7月13日放送

 日野原重明さんの新刊に『十代のきみたちへ ぜひ読んでほしい憲法の本』(冨山房インターナショナル)がある。日本国憲法は「いのちの泉」のようなもの、それを子どもたちにしっかりと伝えたいという思いが込められている。明日の世の中を決めていくのは子どもたち・・だから、小さな頃からしっかり考えられる力をつけてほしいという、102歳からのメッセージ。
 そう、私たちひとりひとりは次の世代の子どもたちに何を伝えられるだろう。何を遺せるだろう。いのちの泉を守りきってあげられるのだろうか。・・・あれよあれよという間に世界に覇を競う“戦える強い国”づくりが進められようとしている今、そんな“次の時代の日本に生きる未来の大人たち”のことを何度も何度も考え続けている。

藤井あけみさん 今回の「ほっかいどう元気びと」も、子どもの明日を真剣に見つめ続けている人だ。日本で初めてのチャイルド・ライフ・スペシャリストとして活動してきた、札幌在住の藤井あけみさん 54歳。
 チャイルド・ライフ・スペシャリストとは、医療にかかわる場面をはじめ、教育、保育、社会福祉など様々な場面で子どもの目線に立って思いをくみとり、子どもたちが元気に暮らしていくための支援をする専門職。アメリカ小児科学会は、「チャイルド・ライフは質の高い小児医療のために欠かせない要素である」として、医師、看護師など多くの職種で構成される医療チームの一員として活躍しているが、日本ではまだその数30人ほど。取り組みもあまり知られていないのが現状だ。
 横浜市出身の藤井さんは、夫のアメリカ留学の際にその存在を知って大学院で学び、日本に帰国。以来15年間、全国8カ所の医療機関で子どもとその家族に寄り添う支援を続け、同時に「日本チャイルド・ライフ学会」を立ち上げて、代表理事・会長としてチャイルド・ライフ・スペシャリストをより多くの人たちに知って貰うための活動にも力を注いでいる。
 今年6月で北大大学病院の勤務を一旦離れるそうだが、より一層この役割を伝えるための本の執筆や、それまでも取り組んで来た「子育て世代のがん患者」や「親ががんを患っている子どもたち」をケアする活動も定着させていきたいとのこと。
 藤井さんの視点は、「子どもは力を持っている存在」であり、その力が存分に発揮出来るように周りの大人がもっと考えなければならない・・ということに注がれている。この閉塞感漂う時代、大人も生きにくい世の中に生きる子どもたちの不安は益々増している中で、医療の中だけにかかわらずもっと広くすべての子どもたちの不安や怖れを取り除き、子どもが本来持っている力を引き出したいという熱意が柔らかい口調に溢れ出す。

藤井あけみさん 子どもは次の世代を創造し、時代を引っ張る大人になる大切な存在だ。どの子どもでも等しく、幼いうちからその感性を大切に守り、感情を受けとめ、考える力を育てていくことが欠かせない。次の時代をどう創るかの判断が出来、知恵を出せるようなそんな大人になるための大切な時期を子どもたちは生きている。
 藤井さんが学び、実践してきた「チャイルド・ライフ」からヒントになる関わり方はどういうことがあるかを訊いてみると、「それは、“選べる力”を育むこと」と真っ先に答えてくれた。人はあらゆることを“選んで”生きていく。小さいことから大きいことまで。その“力”は、鍛え育んで身につくもの。受け身=受動的ではなく、主体的な人間になるためには物心ついた頃から始めていかないと“選べる”大人になれないのだ、と。
 1歳半位の赤ちゃんの頃からそういう関わりの意識は大切で、例えば、「のみものは、オレンジジュースとリンゴジュースとどっちがいい?」とか、「どっちのくつをはく?」とか、さりげないことから子どもに「どっちがいいか?」を主体的に選ばせることで、やがて大きな選択についても能動的になっていくのだと言う。

 「どちらがいい?」という問いかけは、つまり、“考えさせる”というかかわりだ。
 「あなたはどうするのか?どう思うのか?何が好きなのか?今何がしたいのか?したくないのか?どちらの道を選ぶのか?」・・・
 ひとつひとつ選ぶということは、それらのすべての“なぜならば”という根拠を考えるということ。誰かが選んだものではない、自分が自分で根拠を引き出して決めたこと。その最大のメリットは、自分が選択したことだから責任が伴うということだ。誰かが決めたのだからと“人のせい”には出来ない。

 「宝ものは何ですか?」の藤井さんの答えは、「最も身近な家族・・友だち・・そして地球環境」。人間だけが住んでいるのではない、土や水や生物、動物で成り立つ地球。人間は破壊を繰り返してきたけれど、地球環境を大事にしないと人間自身も生きられないということを忘れてはいけない。そのために“もっとも小さなものを大事にするという考え方が必要なのだ”と語る。チャイルド・ライフ・スペシャリストという役割を生きる藤井さん。子どもたちの不安に寄り添い力を引き出すそのかかわりは、そんな“ちいさきもの”の存在がこの地球の明日にとってかけがえのないものなのだという信念が根底にあることが伝わり、いつまでも言葉のひとつひとつが心に残る印象的な対談だった。

 “明日の世の中を決めていくのは子どもたち・・だから、小さな頃からしっかり考えられる力をつけてほしい”という日野原さんの「いのちの泉」を守りたい思いと、“主体的に決められる大人になるため、選ぶ力をつけてほしい”という藤井さんの思いは共通だ。そして普遍的。
 益々、考えられる力が求められていく不安渦巻くこの時代、“次の時代の日本に生きる未来の大人たち”のために、今の大人たちが気づき、選択し、真剣にやらなければならないことはあまりにも多い。

(インタビュー後記 村井裕子)

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