれて暮らすのが必ずしも幸せとイコールではないという価値観の再構築が求められる時代ならではの役割だろう。この時代は、“みんなが幸せと言うから幸せ”という幻想から立ち返り、“自分にとっての幸せは何か”を個々が探していかなければならない難しい時代に入っている。だから、「思考の整理」が女も男も高齢者にとっても子供にとっても必要になっているのだ。

 書き終わって、おお~そうか・・・と気づく。このインタビュー後記は私にとっての「思考の整理」そのものだ。書くという作業は容易くはないが、自分がどんどん見えてくる。

(インタビュー後記 村井裕子)

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