ほっかいどう元気びと

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2019年5月5日のゲスト

今川 民雄さん
NPO法人「チャイルドラインほっかいどう」代表理事
今川民雄さん

東京都出身 71歳。
北海道大学大学院で心理学を学び社会心理学・臨床心理学の道へ。
北海道教育大学旭川校に勤務していた30代後半から「旭川いのちの電話」に関わる。
2002年に北星学園大学大学院の教授として札幌に移り住み、翌年から「チャイルドラインほっかいどう」の前身である「チャイルドラインさっぽろ」の発足とともに活動に参加。
現在は代表理事としてボランティアを育成し支えている。

村井裕子のインタビュー後記

今川民雄さん 5月5日のこどもの日の『ほっかいどう元気びと』、ゲストは設立15周年を迎えたNPO法人「チャイルドラインほっかいどう」代表理事の今川民雄さん 71歳。社会心理学、臨床心理学を専門とされ、大学や大学院で教鞭をとられる一方、旭川では「いのちの電話」に、札幌への赴任後は子供専用電話の「チャイルドライン」の発足に関わり、多くのボランティアを育成されてきたとのこと。悩める人の話を聴くことで心を支える活動を長年にわたって牽引されてきたその原動力を伺った。

 子供専用電話「チャイルドラインほっかいどう」には、電話をかけてくる子供達に対して安心して話してもらうための約束があるという。「秘密は守るよ。名前は言わなくてもいい。どんなことも一緒に考える。切りたいときには電話を切ってもいい」という4つ。その約束を守りながら、「傾聴技術」の研修を受けたボランティア達が電話の“受け手”として活動を続けている。その電話の意義を今川さんの言葉にしてもらうと、「子供達が直接自分の内面を打ち明けて話せる場。心の居場所」。親にも先生にも誰にも話せないこと、悩みや不安もチャイルドラインの中だったら話せる。そういう場として機能していると。
 その、「子供が自由に話せる場」で受け手が心掛けていることは、悩みを“解決してあげる”のではなく、“話してもらうこと”。話をしていく中で子供達が自分で解決を見つけ出していくというプロセスを何よりも大事にしているという。人は話を聴いて貰えると、内面でぐるぐる回っていたことが整理されてくる。その整理のために“話してもらう”という、日常ではあまりしていないことをボランティア達は学び、時にはロールプレイのように練習を積み重ねた上で電話の向こうの相手と向き合っているのだそうだ。子供達が“大人からの質問に答えなきゃ”と身構えるのではなく、何を話してもいいんだよということを言葉ではなく雰囲気で伝えることも「傾聴技術」のなせる技。何より、受け手が信じているのは、「子供の中には自分で解決できる力がある。解決できないことがあっても周りの大人に相談できる力を持っている」ということ。その力に気づいてもらうためにも話を聴くということなのだそう。そうやって寄り添っていくうちに、ふいに子供の声のトーンが明るく変わる時があり、それは受け手にとってとても嬉しい瞬間だという。見えない相手の思いを真剣に受け止めている方々にとり、そんな声の変化はどれほどほっとするものかと想像する。

