9月7日放送

 「ほっかいどう元気びと」で、様々な分野の方々にお話を伺ってきて早3年半。すでに180人の方にそれぞれの活動への思いを語っていただいている。
 多くの方とお会いして気づくのは、仕事や取り組みなどへの思いの深さと、世の中や社会への思いの深さとは比例しているのではないかということだ。自分が属する社会やさらには地球へ繋がる意識が高ければ、自ずと足元の取り組みも丁寧になっていく。その逆もまた然り。ラジオという媒体からそういった矜持を伝えられる嬉しさをしみじみ感じてしまう。
 先週放送の「あいの里助産院」院長の嶋本幸子さんは、「もうこの年になったら言いたいことはちゃんと言っていこうと思うの。何をって?ゼッタイ戦争はしてはダメ!」と爽やかに断言していた。すべての命は奇跡、その命の意味を考えようよ・・・という揺るぎない信念。この世に命を送り出す仕事をしてきた人ならではの説得力に共鳴するのは私だけではないだろう。
 今、世の中は、タイトロープの上を先行きの見えない不安を抱えたまま歩いているような状態だ。国が決定する先行きや悲鳴を上げている自然に対しての不安も、どこからどう手をつけていったらいいのか、何をどう考えればいいのか、焦りの気持ちが強くなるが、そんなふうに、社会や地球環境に、自分の取り組みをコミットさせている人と一人でも多く出会ってものごとへの視点を深め、共感を繋いでいくということも日々出来ることのひとつではないか。そして、それをそれぞれが出来る形でコツコツと発信していくことは必ず何かをいい方に向かわせるに違いない・・・ インタビューしながら そんなことを考えたりしている。

伊勢伸哉さん 9月最初の「元気びと」も、そんな共鳴出来るおひとり。おたる水族館の新しい館長 伊勢伸哉さん51歳。事前のプロフィールや資料を読むと、その辿ってきた道程でこの人は何をしてきたかったのか、そして尚も何をしていきたいのかが真っ直ぐに伝わってくる。
 大学卒業後に「のぼりべつクマ牧場」に 入社。熊という動物を通して北海道の自然環境を伝えたいと奮闘。その後の「えこりん村」では、家畜を通して北海道で育む命や食というものを伝え、そして2013年に水族館へ。
 その取り組む思いの強さが感じられたので、第一声の質問からいきなり深く訊いてみた。
 「これまでずっと生きものに関わる仕事をされてきて、一貫して変わらない思いは何ですか?」
 伊勢さんは、「北海道に暮らす生きものを通して、北海道の自然環境に思いを馳せて貰いたい」と言い、動物園や水族館は、自分達の暮らしと野生がどう繋がっているかを考えるきっかけとなる場。「カワイイな」や「面白いな」という発見から、「これはこうなっているのか」という気づきを得て大自然への想像を広げていていってほしいと、何度も考えては行動して獲得してきたであろう信念を丁寧に語る。放送では時間の関係上カットせざるをえなかったが、身近なホッケやカレイなどのエピソードを交えて楽しそうに海の仲間の知られざる生態も話してくれた。
 伊勢さんの視線の先には、おたるの水族館が面する日本海をはるかに越えて、果てしない大海原と丸い地球のイメージがあるのだろう。ふと真顔で言う。地球環境の劣化は深刻なところまできていて、それを元に戻すことは出来ないだろうと。「戻せる」と簡単に言うより現実味が胸に迫る。
 「だけど、今、何とかしてそのスピードを止めたい。止めなくてはならない」
 子供達の中に海の生きものが豊かに暮らすイメージが広がれば、少しずつ行動も変わっていくだろう。そのためには気づくための伝え方ももっと工夫しなければならないし、何より楽しくなくてはならない。館長としてもまだまだ学ばなければならないことも多く、スタッフ皆で力を合わせておたる水族館40周年の節目の年をより良く変えていきたいとエネルギッシュに語ってくれた。

伊勢伸哉さん 野生の生きものと向き合いながら仕事をしている人は、不思議なことに皆同じような空気を持っている。一言で言うと、きっと裏も表も同じだろうなと思わせる透明感と優しさ。
 伊勢さんへの「宝ものは?」の聞き取りに、そういうものを醸し出している心棒が伺えた気がした。
 伊勢さんの宝ものは、「百術一清に如かず(ひゃくじゅついっせいにしかず)」という座右の銘。策略をいくら巡らしても、「清い」ということには敵わないという意味で、吉田松陰の叔父で、松下村塾の創立者の玉木文之進が言った言葉だそう。
 日本の歴史好きという伊勢さん、20代の頃に司馬遼太郎さんの本の中にこの言葉を見つけ、こうありたいと強く思ったそうだ。「人には勿論、自分自身にも嘘をつかず、揺るがない信念を持って納得する生き方を自分もしていきたい」と。
 幕末から明治維新にかけての激動の時代に惹かれるものがあると話す伊勢さん。なぜ坂本龍馬ら天才達が次々に出てきて、消えていったのか。その「立場と役割」についても大いに興味があるのだという。

 取り組みや仕事を通した「立場」と、そこから繋がる社会へ果たす「役割」。
 そんな凛とした架け橋を個々の中に持つということが今まさに大切なことかもしれない。
 ひとりひとりの力は小さいかもしれないけれど、ものごとが雪崩を打つように劣化の方向に転がっていかないためにも。

(インタビュー後記 村井裕子)

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