ほっかいどう元気びと

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2019年10月27日のゲスト

細江 真紀子さん
医療法人 重仁会 大谷地病院
第1デイケア 公認心理師・臨床心理士
細江真紀子さん

札幌市出身。
札幌南高校を卒業後、藤女子大学と大学院で福祉を学び、臨床心理士として大谷地病院に勤務。
去年、新しくできた国家資格「公認心理師」を取得し、かつて自身がひきこもりを経験したことから、病院の中に「女性のための社会復帰支援プログラム」を開設。当事者たちの社会復帰に向けそれぞれの悩みに寄り添っている。

村井裕子のインタビュー後記

細江真紀子さん 今回の『ほっかいどう元気びと』は、札幌市厚別区の大谷地病院内に「女性のためのひきこもり支援プログラム」を立ち上げ、何らかの悩みによって家にひきこもらざるを得なくなった女性達を支援する公認心理師で臨床心理士の細江真紀子さん。一足飛びに就労のサポートをするのではなく、個別の事情を受け止めながらひとりひとりの次のステップへ向けて寄り添うというその取り組みへの思いを訊いた。

 今回、細江さんにお会いし、収録中、収録後とお話を聞かせていただく中で痛切に感じたのは、今の世の中には改めてきちんと考えたいこと、考えなくてはならないことが、意識していなかった中にも沢山あるということだ。社会の変化の中で折々に浮上する言葉は枚挙に暇がないが、中には本質をぼかしてしまうものも少なくない。例えば、「ひきこもり」という言葉がそうだと細江さんは言う。すべてが“ひとくくり”にされてしまうとその個別の背景に思いが至らなくなってしまうという懸念と、「ひきこもり」という言葉を使うことで逆に支援が必要な当事者から距離を置かれてしまうのではないかという懸念から、パンフレットのプログラム名を「女性のための社会復帰支援プログラム」にして抵抗を無くす配慮をしているという。曰く、「外に出られず仕事にも行けない本人達は、自分を“ひきこもり”とは思っていない。そのレッテルを貼られることが怖い」とのこと。収録後のやりとりの中で、「“ひきこもり”は心の問題ではなく、“現象”のひとつ。世の中は“当事者が好んでひきこもっている”と思いがちだが、実際は“社会に排除されているからひきこもっている”と考えたほうがいい。居場所を失ってしまっているということ」と話されていた。「だから、個々の心の問題じゃない。社会が排除していませんか? と伝えたい」と言葉を続ける。
 ひきこもりは心の問題ではなく、それぞれに何らかの傷つく原因があってひきこもらざるを得ないのだという視点。職場や学校、家庭の中などあらゆる場から追いやられてしまっているという視点。だからこそ、“就労支援”の前に、“心の居場所を回復させる”サポートを提供しなければならないという視点。その“改めての視点”で、例えば、先頃発表されて世間をざわつかせた内閣府発表の「中高年ひきこもり61万人」という数字を見つめ直してみると、その61万のひとりひとりの背景にはそれぞれの理由があり、それは“社会がそれだけ排除している数”なのだという思いに至り、愕然とする思いになる。

細江真紀子さん 細江さんが今このような支援のプログラムを立ち上げたのは、これまでのいわゆる“ひきこもり対策”は就労への道筋を付けるものが主で、そこに向かう以前のそれぞれの傷んだ心を支えて回復させるサポートがほとんど無かったからとのことだが、心理の専門家として個々の心の傷に寄り添って守るという受け皿が今まさに必要なのだと語る。特に女性への支援に特化したのは、女性の悩みは女性が受け止めるという相談のしやすさもあるが、女性が置かれている社会的な立場などから発生する悩み、例えば、セクハラやパワハラ、DVなどから来るものや、過去に受けた虐待や性的被害を長い間抱えてきて今に至るという悩みまで、傷の深いデリケートな問題が少なくなく、とにかく女性だけの安心出来る場を作らなければと思ったからという。今年6月から月に2回のプログラムをスタートさせてからも、厳しい状況に置かれて困窮している女性達の実情を知り、女性が抱える問題の解決は簡単ではないことに気づかされたと自身の役割の再認識の思いを表現されていた。
 プログラムでは、大谷地病院に通院しているいないにかかわらず誰でも参加することが出来、まずは気軽な雰囲気の中で話をしてもらうのだそうだが、そこから、例えば、「札幌ひきこもり女子会」などの自助サークルを紹介したり、希望者には就労支援のための情報を提供したりすることもあるのだという。細江さんは、「まずは受け止めたい。守りたい。だから、とにかく1本電話をくださいと伝えたい」と力を込める。
 「患者さんが笑顔で立ち直って行って、自分の力で“今後こうします”と話してくれるのを聞くことが嬉しい」と原動力を言葉にしていた細江さん自身、「自分では“ひきこもり”とは思っていなかったが、振り返ってみると、“ひきこもっていた状態”の時期があった」という。20代の頃にアトピーの重症化で外に出られなくなり、今後どうしたらいいのかの答えが出ずに悩んでいたと振り返る。そんな時に、「これからどうするの?」「なんで働いていないの?」と周りに言われるのがすごく辛かったそうで、“ひきこもり”という状態は本人自身その解決方法が分からないから苦しんでいるのだということを今この仕事を通して伝えていかなければとも話していた。当時、細江さん自身が救われたのは、親御さんが何も言わずに見守ってくれたということ。そして、そこから脱出出来たのは、今の仕事に繋がる専門の勉強を続けるための資金面、環境面のバックアップをしてくれたことだったという。

 過去に感じた“辛さ”は、振り返ると“力”に替わっていることに気づくことがある。人によって悩みの深度や濃淡は全く違うし、真っ只中の苦しみは本人にしか分からないものではあるが、“辛さ”の経験は何かのきっかけで“バネ”になる可能性もあれば、逆に弱い人に“寄り添う”力が引き出されることもある。人には、「困難があったからこそ」発揮出来る力が備わっているのだと信じたいと改めて思う。
 もし、今、辛い心の状況にある方がいたら、細江さんのように“まずは受け止める”支援を提供する場に気軽に電話をかけてみてほしい。悩む心や傷ついた心は簡単には癒えないが、誰かが見ていてくれる、誰かがいてくれる、そんな場があるという安心感は何かを生む可能性に繋がっていく。少しずつ時間を重ねて、社会の中の悪意をも跳ね返すような力が僅かずつでも蓄えられたとしたら、いつか気づくと誰かの心をそっと支える側に回っているかもしれない。そうやって、支える、支えられるという当たり前のやり取りがさり気なく交わされることで、新たに傷つく人を生み出さないという世の中の循環を何とか作っていけないものだろうか。・・・自分自身の役割も含めて考える課題をいただいたインタビューだった。

(インタビュー後記 村井裕子)

※「女性のための社会復帰支援プログラム chou chou(シュシュ)」に関して詳しくお知りになりたい方は、「医療法人 重仁会 大谷地病院」第1デイケア内 担当細江さん(公認心理師・臨床心理士)までどうぞ。

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