 そんなふうに“人の中の力を引き出す”「傾聴技術」、日々のコミュニケーションに活用出来る事はありますかと尋ねてみると、日常は相手の気持ちをそこまで第一に考えるわけでは必ずしもないので難しいですとの答え。普段のコミュニケーションは「ストーリー中心」だから“何があった?” “原因は何か?”の話が中心。チャイルドラインの受け手はそういう日常と違って「思いを語ってもらう」ところに焦点を当てるためにしっかりと“聴き方”を身に付けるのですと話されていたが、普段の心構えとして唯一出来ることは? とさらに訊いてみると、「大事に思っている人の話は一生懸命聴くということでしょう」とのこと。「大事だと思えば、傾聴が必要だということを理解出来る」と。まさにそう・・・。今川さんの“引き出し”から繰り出されるキーワードには、ちょっと視点を変えれば何かがより良く変わっていきそうなマジックワードが含まれている。
 大学で教鞭をとる傍ら、「旭川いのちの電話」から始まりチャイルドラインという心をサポートする場づくりに力を注いで来られたのはどういう思いからなのだろう。最初は、「悩みを抱えた人達に関わりたい」と心理学を学び始め、その専門性を実際に生かさなければとの志で実践してきたとのこと。「いのちの電話」に最初に関わった時に、「専門性だけでは駄目。わかり合える言葉を使わないと通じない。通じない言葉を使っている私のほうがまずい」と気づいた経験も今に生きているのだそうだ。
 この3月で大学は退任され、今後はさらにチャイルドラインに力を注いでいきたいとのこと。今年もちょうどボランティア養成の申し込みを受けている最中なので、少しでも関心のある人にHPを見てほしいと話されていたが、「もっと仲間が増えてほしい」と思いを込める今川さんの願い・・・ラジオから多くの人に届いてほしいと思う。

今川民雄さん さらに収録後にも子供達に寄せる思いをあれこれ聞かせていただいたが、チャイルドラインに取り組む今川さんにはもうひとつ大事な役目があるのだそうだ。それは、「ボランティアの人達の心を支えること」。今川さんは言う。受け手が辛い気持ちになる電話も時にはあるし、対応した子供のその後を心配する思いになる時もある。自分の聴き方はほんとうにあれでよかったのか、もっと違う受け止め方が出来たのでは・・・など、モヤモヤも残ることもあると。そういう電話の後で、受け手の思いをちゃんと受け止めることも大事なのだそうだ。ボランティアの人達が親身になって子供の声に耳を傾けるように、今川さんはボランティアの人達の話に耳を傾ける。相槌を打ち、モヤモヤを話させて、時には「大丈夫ですよ」と言葉をかけるのだと。
 話を聴くことで人を支える人がいる。その支えた人の話を聴くことで支える人がいる・・・。「チャイルドライン」というのは、そんな風に見えないところで子供を支えるための人が何重にも繋がっているのだということにふと気づく。そこに介在する“話す、聴く”という人間の最も根元的な行為。それをもっと日常でも大事にしなければと改めて思う。
 そして、そんなふうに傾聴技術を学んで頑張ってくれていたボランティアが途中で辞めてしまうことがとても残念ですとポツリと話されていた。いろいろな都合や事情もあるので仕方がないのですがと言いながらも切ない思いが伝わってくる。
 取り組みは違うが、講座や研修を15年続けてきた私自身も、学びの途中で“辞めていかれる”ことの切なさは痛いほどよくわかる。それぞれの都合も事情もあると納得しながらも、もっと出来ることは無かったかと寂しさを引きずる時期もあった。ただ、様々な心理学の本を読んで、自分の受け止め方を変えればいいのだと気づき、「100パーセントの人に受け入れられることを望むのではなく、その中の30パーセントの人に深く受け入れられることを良しとしよう」といった考え方で随分割り切れるようになっていった。だから続けてこられたし、確かに学び甲斐を深く感じて10年15年と続けてくれている人も少なくない。とはいえやはり寂しさは残る・・・と心の中で思っていると、今川さんから素敵な言葉が。
 「でも、そうやってチャイルドラインのボランティアをするために傾聴を学んだ人達が、辞めても自分の身の回りで少しでも役立ててくれていればいいなと思います」
 頭の中にライトがピカッと光る。そう・・・大切なのは考え方を切り替える智恵。そういう心のスイッチング方法を広めていくのも心理学の役割でもあるのだろうなと腑に落ちる。早速、私の“引き出し”の中にもその素敵なマジックワードを備えることにした。
 「私の講座での学びが、たとえ途中であってもそれぞれの日常で何かしら役立ててもらえていればいい」と。
 人の心が癒され、前向きになる考え方や方法は、人から人へ伝えられ、混ぜ合わされた上でまた手渡されていく。この後記を読んだ方にもほんの僅かでも何かしら伝わればいいなと思いつつ書いている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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