ほっかいどう元気びと

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2019年6月2日のゲスト

鈴木 周作さん
イラストレーター/水彩色鉛筆画家
鈴木周作さん

札幌市在住 46歳。
東京のコンピュータソフト会社に勤めていた22歳の頃から独学で水彩色鉛筆画をはじめ、20代半ばから本格的に書籍や雑誌の挿絵の仕事を手掛ける。
29歳で会社を退職し画業に専念するため翌年北海道へ移住。
現在は雑誌「スロウ」に「さっぽろ市電日記」を連載するなど、市電や鉄道画をライフワークに活動している。

村井裕子のインタビュー後記

鈴木周作さん 今回の『ほっかいどう元気びと』は、札幌のイラストレーター 鈴木周作さん 46歳。30代の始めに札幌に移住してから市電と街並みを描き続け、雑誌『スロウ』の「鈴木周作の札幌市電日記」の連載もすでに13年になるという。元々は東京のコンピューターソフト会社でシステムエンジニアとして働いていたというが、なにげない流れで手にした一枚の切符によって北海道に導かれ、絵を描くという仕事にも導かれてきたという。北海道という新天地で、どんな思いで街の風景を描き続けているのか伺った。

 鈴木さんが北海道に魅せられるようになった始まりは会社に勤めて間もない頃。残業続きで心身をすり減らすような日々の中、翌日が休みという会社帰りに「どこかへ行っちゃおう」と思い立ち東京駅へ。「今夜の“北斗星”の1番高いロイヤルルームが取れたら北海道へ行こう」と運を天に任せて窓口に向かったところ、普段なら絶対に取れないはずの切符が1枚取れ、そのまま北へ向かったのだという。翌朝降り立った北海道の空気の中で感じたのは、「たった一晩で全く違う世界に来られるんだ」というこれまで体験したことのない特別な感覚。それを再び味わいたくて、それから毎月、北斗星に乗って北海道を訪れるという生活を続けたのだそうだ。来る日も来る日もシステムエンジニアとして頑張る自分が全てだと思っていたけれど一晩列車に揺られて着いた先に別世界が広がっていたのは大きな感動だったと話す鈴木さん。その心境を想像するとその時の心の振動まで伝わってきそうだ。“自分の世界は、今いるここだけではない”という心の可能性がぐっと膨らむような感覚。・・・「コペルニクス的転回」という言葉があるが、北海道という土地が持つエネルギーも大いに一役買ったのだろうと、同じく道外出身の私もそう思う。

 そんなふうに北海道に“通う日々”の中で、「会社帰りに北斗星に飛び乗るのでカメラは重いから」と12色の水彩色鉛筆を購入し、行く先々の風景を描き始めたという。その段階では上手くは描けていなかったというが、ある時、釧網本線の川湯温泉駅の喫茶店のマスターに、「絶対描き続けろよ。必ずいいことあるから」と励まされ、「いいことがあるなら続けてみるかと真に受けてしまった」と、その時の心境を丁寧に語る。
 最初はふらりと別天地を訪れ、風景を描き、その繰り返しの中で、人に会い、人に励まされ、新たな才能が人の中で育まれる。偶然の積み重ねが鈴木さんをしかるべき場所へ運び、しかるべき仕事をさせるようになったのは、目に見えない計らいだったに違いないと思うが、その流れを自分のものにするのも自分、ただ流してしまうのも自分だ。鈴木さんは、「折角の出会い。偶然にでもそういう出会いをいただいたのなら、絶対にあきらめてはいけない。そこからは自分で無理してでも頑張って貫くことが大事」と思って続けてきたのだという。
 よく、“ご縁があった”という言い方をするが、その縁と出会うのは一瞬の出来事。それを一生ものにするかどうかは自分次第。“導かれるまま”というのはただ流されるというのではなく、導かれた道々でどう力を注ぐかを考え、動き、考え、また動き、その繰り返しの先にようやく何かが待っているものなのだろうと改めて思う。

鈴木周作さん 表現されたものにはやはりその人自身が宿るもの。鈴木さんの手による水彩色鉛筆画からは、緻密さや細やかさ、そして、真面目さが伝わってくる。写実的でもあり、同時に何らかの物語も感じられるような1枚1枚にはどんな思いが込められているのか興味が湧き、そのあたりを言葉で表現してもらうと、「写実と想像力、その両方のギリギリのバランスが大事。精密に描きすぎると逆に観る人に伝わらない。緩めるところは緩め、省略するところは省略する。そうやって画面全体のバランスを見ながら、ストーリーや空気感を掴んで描いていく」とのこと。大事なのは“観る人”であり、観る人が絵に入っていける余韻を大切にしているのだと強調されていた。
 “観る人”がどう感じるかを重視しているという鈴木さん、収録後にもその気持ちの背景を訊いてみると、「自分がこう描きたい、こんなものが描けるという自分の目線ではなく、常に相手の目線に立ちながら、自分を突き放して描いています」との答え。例えば、「人が“あったかい”と思う絵ならどういう要素が必要なのかをひたすら考え、そこにストーリーを膨らませるということ」だという。地方の駅舎の前に犬がひなたぼっこをしている構図のポストカードを例に取り、自分が「この犬可愛い、ほっこりする、描きたい」と思って描くのではなく、「観る人があったかいと思う要素として犬をどう構図に入れるか。そこからどんなストーリーを持たせるか」というアプローチをしていくのだそうだ。

 「相手の目線で」「自分がではなく、相手がどう思うのかが大事」・・・というのはインタビューのノウハウにも似ているなと、ふと思う。インタビューは、「自分が訊きたいことを訊く」のではなく、「相手がどういう思いを持っているのか」を緻密に観察しながら言葉を引き出していく作業。「自分を突き放してみる」というところも似ているかもしれない。ノンフィクション作家の沢木耕太郎さんは、「インタビューとは、話す相手の湖に水路を繋ぐことである」という表現をされていたが、まさに、訊き手が自分勝手に“水路を繋ぐ”のではなく、相手の思いが溢れるポイントを見定め、湧いて出てくる言葉を汲みながらストーリーを浮き上がらせる役目だ。しかもラジオは、ゲストの向こうにいる聴き手の目線にも立たなければならない。話し手の中から溢れた物語をリスナーが受け取りやすいようにどう渡せるか、だ。その両方のバランスは未だにとても難しい。そして、“相手の目線”に立つために必要なのはインタビュアー自身が目線を養い続けるということ。それ無しに、“湖”の深いところなど到底汲むことは出来ない。・・・いやはや、どんな仕事も深めていこうとするとこれでいいという果てなど全く無いものだと書きながら気づく。
 そして、「常に相手の目線に立って」「自分自身を少し突き放して」・・・というのは、絵やインタビューのみならず、どういう仕事でもどういう信頼関係でも最も大切な基本だ。自分の中にしっかりとした“ものの見方”を持った上で、けっして“我”にとらわれずに相手の“ものの見方”を理解しようとする心。あらゆる人間関係、そんなシンプルな基本にたえず立ち帰りたいものだと、絵を描く鈴木さんの視点から今回はそんな触発をいただいた。

(インタビュー後記 村井裕子)

※鈴木周作『市電日記 2019 スロウな電車の原画展』は、6月3日から15日まで、札幌市中央区南15西15「ギャラリー土土」で開催。市電に乗って出掛けてみてください。

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