8月16日放送

 「ほっかいどう元気びと」に出てくださった方はすでに220余人。
 人の中の思いや力に的を絞り、その人の人生観や価値観に触れることで、沢山のエネルギーを感じさせていただいているが、それだけでなくおひとりおひとりのお話から気づくのは、人にはいろいろな趣味嗜好、興味があるのだということ。自分だけの「視点」というのはなかなかに頑ななものだし、一方的な見方や価値観に凝り固まりがちだが、人と話すことによってそんな世界もあるのかと、動いていなかった心の中の受信機のスイッチが興味の振動で作動することがある。
 人が年を重ねていって人生が楽しいか楽しくないかは、この「受信機」の感度によるのではないだろうか。「へぇ~そうなのか!そういう見方をすると面白いのか・・・」という純粋な発見と感動を磨耗させないことが大事だなと毎週インタビューし続けて感じている。

広川啓規さん 今回のゲストが取り組む分野は、私にとっては全く意識していなかった分野。それよりも、むしろ「片付けをどうしよう」と頭を悩ませていた領域だった。視点を変えるとなるほどそういう価値が見えてくるのかと気づかせて貰った。
 札幌で雑誌の古本屋を営む「古本トロニカ」の広川啓規(あきのり)さん 40歳。
 12年の会社員としての経験の後、まずはインターネットで雑誌全般の古本屋を立ち上げ、翌年、札幌の南一条西十三丁目にある大正時代に建てられたビルが気に入って店舗を開設。札幌では他にはない雑誌を扱う古本屋として5年が経つという。
 一口に雑誌と言ってもおびただしいジャンルがあるが、かつてファッションリーダー的な役割を果たした「anan」などのファッション雑誌、広告を一切載せずに独自の編集手法を貫いた「暮らしの手帖」などの生活情報誌は勿論、音楽・映画・美術などの専門誌や図録、写真集、ミニコミ誌の果てまで、あらゆる種類の古い雑誌を目利きして買い取り、それを必要としている人に届けるのが古本屋店主である広川さんの役割。
 旬を切り取るのが身上の雑誌を、古くなった後あえてもう一度求めるというのは私にはなかった習慣。そこに何があるのかと尋ねると、「1年経つと情報が古くて役に立たないものも、20年30年が経った時に再び価値が出てくるんです」という答え。
 世相や流行は巡り来るものなので、もう一度過去の情報を振り返るということを大事にしたいという人もいるし、単なる頁をめくることでその時代にタイムスリップ出来るような面白さもありますと、古雑誌の価値をひとつひとつ言葉を引き出しながら語ってくれる。
 そして、雑誌というのは、版を重ねて増刷される小説と違い、基本的に一度世に出たら二度と出ることはない。当時出版されたものを読むしかないのだと続ける。
 「それが全部ゴミになって燃やされるのが勿体ないじゃないですか」と。
広川啓規さん 誰かがもう要らないと手放す雑誌でも、きっと誰かが何かのために必要としているかもしれない。その「必要」を満たすために、出来るだけストックして、欲しい人に渡したい。それが「古本トロニカ」のやりたいことなのだと少しずつ伝わってくる。
 その時代その時代、漂う空気をぎゅっと凝縮して誌面に閉じ込めてきたのが雑誌という媒体。それを無にするのではなく、その時々で人の手によって回していくということから新たな何かが生まれることもあるのだろう。紙媒体であるということ、そして、人の手で人に渡るということの面白さを広川さんはこんなふうにも表現する。
 「この情報が欲しい、これが見たいと手に取った一冊の中にありとあらゆる情報は詰まっている。目的の情報ではないところに案外面白いことや興味深いことを発見することもあって、それがインターネットとは違う楽しさなのかもしれません」と。
 そして断捨離の時代だけれど、「古本屋」という一時的にストックする仲立ちの存在があれば、処分したい人はそこに持ち込む。欲しい人が現れたら、そちらに回していく。そうすると結果、各家庭は断捨離になる。だから、もっと「古本トロニカ」の存在を知って欲しいと続ける。

 思えば、雑誌のジャンルは、音楽・映画・美術・ファッション・スポーツなど、人の営みの中で「余暇」や「趣味」といった分野の情報を担うものだ。戦後からこれまでをずらりと並べてみたとしたら、昭和から平成、その時代に人はどんなことに喜び、どんな暮らしを求めていたのかを知る「時代の資料」としての役割も果たすだろう。
 「過去としての情報」、もう要らないという人もいれば、その時代のその情報を「今」欲しいという人もいるというのが面白いところ。そんな、誰かにとっての「お宝」になるかもしれない幾冊かが、あちこちの家の押し入れで出番を待っているのかもしれない。
 古本という懐かしい響きではあるが、リユース(再利用)の時代である今にふさわしい活用法でもあるという気がした。

 こうやって書いていて思うのだが、人には、過去に立脚して物事を考えるのが得意な人と、振り返るよりも未来をイメージして考えるほうが好きな人がいる。
 過去の情報に意味を求める人と、逆に立脚点は今で、そこから先のイメージを組み立てて想像の世界に意味を探す人。思考の支点をどこに置くかで、人の興味や考え方は違ってくる。人それぞれ、行動も違ってくる。時々、自分と違う立脚点からものを見てみると、思いもかけない新しい発見があるかもしれない。
 人には様々な趣味嗜好があり、興味があり、価値観がある。
 だけど、自分だけの見方や価値観に凝り固まりがち。
 古雑誌の価値を考えることで、そんな世界もあるのかとまたひとつ気づかせて貰った。

(インタビュー後記 村井裕子)

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