ほっかいどう元気びと

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2020年1月12日のゲスト

中村 宏之さん
北海道ハイテクアスリートクラブ 代表/
恵庭北高校女子陸上部監督
中村宏之さん

富良野市出身 74歳。
札幌東高校、日本体育大学時代は陸上の三段跳びの選手として活躍。
大学卒業後は高校教諭として陸上部の顧問を務めながら32歳まで現役を続け、その後も指導者として多くの陸上選手を全国クラスに育てる。
2006年からは、恵庭の北海道ハイテクアスリートクラブの代表兼監督をつとめ、女子短距離の福島千里、北風沙織、寺田明日香らトップアスリートを指導。北海道から世界で活躍するアスリートの育成に力を注いでいる。

村井裕子のインタビュー後記

中村宏之さん 今回の『ほっかいどう元気びと』は、「北海道ハイテクアスリートクラブ」代表で恵庭北高校女子陸上部監督の中村宏之さん 74歳。北国のハンデを逆手に取るトレーニングを数々考案して女子短距離の福島千里、北風沙織、寺田明日香選手らトップアスリートを育成し、今尚、陸上界で世界を目指す人材のサポートに力を注いでいる。今年はいよいよ東京オリンピック、パラリンピック開催の年となりスポーツ選手達の成果に注目が集まるが、彼らを支える立場の指導者として大切にしてきたことを伺った。

 社会の有り様が刻々と変化してきている中、スポーツの世界に限らずどの分野でも大きな課題となっているのは、「人が持つ力を最大限に引き出す」ためにどういう関わりをすればいいかということだ。一昔前の“指示命令型”の押しつけなどではなく、個々がそれぞれに備えている力を発揮するための関わり、いわゆる、どの世界でも“コーチング”の概念が欠かせなくなってきている。しかし、意識変革は簡単ではない。今の世の中で旧態依然のハラスメントが次々に露呈し続けているところにその難しさが表れている。力を引き出すどころか、自信を失わせる関わりやコミニュケーショントラブルが溢れている。2020年、“後から振り返ってみたらあの時がいい方に向かう大転換点だったね”と皆で言えるように、そろそろ本気で“過渡期”に何をすべきかを考えなければならないのではないだろうか。
 陸上短距離に監督として長く携わってきた中村さんのお話からは、アスリートの育成のみならず一般社会でもヒントになる言葉を沢山聴かせていただいたが、特に印象に残ったのは「そのまま伸ばす」という至極シンプルな向き合い方だ。そこで必要になってくるのは、「ひとりひとりが持って生まれたいいところを伸ばすためのトレーニング方法は無限大」という視点と、そのための智恵。中村さんは、陸上競技にとってはハンデキャップだらけの北海道で冬にこそ出来る身体作りを編み出し、全国のアスリートや指導者からも注目を集めているが、そういう考えに至ったのは数々の失敗も含む経験則からなのだと話す。高校・大学時代は三段跳びの選手だったが、日本人選手の多くがそうだったように練習をし過ぎてケガをしてしまうという経験。それまでの練習方法や“追い込み方”が違っていたのだという気づき。心も身体も喜ぶような“活きる練習”でなくてはならないという気づき。高校陸上部の顧問として何もない中で工夫してグラウンドを作るという体験。そこから得た“何もないグラウンドには宝ものが落ちている”という大きな発見。・・・「トレーニングに常識はない。常識を打ち破ることで生み出せることがある。アイディアによって可能性は伸ばせる」と、中村さんは陸上にはマイナスでしかなかった北海道の冬をも逆手に取る室内での効率的な身体作りを生み出した背景を語る。
 そして、身体の変化のみならず、心の可能性を信じるという思いも同じこと。「フォームを変えようとして、欠点から入ってしまうと、個性を殺してしまう」と中村さん。個性を持ち合わせている子達をどう育て上げるかということと、最も効率のいいトレーニング方法をアイディアで無限に編み出すということはどちらも可能性をそのまま引き出すことなのだと話す。
 しかし、確信を持って選手達に向き合うことが出来るようになったのは40歳位から。それ以前にもがむしゃらにやっていた素質がある子がいたのかもしれないが、出会った年齢によっては十分に伸ばしてあげられていなかったかもしれないという反省点と共に、道のりの中で自分自身も成長してきたその経験則の大事さについて語る。“気がつかなかったことを気づくようになった”のは年齢のたまものだと思う、と。

中村宏之さん 指導者として大切なことは何か。・・・中村さんの答えはこうだ。
 「子供達を見てやり方を変えること。次の日は違っているものだから、指導者が変えられるかどうかが大事」
 そして、年齢と共に気づけたことは、“相手に考えさせるということ”だったと言う。言われたことをただやるのではなく自分で考えられる選手を育てる。「考える能力を指導者は見つけ出して、そっと見守っている感じ」と笑い、「『そうじゃない。それじゃダメだ』と欠点を直そうとするのではなく、『いいね』をどんどん言ってあげたい」と話されていた。
 そして、収録後に“いいな”と思った中村さんの言葉はさらにこういうものだった。
 「気持ちが支えられれば自然に欠点も自分で直せていくもの。駆けっこがダントツ速かった幼い頃の能力を“ただそのまま伸ばしてあげられる”指導者でありたい」

 人の能力を「そのまま伸ばす」という関わりは、スポーツのみならず、これから益々限られた人数で一定の成果を上げなければならない実社会でも大事な視点になっていくはず。だが、ひとりひとりの持てる能力をそのまま伸ばす関わりには新たな意識こそ必要だ。何より育成する人を“ちゃんと”見ていなくてはならない。しかも、“否定的に”ではなく、“肯定的に”という目を養わなければならない。そして、継続して変化を捉えること。“悪く変化したところ”以上に、“良く変化したところ”を捉えて伝えること。時間をかけ、手間を惜しまないこと。それだけ人づくりは丁寧でなければならないものだが、それによって実は関わる人の内面も育つことが大切なのだと、中村さんの道のりからの気づきを聞きながら改めて思う。
 人間は“クリック”ひとつで仕上がるような機械ではないし、生産性のために労働力を生み出す装置でもない。まして、簡単にAIに取って代わられるものではないはず。・・・スポーツの祭典という華々しいイベントの一方でひとりひとりを取り巻く様々なことが厳しく変化していく時代になるであろう2020年。“人を育てる”という古くて新しいテーマをしっかり見つめ直していかなければと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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