10月5日放送

 「ソウルフード」という言葉は最近よく聞かれるようになった単語だが、広い意味で「その地域特有の料理、郷土料理」を意味するらしい。魂の食事・・・幼い頃の記憶と結び付いて舌が生涯覚えているというイメージだろう。
 本州は岩手県生まれの私なら、秋のキノコをたっぷり入れて野外で食べる芋の子汁や、すいとんを平べったく延ばしたひっつみ汁、或いはお客さんに振る舞うわんこそば。どれも、日常の食べ物というより、非日常。人が集まったり、何かの行事の時に食べたりした思い出がある。記憶に強く残っているのは、きっと楽しかった思い出と直結しているからだろう。
 北海道で言えば、何はともあれ「ジンギスカン」。後付けたれ派と漬け込み派に分かれるが、子供の頃の思い出と結び付いているのは漬け込みタイプのジンギスカンのよう。
 こんなに狭い国土なのに、食は地域によって文化が異なるのが面白い。

松尾吉洋さん 今回の「ほっかいどう元気びと」は、昭和31年創業 漬け込みのジンギスカンで親しまれてきた松尾ジンギスカンの四代目社長 松尾吉洋さん40歳。今年春から社長に就任した若きリーダーだ。
 お名前に「羊」が付いているのですね・・・と、楽しい発見を伝えると、「そうなんです。名前を見てくれる人に相談して付けたらしいです」と松尾さん。
 滝川市の「松尾ジンギスカン」二代目の長男として誕生した松尾さんは、物心付いたときからあの芳ばしい匂いや大勢のお客の中で育ち、自分は店を継ぐのだろうとの思いで成長してきたと言う。大学卒業の前の年に、父親が若くして亡くなり、創業者の祖父に請われて北海道に戻り、「株式マツオ」に入社。社員として様々な経験を積み、副社長を経てこの4月に社のトップとして重責を担うことになる。
 社長としての責務はさぞや大変なことだろう。「あの決定はあの判断で良かったのだろうか」と夜にあれこれ考える時もあると言うが、前に進む秘訣は、「父だったら、祖父だったらどうするだろう」とイメージするとのこと。地域の人達に「松尾さんのためなら」と慕われるような人徳だったから、自分もそんな存在になりたいと言う。
 40歳の若き社長。言葉も明瞭でエネルギーにも満ちている。企業のトップとして何をしていきたいかの理念もそつがない。どこか等身大の人柄が感じられるようなお話を・・・と思いながら質問していくが、やはり思いは会社の運営のことと従業員のことという起点に戻る。先代達の育てたブランドのために全力投球の毎日なのだ。

 これからの社長業は、これまでの時代とは違った配慮や工夫が求められるに違いない。高度経済の頃の日本企業はトップダウンのやり方で、俺についてこい式でぐいぐい引っ張っていくリーダーが結果を出したが、これからのトップは牽引力を発揮しながらも様々な人心掌握が欠かせない。この人のために働きたいと皆が思えるような人間力も磨かなければ人は付いてこないし、そのために身に付けなければならない質の高いコミュニケーション力も求められる。トップとしてどういう理念を持っているかを分かりやすく説明する「伝える力」や、従業員達が何を求めているかを把握するための「聴く力」も大事になってくるだろう。

松尾吉洋さん 松尾さんの話の中にも、心を砕いているのだろうなと感じられたのは、人と人との意思の疎通の大切さだ。
 就任時に従業員へ思いを伝えるために、冊子に「三方良し」の理念を書いて渡したというのもそのひとつ。お客様のためはもちろん、地域のため、そして、売る側の自分達ひとりひとりにとっても「良し」という結果を求めていきたいという思いを込めたそうだ。
 そして、収録後の「宝ものは何ですか?」のやり取りの中で、「日本語のニュアンスは難しいですよね」と、ここでもコミュニケーションの話になった。
 「宝もの」は、放送日の10月5日が誕生日の2歳になる息子さん。来年4月にはもう一人生まれる予定と父親の顔も見せてくれ、まっすぐに家に帰って子供の成長を見るのが一番のリラックスと話す。奥様はベトナム出身の女性。経済成長著しいベトナムに興味を持って言葉を習おうと語学教室に行き、先生と生徒という立場で出会ったのがご縁で結婚。
 日本に長く住んでいたので日本語はペラペラだそうだが、微妙なニュアンスで行き違いも起きると言う。松尾さんの母親との同居での日々で、言葉の使い方で互いに感情的にぶつかりそうになると、松尾さんが「その言い方だと日本ではストレートすぎるよ」とか、「言葉はきつく聞こえるけれど、こういうつもりだったらしいよ」・・・など、間に入ってそれ以上悪化させないような配慮をするのだと話してくれた。
 とかくコミュニケーションは難しい。うちでも外でも。
 子供の成長に目を細める新米お父さんの日常や、家庭内の人間関係に気を配る様子を想像して、「小さな家庭内をおさめられないで、大きな組織をよりよくまとめることはできない」・・・といったような言葉を思い出し、エールを送る気持ちになった。

 言葉のニュアンスの違いを理解し合うのは難しいですよね・・・という家庭内での実感は、最近とみに言われるようになった「ダイバーシティ(多様性)」にも繋がる。組織内での定義付けは「さまざまな違いを尊重して受け入れ、“違い”を積極的に活かすことにより、変化しつづけるビジネス環境や多様化する顧客ニーズに最も効果的に対応し、企業の優位性を創り上げること」などと言われている。
 異文化を理解し、どうより良く交ぜていくのか。
 今後、順風ばかりではない状況の中、それは、組織の中の大勢の人達を引っ張っていく質の高いコミュニケーションのヒントになっていくのだろうな・・・と感じた。
 無駄なものは何一つ無い。

(インタビュー後記 村井裕子)

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