4月8日放送

 「悲しみ」と聞くと、頭に浮かぶ歌がある。
 「hello hello」。大好きな小田和正さんの歌だ。
 琴線を震わす声とメロディーに乗って、こんな言葉が心に響く。
 「心に届くものは いつも 同じ やさしい かたちをしている
 悲しいことも いつか同じ かたちに なってゆく」

 人生は苦しいこと辛いことの方が実は多い。でも、だからこそ感受性も磨かれ、心に届くものをキャッチすることができる。深い悲しみでさえ、時間を経て同じかたちになって、心のなかにやさしい記憶として刻まれていく。
 人ってなんて愛しいのだろう、なんて強くて、たくましくて、かけがえのない存在なのだろうと思わされ、小田さんのやさしさのかたちであるこのフレーズを聴くたびに、心をぎゅっと掴まれ、同時に希望が湧いてくる。

 「悲しみ」と向き合うのは過酷だ。
 仏教の「四苦八苦」のうちの四つである「生・老・病・死」は絶対に避けて通ることができない根本的な苦しみとされるが、さらに加えた四つの苦の筆頭に「愛する人と別離する」という意味の「愛別離苦」があるというのを聞いたことがある。
 それだけ、人との別れは今も昔も変わらぬ普遍的な苦しみなのだろう。

齋藤聡さん この、人の「悲しみ」に寄り添い、支えていくケアこそ今まさに必要であるという志で活動しているのが、今回のゲスト齋藤聡さん。「日本グリーフケア協会」のケアアドバイザー特級として道内で初めて認定され、まずは「グリーフケア」の認知度を高めることから尽力している方だ。
 お話のなかで印象的だったのは、人は誰しも何らかの悲しみに遭遇する。その度合いもそれぞれ、そこから立ち直ることに要する期間もそれぞれ。各々が悲しみの過程を経て心を変化させ、時とともに自然な状態に戻る。その喪失の悲しみを受け入れ立ち直る心の作業=「グリーフワーク」を経ることによって、さらに人は「たくましく成長する」ということ。

齋藤聡さん 人は、悲しみという過酷な体験を通して、さらに「成長できる」というのだ。これは、すごいことではないか。やはり、人はすべてから学んで、成長するために生まれてきたのだろうと改めて気づく。
 グリーフケアとは、その適切な「グリーフワーク」の過程を支えて見守ること。アドバイザーはその状態にある人を支える存在ということ。齋藤さんは、ご自身の葬祭業のお仕事の傍ら「ケアも仕事の一部」と、家に閉じこもる高齢者や気にかかるご遺族のお宅を訪れては「今日は靴を履いてみませんか?」などさり気なく声を掛け、少しずつ外へ意識を向けられるようなサポートをしているという。

 愛する誰かを亡くした悲しみで前に進めなくなっている人に、齋藤さんは「周りの人たちができること」「自分自身で出来ること」、いわゆる、適切な「グリーフワーク」のプロセスを踏むための方法をいくつか話してくれたが、最もなるほどと思ったのが「思いをため込まずに吐き出す」ということだった。悲しみの壺に「蓋」をしてはいけないのだ。
 関わる周りの人たちは「もう泣いては駄目」とか「頑張ろう」「早く元気になってね」というプレッシャーになる言葉を掛けるのではなく、寄り添って、気持ちを受けとめる。話を聞いて側にいてあげるという関わり方をしてあげてほしいということ。感情を押し殺さず「泣いていいのだ」ということを伝えてあげてほしいということ。
 そして、自分自身で出来ることは、思いを素直に「書く」こと。亡くなってしまった人へ「手紙を書く」というのが、心を整理していく最もいい方法だという。書きながら半年、1年、3年と時が経つにつれて、「自分の気持ちの変化に気づく」ということが、悲しみを癒していく最良の薬になるのだそうだ。
 時間と共に、ショックや喪失、閉じこもりの感情が渦巻く過程を経て、現実を受け入れ、「その人の分までたくましく生きよう」という前向きな気持ちを自分で引き出していく姿勢が、さらなる「人としての成長」に繋がっていくのだ。
 「自分と向き合う」作業。それは、自分の揺るがない「軸」を作り、困難な体験を経て自分を高次元へと向かわせる。だとすると、何かが起こってからではなく、やはり日頃からの「自分との向き合い方」が大事な土台になっていくのかもしれない。

 去年の今頃は、大震災後の何万、何百万という「悲しみ」に日本じゅうが満ちていた。被災された方々の悲しみを思うと涙が出た。毎日、毎日、泣けた。「あの悲しみに寄り添う方法は何か無いか」と自問し、もどかしくてまた泣けた。
 今、日本全体が「グリーフワーク」の道程にある。適切なプロセスを経て、焦らず、ゆっくりと寄り添いたい。最後のひとりが「前を向き、たくましく生きよう」という気持ちになるまで。
 時間はかかるだろうが、その過程が心に沿ったものであれば、この国の悲しみは、きっと、「やさしいかたち」になっていくだろうと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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