10月18日放送

 「ほっかいどう元気びと」は、毎週おひとり、北海道で活躍する人達やゆかりある人達にインタビューする番組だ。“活躍する”と表現すると、バリバリと表舞台で目立つ有名な人を想像してしまうが、この番組はちょっと違う。目立つ目立たないにかかわらず一心に何かに打ち込み、社会や人々に影響をもたらしている人、その取り組みが誰かを幸せにしている人、住む町に光を当てて北海道を元気にしている人・・・などなど、有名無名問わず来ていただきお話を伺っている。
 大事にしている視点は、「何をしているのか」よりも「どんな思いでそれに取り組んでいるのか」。そして、そこから醸し出されるその人の生き方だ。生の声で思いを語って貰う他に、「あなたの宝ものは何ですか?」と収録後に聞き取りをしてコメントで紹介するコーナーも番組開始当時から続いている。形あるもの無いものいろいろな「宝もの」からその人の大切にしてきたものや価値観が浮き彫りになるこの紐解きとコメント作りが私はとても好きだ。ラジオで話すという緊張から解放されほっとした中でふと溢れるその人の素の思い。おひとりおひとりの心の“泉”からほんとうに「宝もの」が零れて見えるようで、人っていいなぁとジーンと来る。そして、話しながら気づきを得て涙ぐまれる方もいらっしゃる。

浅井美紀さん 今回もそうだった。
 お呼びしたのは、水滴の写真が人気を集めている帯広の浅井美紀さん 47歳。子供が独立して家を出てしばらくしてからふとカメラが欲しくなり、2012年の5月のある朝、急に思い立って一眼レフを買いに行き、マクロレンズを付けて庭の葉っぱの上の朝露を覗いたところ、そこに出現した美しい世界に感動。以来、水滴に蟻など小さな昆虫を組合せ、花を写し込み、光を取り込みながらシャッターを切るうちにこの不思議で美しい世界を誰かと共有したいと写真サイトに投稿。ほどなくして海外から雑誌掲載の依頼が来たり、国内の出版社からの依頼で「幸せのしずく~World of Water Drops~」という水滴写真集が発行されたり、写真展も道内外で催されるなど、ほんの数年のうちに「水滴写真家」と呼ばれて注目されるようになった人だ。
 そんなふうに呼ばれるのはどういう気持ちですかとはじめに訊くと、「『水滴写真家』という単語があることも私にはわからなかった」と浅井さん。ちょっと気恥ずかしく、写真家と言われるのもまだまだ日が浅いし、学校に行ってカメラを勉強したわけでもないのでちょっと申し訳ないような気がするとしきりに謙遜。ただ単にその小さな美しい世界の癒やされるような幸せ感を誰かに伝えたいというささやかな思いから、まさかこんな大勢の方々に見ていただけるようになるなんてまだ他人事のようです、と。
 それもそのはず、お子さんを独り立ちさせるために女手ひとつで頑張ってきた浅井さんは、この20年というもの仕事と子育てで時間に追われるように日々を過ごしてきたという。母ひとり子ひとりの暮らしの中で、自分のことや、ましてや趣味など考える間もなくただただ毎日が流れていたそうだ。それが、子育ての責任を果して気持ちの余裕が出来、カメラを手にした日から“もうひとつの世界”が浅井さんの中に出現する。
 今まで見ていた世界が実はすべてではなく、こんなミクロの世界の中に見たこともない美しい光景があったのかと、のめり込むようにファインダーを覗く日々が生まれたのだ。
 子育てで得られた幸せとはまた違った高揚感。その写真を見た見知らぬ人から、「仕事で嫌なことがあってもこの写真で癒やされました。元気になりました」と言われることも初めての経験。自分の表現で全く会ったこともない人の心に感動を呼び起こすことなど考えたことも無かったと話し、自分の好きなこと、夢中になれることで周りに影響を与えることの出来る幸せをもゆっくりと噛みしめているのだろうと感じられた。

浅井美紀さん そして、収録後の「あなたの宝ものは何ですか?」の質問に、浅井さんは「カメラ、マクロレンズ、息子、母親、友人達・・・」と、次々に大事なものを挙げていく。加えて、形の無いものとして「向上心も宝ものです」と。これまで自分の中で向上心は冬眠していたと話す浅井さん。独学で水滴を撮って話題になり、もっともっとより良い写真を撮りたいという意欲も大事にしたいとその思いを言葉にする。
 そうそう、女手ひとつで育てあげた息子さんは、今、お母さんのことをどう見ているのでしょう?と訊いてみると、現在26歳、独立して同じ市内で働く息子さんとのやりとりをこんなふうに語り始める。
 「写真を始めた頃は、“何やってるの?”というふうに白い目で見る感じだったのに、写真集を出し、写真展をするようになって、初めて“尊敬する”と言ってくれたんです。“母親が何かに夢中になっている姿を見るのは嬉しい”という言葉を聞いてほんとに嬉しかった」と。
 息子さんとは中学高校とあまり会話のない間柄だったと言い、写真を始めた頃に浅井さんが公園の木の根元の小さな新芽を一心に撮っているのを偶然見かけても、「おっかあ、変人みたいで声かけられなかった。他人のふりしたわ」と言われたこともあったそうだが、母親のことをちゃんと見て、気にかけていたのだろう。私は、思わず感じたままを伝えた。
 「子供の心になってみると、何よりお母さんが自分の好きなことを見つけてワクワクしているというのが一番嬉しいと思う」
 そして、息子さんも、お母さんが夢中になれるものを見つけられたことで、さあ自分の人生も思う存分生きようと思えているのかもしれませんねと続けると、浅井さんは、ハッと息を呑んで、その瞬間生まれた気づきを口にする。
 「私は、もしかして、息子に“子孝行”しているんですね」
 これまで、シングルマザーとしてすごく息子に迷惑かけたという気持ちが大きかったと浅井さんは素直な口調でしみじみ言う。
 「ずっと負い目があったんです。でも、今気づきました。“子孝行”出来てたんだ、私!」
 そして、ほっとしたような優しい笑顔で、両の目からこらえきれずに涙がこぼれる。まるで、キラキラとした“幸せのしずく”。こんな瞬間だ、私も幸せをいただくのは。
 「今日ここに来てほんとうに良かった!話を引き出して貰えて凄い発見がありました」そう掛けて貰える言葉こそ、私にとっての“宝もの”。
 やはり、人は人と生きていく中で、たとえ一期一会でも、一瞬でも、触れ合った人を幸せに出来るという実感こそが何ものにも替えられないものなのかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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