10月21日放送

 「ほっかいどう元気びと」は、おかげさまで2年目の秋を迎えている。
 最初の放送が2011年の4月3日。北海道から発信し続ける作家の小檜山博さんをゲストに迎えスタートした。
 その1回目の小檜山さんは、次のような印象深い言葉を残してくれている。
 「今の社会の基本軸は、社会が機械文明と経済を発展させ、お金ですべてが叶うという幻想の中でずれてしまっている。本来真ん中にあるべきその軸を誰かが戻さなくてはならない。青いと言われようが、ここ30年位でずれてきたものを見直したい。人生いかに生きるべきかを伝えていきたい」
 その気骨溢れる言葉に触れた私はインタビュー後記でこう書いた。
 「今、私たちの国が、未曾有の災害から立ち上がろうとする過酷な状況で、小檜山さんのこの言葉はさらに意味合いを増していくに違いないと共感し、こちらの思いも熱くさせられたインタビューだった」と。
 それ以来、毎週おひとりずつ対談を続け、80人を超える「元気びと」を数えるまでになったが、振り返ってみると、皆違ったことに取り組んでいながらも、どこかで志が共通していることに気がつく。この小檜山さんが語った「ずれてしまった真ん中にあるべき軸。そこをなんとかしなくてはいけない」という思いだ。それぞれが今の世の中の「軸」を思い、それぞれが自分の役割を果たすことで、「人はいかに生きるべきか」のヒントを周りに与えている。

松森克彦さん 今回のゲスト、子供のためのスポーツ塾を開いているNPO 羽幌町総合体育館専務理事の松森克彦さんも、やっていること、やるべきことが実に明快。
 今、そしてこれからの時代に是非とも伝えていきたいことが、大きな体から溢れていた。
 松森さんの志、それは、体力・運動能力の低下してきた現代の子供たちを何とかしたいという思いだ。
 文部科学省が行っている調査によると、子供の体力・運動能力は昭和60年頃から現在まで低下傾向が続いている。外遊びが減り、生活様式が変わり、車社会になって体を動かすことが減ったことなどが原因とされているが、松森さんによると、昨今の子供たちの中には「踵をつけてしゃがめない」「椅子に座っていても、机に身をもたれさせないと座っていられない」など、本来身に付いているはずの身体能力が充分に引き出されていない子供たちが少なくないという。いわゆる運動機能として備えておかなければならない「筋力」「柔軟性」「瞬発力」「バランス」「持久力」といったものが、体力テスト同様、日常の生活においても「黄色信号」の状態とも言えるのだろう。

松森克彦さん 松森さんの取り組みが注目を集めているのは、理論に基づいた方法である「COT =コーディネーショントレーニング」「SAQ =スピード・アジリティ・クイックネスを高めるトレーニング」を取り入れて独自にプログラムを工夫し、羽幌周辺からも通ってくる運動部の中高生の能力向上に成果をあげているというところだ。
 例えば、身体を巧みに動かす能力を総合的に身につける「COT」は、40年前、東西ドイツ時代の旧東ドイツで生まれたトレーニング方法で、サッカーのセリエAで活躍するヨーロッパ選手は小さい頃からこの反復練習をして体を鍛え、スポーツで力を発揮できる土台作りをするという。
 もちろん、日本のプロスポーツでも取り入れられているし、一般の人達のスポーツジムなどにもその理論は活用されているだろう。しかし、特筆すべきは、小さな町の体育館でそういった体系づけられたトレーニングが誰でも安価で受けられるということだ。それは、その町に意識の高い指導者がいるという賜物に他ならない。

 「体と脳は繋がっている。スポーツのためのみならず、子供も大人も、能力を存分に発揮させるために普段の生活で体を適切に動かすのはいくつになっても大事なことなのです」という松森さんの言葉に深く共感し、ともに昭和30年代生まれの同世代として、子供の頃に遊んだゴム跳びや大縄跳び、鬼ごっこやケンパ、細い川や堰の向こう岸まで飛び越える遊びもすべて大事な体作りに繋がっていたのだという話で収録後も尽きなかった。

 そして考える。
 ひ弱になってきた現代の子供たちを作ってきたのはまさに今の社会。もっともっとと快適さ、便利さ、モノを作って欲しいと欲を募らせていった「私たち」の責任だ。
 子供のために良かれ、楽をさせたい、いい暮らしをさせたいという思いが子供たちの体の本来の機能を奪っていたとしたら、なんという皮肉な話だろう。

 今回の「子供の体力・運動能力低下」というテーマの中にも埋まっていた「世の中のずれてしまった軸」。
 小檜山さんが語った「この30年」と、「体力・運動能力テスト」に現れる人間本来の能力を衰えさせていった年数の奇妙な一致。それはけっして偶然ではないだろう。
 昨今の体作りのキーワードは「体幹を鍛える」だ。これは、理論に基づくトレーニング方法で着実に成果は出せるだろう。
 しかし、「30年かけてずれてしまったこの社会の体幹」は、どうやって戻していったらいいのだろう。
 その課題自体が、今の私たちに突きつけられた、困難且つ、深い知恵の試される「再生のためのトレーニング」なのかもしれない。

(インタビュー後記 村井裕子)

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