6月22日放送

 「学び」というのは、学校を出てからのほうが面白いとよく言われる。そして、大人になってから取り組んだものの方がより良く身につく、と。
 私が提供している講座のひとつに「意識を開く話し方」があるが、就職前の学生から定年後の第二の人生をより良く生きようと志す人まで、まさしく老若男女が同じ教室で学んでいる。6月位ともなると、緊張していた受講生も人前で自分の思いを話すということに少しずつ慣れ、苦手だと思っていた自己表現の楽しさも感じる頃となる。
 先日、ある地方での初級講座は感動的だった。「自分と向き合い、その思いを言語化して伝える」ということの大切さを皆で共有することができた。
 宿題スピーチは「あなたが大切にしてきたことは何ですか?」
 それぞれ真摯にテーマに向き合い、考えに考えて準備をして臨んでくれたことがまず嬉しかったが、この学びを通して自分の中の何かをいい方に変えたい、自分の中の何かを跳び越えることでこれまで見たことのない新しい風景を見たいという思いが手にとるように伝わってきた。
 「話し方」に参加する人達は、話し方が苦手とかシャイでとか、自分で貼り付けたレッテルにとらわれてしまう傾向があるが、その「口下手」という人達こそ自分と向き合い言葉の発掘の方法を覚えると、ほんとうに胸を打つエピソードが出てくる。
 初回は足が震えていた60代の「自分はシャイで・・」という男性が、病気の体験から「健康」の大切さをしっかりとした筋道を立てて実直に話す。「酒の仲間は飲み会には付き合ってくれるけど、病気までは付き合ってくれない」というオリジナルの名言まで織り交ぜながら。人前に出ると緊張すると言っていた女性が、「折角の機会だから頑張って前に出て話します」と、颯爽と皆の前に立ち勇気を出してスピーチする。それを見ていた前述の男性が、「同じくシャイだと言っていたのに自分はその場で話してしまった。その姿勢の違いに感心した」とさらなる気づきを口にする。
 それぞれが、学生時代の体験や辛かった体験などを紐解き、大切にしてきたことという“宝もの”を言葉で表現。そして、「自分にとっての“大切なこと”を考えるということは、自分を知るということだと気づいた」「人の思いを聴いて共感することでさらなる視点が増える」「話し方講座は、実は“生き方講座”なのだと思った」という感想に、人はいくつになっても学びたい、変わりたい、それを分かち合いたいものなのだと改めて胸が熱くなったひとときだった。

中岡康隆さん 今回の「ほっかいどう元気びと」も、学校の学びではない“勉強”に、まさに今取り組もうとしている人。恵庭・千歳・北広島の若手農業者でつくる交流団体「ルーキーズカンパニー」の会長の中岡康隆さん 28歳。若手農家の仲間作りの目的で始まってすでに20年が経つこの組織の今年度からの会長を任された恵庭の農家の後継者だ。
 中岡さんは、「僕は人見知りが激しくて、最初は『ルーキーズカンパニー』への誘いも断っていました」と恐る恐る話す。農業自体も最初から決意があって継いだわけではなく、結婚をするにあたってその家族を持つ責任を果たすためには、目の前にある実家の家業に就かざるを得なかった、と。
 そんな中岡さんが、同じような若手農業者の集まりへ消極的ながらも行ってみると、農業の大学を出て最初から農への思いが熱い人、模索しながら自分の農業スタイルを確立しようとしている人などいろいろな人がいるという発見があり、そしてこの地域に農業に取り組む若い人がこんなに多いのだという驚きがあったと言う。
 皆で意見交換をし、地域の食育の活動をし、そして、何はともあれ農業を知ることが先決とテーマを決めて「勉強会」を開き、時には「交流会」と称して盃を酌み交わす・・・その流れの中で、「まだ“農業が楽しい”とまでは言えないが、それはまだまだ知らないことが多いからだ」と気づき、「今からひとつひとつ皆で学んでいかなくては」という決意を込めるようになったのだと話す。そして、この春から皆を引っ張り、対外的にも前に出ることの多い会長に推されたという。
 私は、口下手な人や人見知りという人が人の先頭に立つような役を勇気を持って引き受けるということにとても大きな意味があると思っている。自分に貼ったレッテルを剥がす一番の方法は、人の中に入っていって何かの役割を果たすこと。その経験をしつこく重ねることで、冷や汗を書きながら積み重ねた“経験則”が自分を救ってくれると思うからだ。

中岡康隆さん そして、仲間がいるということは一生の財産。自分ひとりでは気づかない“いいところ”や“強み”を気づかせてくれる鏡にもなる。
 この日の収録には、「ルーキーズカンパニー」の仲間数人が見守ってくれていたが、終わったあとで“中岡会長のいいところ”を訊き出すと、「どんな時でも冷静にその場を仕切ってくれるので、組織は今とてもまとまっている」と教えてくれた。「やっちゃんは、裏表もなく、いつも同じというところがいいんです」と、爽やかに、下の名前で。
 いいなあ、若き農業の仲間たち。一筋縄ではいかない産業の将来に向かって自分を確立して行く者同士。まさに同志だ。やはり、人は、人の中で育まれ、磨かれる。自分の足で立っていくためには、強い意志を自分で確立していく学びや試練が必要だが、そのためには思いを共有出来る横のつながりが欠かせないと改めて感じたひとときだった。
 仲間のひとりが、「『ルーキーズカンパニー』の会長を経験すると、なりたては全く人前で話せなかった人も、冬になる頃には素晴らしい挨拶をするんですよ」と教えてくれた。
 「ルーキーズカンパニー」は、農業者として独り立ちする前の大事な学びと人づくりのその通過点。だからこそ20年も受け継がれてきたのだと思う。

 青々と、瑞々しく輝く若き苗よ、水を得、光を浴び、養分をたっぷり吸って、北海道農業の一翼を担う1本のしなやかな稲穂となれ・・・

(インタビュー後記 村井裕子)

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