ほっかいどう元気びと

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2020年1月5日のゲスト

寺久保 エレナさん
アルト・サックス奏者
寺久保エレナさん

札幌市出身 27歳。
6歳でピアノ、9歳からサックスを始め、札幌ジュニア・ジャズ・オーケストラに参加。
13歳の時に、最年少でボストン・バークリー・アワードを受賞し、「バークリー音楽大学」のサマーキャンプに奨学生として参加。その後も、渡辺貞夫、山下洋輔、日野皓正など有名ミュージシャンとの共演やセッションに参加。
2010年高校3年生の時に、アルバム『ノース・バード』でメジャー・デビュー。翌年バークリー音楽大学に留学し、卒業後は活動の拠点をニューヨークに移し、日本と行き来しながら活動を続けている。

村井裕子のインタビュー後記

 新年明けましておめでとうございます。今年も『ほっかいどう元気びと』をよろしくお願いいたします。

寺久保エレナさん 2020年最初のゲストは、ニューヨークを拠点に音楽活動を続けるアルト・サックス奏者 寺久保エレナさん 27歳。札幌出身の寺久保さんは、9歳からアルト・サックスを吹き始めて才能を開花させ、高校在学中にアルバム『ノース・バード』でメジャー・デビュー。ボストンのバークリー音楽大学で学んだ後にジャズの本場であるニューヨークに単身移り住み、プロのミュージシャン達の中で挑戦を続けている。札幌で“サックスの天才少女”と呼ばれた彼女がどんな思いを抱いて夢に向かっていったのか、その歳月の中で何を吸収してきたのか、お話を伺った。

 寺久保さんの現在はニューヨークでのジャズライブはもちろん、ワシントンD.C.やボストンといったアメリカ国内、そして、南米アルゼンチンにイスラエルなどなど…全世界を舞台に演奏活動をし、レジェンドと言われるジャズミュージシャン達とセッションすることも多いという。なんでも、知り合いのミュージシャンのライブを聴きに行く時でも、いつ、どのタイミングで「吹け」と言われるか分からないので、チャンスを逃さないという思いで必ずサックスを持っていくのだとか。“飛び入り”がジャズの醍醐味。この娘は誰だという顔をされても吹いてしまえば受け入れられる。自分で率先してその状況を作り出すこともある・・・などという話を打ち合わせがてら聞きながら、チャンスは自分で獲りに行く実力一本の世界だなぁとその逞しさに感心しながら収録をスタートさせた。
 27歳のアルト・サックス奏者の現在の実感は、「土台を固めているイメージ」。ニューヨークではコネクションを一から実力ひとつで作らなくてはいけない厳しさがあると言い、そういう中でのライブ活動であり、飛び入り演奏の日々なのだということ。その緊張の日々の中でモチベーションを保つためには、「ちょっとでも、“今日より明日”とか、“昨日より今日”という感じでレパートリーを増やしたり、音楽を聴いたり、曲を作ることを常にしたいと思っている」と、オープンマインドの人懐っこい表情で語ってくれる。
 “プロのサックス奏者、ニューヨーク在住”と一言で簡単には言えるが、けっして簡単なことではないだろう。案ずるような気持ちで問いかけると、「全然簡単ではないですよ。みんなトントン拍子でいいねと言うけど、ほんとにニューヨークは・・・なんでも高いんです! 信じられないほど!」と、まずは生活の大変さが素直に言葉になり、「ミュージシャンの数も多いし、レベルも高いので、その中でやっていくのはほんっとに大変!」と音楽環境の厳しさが続けて言葉になる。20代の女性がサックスひとつを武器に、ニューヨークという突出した才能だらけの大都市で生きていくのはそれはそれは大変なことなのだろうと想像するが、面白いのは“大変”と語る言葉とはうらはらに口調はとっても楽しそうでポジティブなエネルギーに満ちている。若い時の挑戦は大変なこともすべて“宝”になると潜在意識が納得しているのだろう。
 そういう中で何が大事だと今実感しているのか?・・・と私は問いかける。寺久保さんは信念をにじませながらこう答える。
寺久保エレナさん 「技術が上手いことは当たり前のこと。大事なことは、やっぱり、時間にルーズじゃないこと。ちゃんと時間通りに来ること。人の悪口を言わないこと。ありがとうと言うこと。・・・そういうことが次の仕事に繋がるか繋がらないかに関係してくるということを学びました」
 それは、周りの皆のレベルが高いからこそ学んだことなのだという。特に今のアメリカのジャズシーンはそういうことが大切だと感じている、と。それなら、その高みに向かっていくために日々実際にしていることは何?・・・と畳みかけると、「ちゃんと身のまわりを整理整頓し、スポーツジムに通い、料理などの家事も少しずつちゃんとしようと心掛けている」との答え。そして、日々を丁寧に暮らすということは音楽の表現に繋がる?・・・との質問へは、「表現にも繋がると思うが、日々丁寧に暮らすことによってもっといい人間になれるかな・・・というのはあると思っています」との答え。
 こういう真っ直ぐな言葉は“宝もの”だなぁとしみじみ思う。この世に生まれ落ちた人間は“いい人間”になるために日々を過ごして一生を全うするものだと、単純と言われるかもしれないが私自身はそう信じている。そのための手段が人によって全部違う。大事なのはそれを探すこと、見つけること。寺久保さんが自分を磨く“道具”はまさに1本のサックス。それがはっきりしている。はっきりしているのがこんな言葉からも伝わってくる。
 「レジェンドと言われ、私が凄く尊敬している有名なミュージシャン達は、演奏だけではなくて、一緒に過ごすとその人の人間性に心動かされる。そういう人がほんとうに素晴らしい人だと思う」

 寺久保さんが目指すのはそういう高み。人間性の土台をしっかり作った上でのサックス奏者。札幌から単身ニューヨークに渡り、ジャズの本場で力を発揮するなど並大抵の努力では出来ないことだが、収録後の話の中で、そういう「基本を大切に、丁寧に暮らす」という考え方に辿り着いたのは、いろんなことがうまくいかなかった時に気づけたことだったとさらに話してくれた。「なんでうまくいかないのかと考えて、まずは、“いつでも準備の出来ている自分”を作っておこう。そうすれば、人からも求められるし、自信にも繋がると気がついた」と。
 それはどの世界でも同じことに違いない。技術や技能を磨くことと同時に“人間性”を磨くこと。今は変な世の中で、真っ当なことは“綺麗事”だと揶揄されてしまうことも少なくないし、志という言葉も軽んじられるような空気も無きにも非ずだが、「もっといい人間になる」「悪口を言わない」と真っ直ぐに言える人は無敵だと私は思う。それを信じて進み続ける人は、同じように人格を磨き続けて来た人達に必ず求められるのは道理だからだ。
 そんなことを大切にしながら異国の地でチャレンジを続ける寺久保さん。サックスと出会って、ジュニア・ジャズ・オーケストラがある札幌だったから上手くなることが出来た、ジャズが盛んな北海道に生まれ育ったことに感謝ですと話す言葉を嬉しく聞きながら、やはり、この土地に受け継がれてきた“開拓者魂”が確かに心棒にあるのを感じさせていただいた。さらに10年後、20年後・・・人としても、女性としても、ミュージシャンとしてもどんな年輪を刻むのか、一ファンの心境で楽しみにしていようと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

☆寺久保エレナさんの最新アルバム『ABSOLUTELY LIVE!』は初のライブ収録盤
寺久保さんいわく、「ジャズの楽しさを感じてもらえる1枚です」とのことです。

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