12月22日放送

 ピーター・ドラッカーが好んで引用したという3人の石切り工の話は、以前この後記でも書いた。  教会建設現場で働く石工たちに何をしているかを訊くと、石工Aは「これで食べている」、石工Bは「腕のいい石切りの仕事をしている」、そして、石工Cは「教会を建てている」と答えたという「ミッション(使命)とモチベーション(やる気)」についての寓話。石工Cは、仕事を通してその先に実現したいことがあり自分の使命がはっきりしている。自分がやっていることが社会の中でどう貢献できているかの自己認識次第で、仕事の仕方も成果も変わってくるという教えだ。

山崎明信さん 今回の「ほっかいどう元気びと」のゲストは、札幌市内でシェアハウスを経営する「株式会社 FULLCOMMISSION」代表取締役の山崎明信さん。その視点と発想の持ち方は、まさに現代の「石工C」だ。
 山崎さんは、北海道大学を卒業して東京の不動産会社で事業のイロハを学んだ後に独立、北海道に戻ってシェアハウス経営などを手がける29歳の若き起業家。その仕事への向き合い方が、まさに、目の前の“石”を切っているけれど、完成後の“教会”がイメージされていて、さらに、そこに集う人達にどういう役割を果たすことが出来るかという全体像が見えている。
 山崎さんが今取り組むシェアハウス経営の先にあるのは、「仕事を通して、北海道に誇りと憧れを作る」というビジョン。北海道で新しい仕事を生み出していく人たちがチャレンジしやすい場所を作りたいと、人が繋がっていく場としてのシェアハウスを作り、さらに、起業家やクリエイターたちが集う「コワーキングスペース」作りに尽力しているという。
 先の先に達成したい確固たる目標があるので、目の前のシェアハウス事業が仮にうまくいかなくても方法を変えればいいだけと思って始めたと、山崎さんは話す。自分の中でそこがぶれていなければ不安はない、と。
 なぜ、山崎さんは若くしてそんなふうに他者への視点がしっかりしているのだろう。どういう流れの中で人や土地へ貢献したいという考え方になったのだろう。
 「あなたの宝ものはなんですか?」の聞き取りの中で、その答えの中にヒントが含まれているように思えた。

山崎明信さん 山崎さんの宝ものは、「仲間」。大学、サラリーマン時代、そして今の仕事を始めてからも、ピンチになった時には必ず仲間に助けられてきた、と話す。
 「仲間に恵まれているのは、山崎さんの中に何があるからだと思いますか?」と問いかけると、「僕は、思っていることを率直に言えるのがいいのかもしれない」と山崎さん。
 「率直に」というのは、うまくいかない時には、「うまくいかなくて」と正直に言う。助けて欲しいという“ヘルプメッセージ”を素直に伝えるということだそうだ。そうすると、誰かが必ず手を差し伸べてくれるし、逆にその人が大変な時には全力でなんとかする。そういういい循環に気づいたのだ、と。

 なぜ、そんなふうに他人に素直に思いを言えるようになったのか。心にふと湧いた疑問を山崎さんに投げかけてみると、山崎さんにとって、それこそ“シェアハウス”がもたらしてくれたものだったと言う。東京のサラリーマン時代に住んでいたシェアハウスでの経験。そこでは、そこに暮らすひとりひとりが順番に思いを話す“家族会議”と称した時間を定期的に取っていたそうだ。例えば誰かが「うまくいっていなくて」と話すと、聴いている人たちがその人のために何かしてあげたいという気持ちになり、話を進めて行く中で何らかの方法が誰かから出されたり、体験談にヒントが含まれていたり、行動へのサポートが生まれたりすることで沢山の解決に繋がり、話し手の心境にも大きな変化が出てくることが少なからずあったのだそうだ。互いに思いを伝え合い、そこから支え合うということがスムーズに出来ることがとても新鮮な発見だったのだと言う。
 そういう関わりの中での大きな気づきは、「人を支える側の心地よさもあるのだ」ということ。その「困っている人のために何かをする」という心地よさを覚えた山崎さん、それまでは思いを吐き出すことは恥ずかしいことと思っていたそうだが、素直に自分でも「困っていることは困っている」と言えるようになったのだそうだ。

 ひとりで頑張らなきゃと肩ひじ張ると、「支えて貰うのは申し訳ない」と思いがちだが、目の前の人を支える経験をすることで、「してあげることって、こんなに気持ちがいいんだ」と気づき、自分も支えて貰っていいのだと、素直な心を開くことが出来る。
 「シェア」というのは、「分かつこと、共有すること」という日本語の意味があるが、弱い部分も分け合って、「頼れる人のいる有難さと、人に頼られる嬉しさを実感する」そんな意味合いもあるのかもしれないと感じた。

 思いや考え、持てる力を「分かち、共有する」。
 そういう繋がりの場を作って発想や力を掘り起こし、北海道の仕事をもっと魅力的なものにしたい。そんな人たちのチャレンジを応援していきたいという夢を持つ山崎さん。
 これを読んでいる皆さんは、ご自身が取り組んでいる仕事の遥か先にどんな“建物”をイメージし、そこに集う人たちに何を感じて貰いたいと思っているだろう。
 「どんな仕事を?どんなふうに?それはなぜ?・・」と、心の中の“石”をひとつひとつ切り出し、そして時にはそれを外に出して表現し合ってみることで、さらに新たな役割や使命を多くの仲間たちと“シェア”できるかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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