3月31日放送

 サッカー女子、ヤングなでしこの成長株である田中陽子選手が、ある日インタビューでこんなことを言っていた。
 「最後は善人が勝つ」
 好きな言葉はと問われて答えた言葉だったと思うが、若いながらも発信する言葉を持っていることに驚いた。そして、スポーツ技術の育成だけでなく日々の取り組む姿勢がきちんと育まれていることが伝わってきて、女子サッカーがどんどん力を付けてきた理由もわかるような気がした。
 数あるスポーツの中のひとつであるサッカーの人材育成は、着実に結果を生んでいるのではないか。
 強くそれを感じたのは、日本サッカー協会副会長の田嶋幸三さんが書かれた「『言語技術』が日本のサッカーを変える」(光文社新書)という本に出会ってからだ。
 日本サッカーの底上げを目指してきた田嶋さんは、ある時「技術やフィジカルを鍛えるだけではダメだ」と気づき、サッカー指導者やジュニアの育成に持ち込んだのが「言語技術」だったそうだ。  つまり、大事なのは「いかに選手自身が考えてプレーをするか」。そんなふうに自分で判断してプレーするために必要なのは、思いを言語化する「言語技術」であり、日々の言葉を論理的に使えるように訓練を積んでいけば、瞬時に状況を捉え、論理的に判断してプレーが出来るのではないかと考え、「どうしてそこにパスを出したのか?」などの「なぜならば」を説明出来るようになるために、2006年開校の「JFAアカデミー福島」ではサッカー教育にマナー講習を始めディベート、言語技術なども学ばせるというカリキュラムを取り入れてきたのだという。田中陽子選手はといえば、その一期生だという。
 私自身「言葉」を使う仕事を続け、「言葉の発信」「話し方」の大切さを講座などで伝えている立場として、この「スポーツと言語技術」の繋がりというのはとても興味深く、やはり人の成長の土台作りにはそこが欠かせないのだという思いを強くした。

大岩真由美さん そんな中、「ほっかいどう元気びと」のゲストでやってきたのが、サッカーの女性審判として活躍した室蘭出身の大岩真由美さん。
 大岩さんには数々の「初めての」というキーワードがついて回る。「27歳で北海道初の女性1級審判員」「女性初の1級審判員(男子サッカーの審判も出来る資格)」「2007女子ワールドカップでの日本人女性として初めての主審」などなど。
 審判引退後は北海道大谷室蘭高校女子サッカー部の監督を務め、2012年に道内4大会を制してチーム初の4冠に導くなど、北海道のみならず日本のサッカーを下支えしてきた女性だ。
 出会いの喜び。私はこの番組を担当していて、ほんとうに日々それを実感しているが、大岩さんからは人としての魅力、自分軸のぶれの無さが真っ直ぐに伝わってきて、まさに「スポーツを通じて自分を鍛え、人間力を磨いてきた人」に触れることの出来た、爽快なひとときだった。
 大岩さんの中には、これまでの経験で育んだであろう「審判という軸」と「コーチという軸」がある。
 心に響く沢山の言葉が大岩さんから溢れ出てきたが、「審判軸」からは「嘘をつかない」「公平に向き合う」「最後まで逃げない」という清廉潔白さと芯の強さが。「コーチ軸」からは「選手が主役」「ひとりひとりに役割を持たせる」「人として向き合う」という、人を信じて力を引き出す度量の大きさが伝わってくる。
大岩真由美さん 大谷室蘭の女子サッカー部員達は一生つきあえる間柄になったそうだ。多感な時期だけにいろんなことが起こったけれど一緒に逃げずに向き合ったことで「まゆさんがいたからこそ、4冠達成が出来た」「リーダーのあなたの力」「みんなの力」と言い合える関係性を作ることが出来た、と。
 「一緒に逃げずにとことんつき合う」ということは、一緒に同じ方向を向いて、ひとつひとつ考え、話し合うということだ。いろいろな会話の中で、いろいろなことを判断しあう時に、「これはNGだよね」「これはOK」という言葉が飛び交ったそうで、何が判断基準かというと、「これは人として最低だよね」とか「人としてカッコ悪いよね」或いは「人としてカッコイイよね」。
 部員達はきっと、監督大岩さんと触れ合うことで、知らず知らずに自分でものを考えて判断するという力を引き出されたのではないだろうか。真っ直ぐな「審判軸」と「コーチ軸」を備えている大岩さんから。そんなふうに思わせて貰ったエピソードだった。

 前述の田嶋さんは、指導される側だけでなく、指導する側や監督のトレーニングも不可欠と強調する。サッカーの日本人監督はかつて、「なぜあの場面であの選手を代えたのか」や「この練習は何のためにやるのか」という質問に何も答えられなかったという。監督、コーチと選手は上司と部下の関係で、そんな旧来型のコミュニケーションには沢山の不備があった、と。そして、流暢に言葉を話すということよりも「自分の考えを伝える」ことができるかどうかに力点を置いてきたというのが、取り組みの大事なポイントだったそうだ。

 これはサッカーだけでなく、すべての仕事をする人に必要なことに違いない。
 今、いろいろなことが急激に変わっている。スポーツ界もビジネスの現場も。
 新しい人材から力を発揮して貰うために何が必要なのだろう。誰でもない、意識を改革して学び続けなければならないのは、旧来型の大人なのだ。
 明日から4月の新年度。新たな気持でそう思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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