10月4日放送

 今年、私は普段あまり訪れることの無い道内の町々を廻っている。7月は白老町、9月は壮瞥町、10月も十勝清水町や中川町を訪れる。「朗読出前講座」という北海道立文学館の活動に携わり、「宮沢賢治の世界」を朗読で届けている。
 私が届けたいのは、東北の小さな土地で生まれ育ったひとりの青年が、百年前に深く世の中を見据え、信仰を深めながら人としてのあるべき姿を追求し、銀河系としての“世界”にどう繋がることが出来るのかを突き詰めようとしたその世界観。森羅万象から受け取った目に見えない大切なものを言葉に遺したそのメッセージは、今の時代だからこそ必要だという思いで「賢治の世界」を“出前”で伝えている。
 ホールで60人という所や、図書館の二階で3、40人というこじんまりした場所もある。「マス・コミュニケーション」(=不特定多数の人々に対して大量の情報が伝達されること)に対して、出向いていってその町の人達と時間を共有する「ミニ・コミュニケーション」方式は、それとはまたひと味違った“届き方”があるはず。
 「すこしぐらいの仕事ができて、そいつに腰をかけてるようなそんな多数をいちばんいやにおもうのだ」(宮沢賢治『告別』より)という信条そのままに、まさに、かの時代に“少数派”として生きたその人物の生き方を、今に生きる“少数派”の立ち位置で、少人数に“より深く”届ける意味を突き詰めたいと思っている。

岩田徹さん これからは益々、“多数派”や“少数派”ということを考える機会も増えていくのだろう・・・そんなことを思い巡らしていた折りにインタビューさせていただいたのが、砂川市で「一万円選書」が人気の小さな本屋さん「いわた書店」の代表取締役岩田徹さん 63歳。大規模店の攻勢やインターネット旋風などの逆風にさらされる地域の個人書店をどんな思いで存続させてきたのかを伺った。
 炭鉱マンだったという岩田さんの父親が書店を開いたのは昭和30年代初め。その頃は本を置けば売れる時代だったという。跡を継いだのは平成になってから。それから間もなく広い駐車場の郊外型大型書店やインターネット・コンビニエンスストアの利便性という時代の荒波をまともに受け、「いわた書店」も各地の個人書店同様、閉店の危機に直面。店の維持で無理を重ねた岩田さんは体を壊し、ぎりぎりのところまで追い詰められたとのこと。
 そして、病をきっかけに、「大型店のベストセラー重視や売れる本を並べる量産方式で人はほんとうに必要な本に出会えているのか?」との疑問を強め、本屋の店主の気概として、「その人に合った本をきちんと届けたい」と、「一万円選書」という方式を生み出す。2007年のこと。そのアイディアが面白いと口コミで広がり、マスコミに取り上げられたことで全国から注文が殺到するようになる。
岩田徹さん 選書希望者に「今までどんな本を読んできたか?」という質問は勿論、人生に対しての問いかけとして「これからうまく年をとれると思いますか?」「幸せとは何だと思いますか?」という“哲学的”な質問までを幾つか相手に投げかけ、ファックスやメールでやりとりをし、その人にふさわしい本を一冊一冊選んで発送する仕組みはこれまでなかったもの。まさに“個別対応”。毎月何冊かを送る頒布とは違い、「あなたのために選ぶ」というのだ。
 問いかけをするのは、その人が“自分と向き合う”きっかけを作り、日頃は曖昧なままの“自分というものを知る”作業をして欲しいから。その“心を幾分耕した状態”で、良い本をじっくりと読んで貰う・・・という狙いなのだと伝わってくる。
 そして、ひとりひとりに、店主からのメッセージを添える。辛い事情や切ない感情を抱えている人、孤独に苛まれている人に、「あなたはオンリーワンの存在なのだ」ということを伝えることが多いという。「気づいていないかもしれないけれどあなたは沢山の愛情を受けてきたかけがえのない存在。まずはそんなあなたが出来る事をしていこう。そのうちにあなたにしか出来ないことが見つかるかもしれませんよ」と。
 そして、「それは僕なんです」と続ける。閉店の危機に追い詰められた自分がもがきながら自分の出来る事を探し、自分だからこその役割が見つかって今がある。そういう辛い坂道を登りきった先にはきっと自分らしい場所が見えてくるということを、自分を見失って苦しんでいる渦中の人に気づいて欲しいというのが岩田さんの根底にある。
 一緒に歩んできた奥様が言ったそうだ。「本屋の神様はいた」と。そうか、だから、試練を与えて山の上の花園まで導いてくれたのかと気づいたと話す岩田さん。
 「一万円選書」は、“あの時の自分”かもしれない見知らぬひとりひとりに、「決して独りではないという気づき」を本という智恵の宝ものを通して届けている。だから、今という時代に強く求められているのだと感じられた。

 岩田さんの「宝もの」は、「支えてくれた家族は勿論のこと、高校3年間の寮生活で同じ釜の飯を食った友人達」。その人達もずっと支えてくれたと話してくれたが、そんなひとりひとりも“近くにいる神様”だったのだろう。「自分は独り」と思っている時でも、「見ている誰か」は確実にいる。そこに気づくことでまた歩き出せる。
 岩田さんは、“地方の少数派の本屋”が、“少数派であるひとりひとり”に向き合う大切さ、そしてそれが出来る自分の幸せを何度も語っていた。
 中央が多数派だとしたら、北海道など地方はそれぞれが“少数派”だ。
 そこに生きるひとりひとりが“少数派”。
 “少数派”の誇りは、損得よりも大切なことを求めたいという思い。
 ひとりひとりはばらばらに点在している“少数派”だが、きっと地下水流のような深いところで、確実に繋がっている。それを確信させるのが、人の思いや経験がぎゅっと詰まっている「本」の役割なのだろう。
 「そうだ、繋がっている。自分だけではない」と気づくためにも、人は自分と向き合い、本と向き合い、力を得なければならない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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