ほっかいどう元気びと

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2019年7月28日のゲスト

斉藤 顕生さん
独立行政法人国際協力機構北海道センター
(JICA北海道)所長
斉藤顕生さん

札幌市出身 54歳。
小樽商科大学を卒業後、東京銀行に入行し1992年から3年間、ブラジルの現地法人に駐在員として赴任。
2001年に国際協力銀行に移りインドに約3年、所属部門がJICAに統合されてからはトルコに駐在し、2017年からは「JICAブラジル事務所長」を務めた。
今年4月、JICA北海道 所長に就任。

村井裕子のインタビュー後記

斉藤顕生さん 今回の『ほっかいどう元気びと』は、独立行政法人 国際協力機構北海道センター「JICA北海道」所長の斉藤顕生さん 54歳。前任のブラジルからこの4月に札幌勤務となり、およそ30年ぶりの故郷でJICAの理念を広く伝えるために奔走しているという。海外での経験を通して思うこと、北海道だからこそ出来ることは何かを伺った。

 JICAは開発途上国のための様々な援助活動を担っており、日本から途上国への青年海外協力隊のボランティア派遣や途上国からの研修生の受け入れなどが広く知られているが、斉藤さんは、創設23年となる「JICA北海道」を今後さらに北海道の国際協力の拠点にしていきたいという。開拓を経験したこの土地こそ途上国の開発に寄与出来る技術や人的な資源が豊富にあるということと、もう一方でJICAの経験則やノウハウを北海道の国際化や地方づくりに役立てられるということ。今後益々海外から文化も風習も違う人達が北海道各地にやって来て共に仕事をすることも増えていく中で、JICAを通じて海外事業に携わった人達の経験を各地の多文化共生のために活かしてもらえるような仕組み作りをまさに今、模索しているのだという。
 斉藤さんの描くこれからの地方のイメージというのは、「“多文化共生”・・・そんなことは当たり前だよと思える世の中」。そうなっていくと益々北海道は発展していくと思う、と。それが“当たり前”になるためには何が必要なのか。斉藤さんは、「多様性に気づくということ。そのためには、若い人達にいろいろなところに足を運び、“我々が常識と思っていたこと”は必ずしも常識ではないということなどを肌身で感じること。そういう経験の積み重ねが自分とは違うものを受け入れることになっていく」と話し、“違って当たり前”ということに気づき、新しい社会を作っていくことの大切さを語る。
 斉藤さん自身は、東京銀行に入行した後、ブラジルの現地法人に3年。2001年に国際銀行に移ってからもインドに赴任。その後所属部門がJICAに統合されてからはトルコ、ブラジルと文化も風習も違う場所で仕事をしている。その経験を通して感じたことは、「まさに世の中にはいろんな価値観と文化、バックグラウンドを持った人達がいて成り立っているということに尽きる」とのこと。それらの国民性の中でこちらのやり方を押しつけることはしないようにと気をつけていたそうだが、そんな試行錯誤の中で身に付けたコツは? と訊くと、少し考えてから、「適当・・・(笑)」。あまりガチガチに考えずに、まずは適当にというやり方が一番いいと気づいたのだという。大事なのは、「掲げる目標やゴールの共有。その上で、アプローチの仕方はその人、その国、その地域で違うということを尊重する」。多文化共生のためのコミュニケーションをテーマに話しているのだが、ふと、それは、同じ国の者同士でも同じだと気づく。なぜ分からないのか? なぜそんなやり方をするのか? なぜ私がいいと思う方法でこの人はやらないのか?・・・そんな行き違いは同じ言葉を使っても起こりがち。いや、“同じ言葉を持つ”からこそ違いを認められずにぎくしゃくしてしまうのが人間関係の難しさだ。人と人、違いを受け入れ尊重するということに関しては、異国人であれ同国人同士であれ同じなのだ。そんなことが腑に落ちる。
斉藤顕生さん 斉藤さんは、実際にそういうやり方で人々の行動様式が変わった経験を語る。インドのニューデリーの地下鉄のプロジェクト後。出来た時には市民は我先に地下鉄に乗り込み、先に座っていても弾き出されることもあったというが、何年か経つと、地下鉄は自分達にとって誇れるアセット(資産・財産)だから大切に使おう、ちゃんと整列乗車しようという意識に変わってきたという。「こうあるべきだと教えるより、自分達にとって価値あるものだと気づいてもらうことのほうが大事」と言う。
 そう、それも同じ国同志のコミュニケーションでも大事なこと。ふと、「EQ(emotional quotient)」という人間力を高めるためのコミュニケーションの学びを思い出す。日本語では「人格的知性の知能指数」などと訳され、習得したり訓練をしたりすることによって高めてくことが出来る能力をいう。自己認識を深める。感情をコントロールする。意欲を高める。共感力を磨く。社会的能力を上げる・・・など、人が内に持つ「より良い感情」を“資産”として活用するという意識付けだが、私が読んだ中でいいなと思ったのは、「自分のより良い感情を“資産”として活用することで、関わる人のより良い“資産”をも引き出せる」ということ。つまり、「自分のEQを上げていくことで、自分と関わる周りのEQをも上げていくことが可能になる」ということだ。皆にとって心地良いやり方、前向きな姿勢、明るく楽しそうな取り組み方を続けていることで、周りも“その方が良さそうだ”と思い、EQアップが伝播していく。自分のやり方はけっして押しつけず、相手のより良い気づきを引き出すような振る舞いを自分自身がすることで、時間はかかるが、“上から押しつけるやり方”とは全く違うゴールが導ける。「郷に入っては郷に従う」という言葉もあるが、さらに場を良くするために、「類は友を呼ぶ」の「類」の質を上げていくとも言えるかもしれない。
 斉藤さんは、途上国への支援についてのJICAの考え方で、「魚をそのままあげたりはしない。魚の釣り方を伝えることが大事」という援助をする側が忘れてはならない意識についても話されていたが、最も本質的なことは、人を尊重する、互いに尊重し合い、相互に高めていくということに尽きるのだと改めて思う。

 30年ぶりに出身地に帰って仕事をする中で斉藤さんが新たに気づいた北海道が持つアドバンテージは「他を受け入れる道民性」とも話されていた。他を受け入れながら一緒に成長していくということがこれから益々必要で、北海道はその優位性があるとのこと。「他を受け入れながら、一緒に成長していく」という意味合いには、結果、地域が発展するという“成長”の意味も勿論あるが、道民ひとりひとりの人間力、それを成熟させていくということに最も大きな意味があるのだろうと感じた。

(インタビュー後記 村井裕子)

※札幌市白石区本通にある「JICA北海道」では、8/31(土)に「世界ふれあいひろば2019」を開催。「観て食べて交流して、世界のとびらを開こう!」をテーマに開かれるこどもから大人まで楽しめるJICA主催のお祭り。「まずは、JICAはどんなところかを見に来てください」と斉藤さん。詳しくは、「JICA北海道」のHPでご確認ください。

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