3月8日放送

 4年前の3月11日。私達の国は、これまで私達が生きてきた中で経験したことのない大震災、そして原発災害に遭遇した。
 大きなショックと共に、「この3.11の前と後では、世界は大きく変わらざるをえない」と感じたことを今でもありありと思い出す。
 「どう変わらざるをえないのか」「どう変えていかなければならないのか」……
 未だに答えが出ず、逆にそんな問いかけも薄れていってしまうような4年という時間でもあったが、ひとつだけはっきりしているのは、あの震災以来、「自分は何を考え、何が出来るだろう」と問いかけ続けるということが私達ひとりひとりの「終わりのない宿題」になったのだということ。
 「被災地へどう関われるか、忘れないか」は勿論、「この国の暮らし方はこれでいいのか」「見失ってきた大切なものは何か」、そして「この国の進む方向は」……そんなひとつひとつを考えていかなければならない時代に私達は生きているのだと改めて思う。

土田英順さん 3月11日を前にした8日の「ほっかいどう元気びと」は、「もう一度会いたい元気びと」。2011年6月19日にお話を伺ったチェロ奏者の土田英順さん(78歳)を再びお呼びした。東日本大震災後、道内各地で被災地支援のためのコンサートをスタートさせ、この4年近くもの間、変わらぬ活動を続けてこられた方だ。
 前回、どういう思いで支援コンサートを重ねているのかという問いに対して、土田さんはこんな印象的な言葉を残された。
 「義援金を集める目的はもちろんだけれど、北海道の74歳のチェロ弾きがあっちこっちと飛び回ってチェロを弾き続けている姿が、何かの折に被災地の人達に伝わればと」
 誰かの話を聴いていて、一瞬、頭の中に鮮やかな映像が浮かび心が震えることがよくあるが、この時も、ひとりの老チェロ弾きが小さな町々で音を奏でている絵が立ち上がってきて、鼻の付け根がつんと熱くなったことを今でも覚えている。映像というより、線画で表された絵本のイメージだ。そして、その言葉の余韻もずっと心に残っている。「あなたは何が出来ますか?」という自分自身への問いかけとともに。
 「ほっかいどう元気びと」は、誰かの言葉が、誰かの背中をそっと押してあげられたり、何かに気づくきっかけになれたりという、柔らかな触発の番組でありたいと思っている。人の中の力にクローズアップして、ひとりひとりの思いのこもった言葉を丁寧に掘り起こし、「今改めて気づきたい大切なこと」をラジオをお聴きの皆さんと共有し続けていければと。
 私達皆が突きつけられた「宿題」を改めて考えるきっかけになればと、被災者支援を続ける土田さんに再びお話を伺った。

土田英順さん 74歳から78歳になられた土田さんは、お元気そのもの。不思議と4年前よりエネルギーが満ち満ちている。「なんでかわからないけど元気だね。酒も毎日飲んでるしね」と、お茶目さも変わらない。
 被災地との関わりを改めて伺うと、土田さんの支援活動は、義援金コンサートを続けるのみならず、仮設住宅に花畑を設置する支援だったり、集会所も無くなった地域にビニールハウスを用いたコミュニティスペースを作る支援だったり、時の流れとともにさりげなく、深く、被災者の方々に寄り添っている。
 そして、これも偶然の出会いだそうだが、大船渡で津波の犠牲になった女性の遺品のチェロが土田さんに託され、修理の後、支援コンサートではその甦ったチェロを奏でて祈りの曲を届けているとのことだった。

 土田さんの取り組みは、震災から何年になったから何をするということではなく、その時その時で、困っていることがあれば関わっていくということ。
  「心の復興までにはまだまだ時間はかかる。必要なところに必要な支援を届けるために体が動かなくなるまで関わり続けていきますよ」
 尚も、継続の大切さを語る土田さんに、収録後、「生きる上で大切にしていること」を訊いてみると、答えはこうだった。
 「音楽というのは汚れのない美しいもの。それに関わる人に誠実さと謙虚さという気持ちがなければ一生やっていかれない。技術でなくその人の生きざまなんだよね」
 そして、確認するように「音楽は、美しい仕事だから」と一言。

 志や理想の精神性を表す真っ直ぐな言葉が揶揄されてしまう時代が、かつてあった。
 経済が右肩上がりで成長し、世の中がお金儲けに狂乱していた時代。
 真面目が「ネクラ」と言われ、真っ当が「青い」と言われた、そんな時代。

 3.11の前と後で変わったことはいろいろあるだろうが、「大切なことを大切」と真っ直ぐに言えるようになったことも、もしかしてそのひとつかもしれない。
 精神的な「美しい仕事」を目指すとか……
  志を持って生きるとか……
 感謝の気持ちを忘れないとか……

 得体の知れない歪みが増大していく不安な時代だからこそ、そんな希望ある言葉をひとりでも多く言い続けることで、何かが少しずつ変わっていくことを信じたいと強く思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP