9月8日放送

 私ごとだが、一般の方々対象の「話し方講座」をスタートさせて、かれこれ8年。この「声と言葉の自己表現で思ったことを的確に伝える」スキルを身につける「話し方」への取り組みを振り返ると、この間、世の中の求めるものが確実に変わってきたのを改めて実感することができる。
 ひと昔前は「自分がどう話すか」ということに重点が置かれ、人前であがらずに話すスピーチ力や自信に溢れた声の出し方など身につけたいという要望が多かったが、ここ数年は、さらに、人の話をきちんと聴けて人の力を引き出す「コミュニケーション力」を付けたいという要請が多くなり、オリジナルで組み立てているカリキュラムもコーチングスキルをプラスし、相互尊重の対話力を身につけるという方向に変化させつつある。
 そして、学校の先生やPTAでの講演依頼も、「質問力や人の中の力を引き出すコツ」を伝えて欲しいというリクエストが多くなったのもここ数年。時代は、人の中の力にクローズアップして、潜在能力を引き出すことが不可欠。そうして、この逆風の時代を力を合わせて乗り切ろうという、「相互コーチ」の時代な のかもしれないと感じている。
 今や何の分野の仕事であろうが、人が人の能力を発掘し、自分で考える習慣を付けさせ、自分で人生を構築していく力を装備させていくことが欠かせない、そんな時代。

黄川田賢司さん 「ほっかいどう元気びと」の今回のゲストは、元コンサドーレ札幌のFWとして活躍した黄川田賢司さん、38歳。引退後、音楽関係の仕事を経て、もう一度サッカーに関わる仕事をしようと「一般社団法人 スポーツボイス」を2011年に立ち上げ、代表理事として東京と北海道を行き来しながら、プロスポーツ選手だからこそ出来る子ども達の育成の活動に携わっている。
 黄川田さんに、そんな取り組みで気づいた「子どもの中の力を引き出すコツ」を訊いてみると、指導者としていつも考えている事らしく、簡潔に語ってくれた秘訣は大きく2つ。
 決して「甘やかさないこと」と、「チャレンジしたことに対して共に喜び、ちゃんとほめてあげること」。
 子どもにとって欠かせないのが「成功体験」。たとえ失敗してもチャレンジすることの大切さを繰り返し伝え、出来たことを見逃さずに手放しでほめる。その小さな成功実感を積み重ねた子どもは次もやってみよう、きっとうまくいくという気持ちになる。それが、夢を叶えようとする原動力になるのだと。
 そういった子どもへの指導は勿論だが、地域で頑張って関わってくれている「お父さんコーチ」達の意識も、頭ごなしに怒鳴りつけたり押し付けたりする「昔ながら」のやり方ではなく、自主性を育てるものに変革していきたいとも話す。

黄川田賢司さん その、「引き出され」実感は、自分もやる気や力を発掘された経験があるからこそ。
 語ってくれたエピソードはこんな内容だった。元日本代表監督である岡田武史氏が指揮していたコンサドーレ札幌時代のエピソード・・・一通りのことがこなせて無難にプレーしていたが、ある日、突然レギュラーを外された黄川田さんは、納得が出来ずに岡田監督に訊きに行く。「なんで外されるのか」と。自分では理由が全くわからない。監督は言う。「そうか、お前、わからないのか・・お前は何が得意なんだ?得意なことを表現出来ないんだったら、お前なんてただの下手くそだよ」と。
 黄川田さんはその時ハッとして、「そうだ、無難にプレーするのが自分のスタイルじゃない。リスクがあろうが果敢に攻めてチャレンジするのが、自分の持ち味だった!」と気づいたという。そんな強みを持つ選手が無難に立ち回っても誰も見たくないし、チームのプラスにもならない、と。素直な黄川田さん。
 岡田監督は面と向かって言ったそうだ。「だから外したんだけど、それがなにか・・?」
 まるでそのやり取りを目撃しているかのよう。あの「岡ちゃん」の眼鏡の奥の笑っていない目が見え、独特の口調まで聞こえてくるようだった。

 黄川田さん、収録前に私の名刺を見て、「緊張しますね」としきりに言っていた。「声と言葉の自己表現 村井塾」なんて、話す時に全部中身を見透かされたら怖いな、と。FWでゴールにガンガン向かっていた元サッカー選手の額にちょっと汗。
 いやいや、そんなことはないですよ。そんな透視能力はありませんから 。気づいたら全部正直に話してしまっているだけですよ・・とちょっと冗談を交わしながら収録。
 見透かすどころか、黄川田さんの透明でまっすぐな思いが伝わって、とても気持ちのいい時間だった。
 なぜ、清々しいのか?そう、「素直」というもうひとつの持ち味をフル活用し、自分の仕事を、自分自身を信頼しているからだ。
 「自分が携わった仕事で還元したい。技術も心の持ち方も、誰しも経験できることではないから」という言葉は、プロとして培ったぶれない矜恃があるからこそ。

 真っ直ぐ語ってしまった居心地悪さを隠すように「以前はもっとやんちゃだった」としきりに照れ笑いをしていたが、その心の変遷はどんな過程を経てきたのだろう。
 「宝ものはなんですか?」のやり取りの中で紐解かれたのは、北海道時代に出会った多くの人達の影響力。様々な分野の第一線で活躍していた人たちの価値観に触れるうちに、考え方が成長していったのだという。
 曰く、「人の出会いで無駄なものは一切無い。かつて、この人、いやだなと思ったのは、その時の自分が未熟だったから。苦言を呈してくれたことも振り返れば大きな気づきに繋がることばかり」。そして、「その人が悪いのではなく、モノや環境や人のせいにしていた自分に原因があった」と気づけたことが有難かったと。
 宝ものは「人と人とのつながり」という言葉を聴きながら、多くの若い人たちや子供たちに、黄川田さんならではの持ち味に是非触れて欲しいと思った。

 可能性を花開かせる人のかかわりの循環。
 「夢なんて叶うわけがない」というあきらめの悪しき循環を断ち切れるのは、そういう小さな気づきをつないでいくことなのだ。

(インタビュー後記 村井裕子)

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