ほっかいどう元気びと

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2019年3月31日のゲスト

來嶋 路子さん
「森の出版社 ミチクル」代表
來嶋路子さん

東京都出身 46歳。
「美術手帳」の副編集長を務めるなど、東京の出版社でアートやデザイン関係の書籍や雑誌の編集に携わっていたが、東日本大震災をきっかけに夫の実家がある岩見沢に移住。出版社に籍をおきつつ在宅勤務という形で仕事を続けた後、フリーランスとなり、2015年に「ミチクル編集工房」をたちあげる。
翌年、「エコビレッジをつくりたい」と岩見沢市の宮村地区に山を購入。2018年に「森の出版社 ミチクル」をスタート。夫と3人の子供たちとの暮らしを楽しみながら本づくりをしている。

村井裕子のインタビュー後記

來嶋路子さん 今回の『ほっかいどう元気びと』は、岩見沢市美流渡の「森の出版社 ミチクル」代表 來嶋路子さん 46歳。2011年の東日本大震災を境に東京で子育てをすることに難しさを感じた來嶋さんは夫の実家のある岩見沢に家族で移住。その後、思いがけずに近くの山を買い、その体験を小さな本にするなど、北海道での暮らしと仕事を満喫しているという。山あいの小さな出版社を通して叶えていきたいこと、大切にしたい思いを聞いた。

 「山って案外買えるものなんですよね」と、皆から驚かれる“山の購入”に関して來嶋さんは楽しそうに話す。せっかく北海道で暮らすのだから自分が出来ることは何かと考えているうちに浮上したとのこと。東京から来る友人知人達がリフレッシュ出来るエコビレッジのようなものを作りたいと思い場所を探したところ、不動産としての土地を購入するのはかなり高額。しかし、いろいろな人の繋がりで、山なら“中古車一台分”で買えると知って、それは面白そう!と決めたのだという。
 これまで東京の出版社で「美術手帳」の副編集長を務めるなど、アートやデザイン関係の書籍や雑誌の編集に携わってきた來嶋さん、がらりと仕事環境も生活環境も変わったわけだが、山を買ったことを思いの外面白がってもらえて、その体験を書こうと小さな本『山を買う』を作ったり、北海道に住む私達が当たり前すぎて見過ごしている春のふきのとうに感激して切り絵の小さな絵本『ふきのとう』を手がけたりするなど、身のまわりに起きる“流れ”をナチュラルに楽しんでいる様子。「北海道で暮らすイメージもビジョンも全く無く移住してきた。その時々の“楽しそう!”という思いを次に繋げているだけです」と言うように、感性のアンテナを研ぎ澄ませているうちに次の展開を引き寄せる人なのだろう。
 本作りに関しては、自然や植物だけでなく、人にもスポットを当てたいという思いで目下編集を進めているのは、道南のせたな町の農業グループ「やまの会」の人達を取材したもの。その生き方は“哲学者”そのものと言い、これまで取材してきたアーティスト達とどこか通じる“本気度”を90頁の本で伝えたいと話されていた。
 本の編集や出版は、東京という大都会だけでなく、たとえ過疎地からでも、その地方だからこその話題を、その場所のやり方で発信できると思うと話す來嶋さん、「そういう話題は東京にいったん持ち帰って出版すると、どうしても“熱量”が下がる気がする。だから、発信も北海道からしていきたい」という言葉に共感を覚えた。

來嶋路子さん 収録後、目標を設定せずに、自分にとってこれという流れを引き寄せる秘訣をさらに伺うと、「森の出版社 ミチクル」のロゴマークになっている“耳をすましている”女の子の絵を差し示して説明してくれる。「ミチクルのテーマは“耳をすます”。耳をすませてものごとをキャッチし、人の言うことを素直に聞いて行動に移すことで人生はうまくいくと思う」とのこと。それは、北海道に来て身に付いたことだとか。東京ではもっとピリピリしていました、と。「山を買うなんて・・・(あり得ない)」ではなく、「山を買えるなんて面白い!」と、耳をすませて、キャッチしたものを、素直に受け入れ、行動してみる。それが山あいに移住してきた今の心地良い生き方なのだと話してくれた。
 人の中の“熱源”はそうやって“素直さ”と“興味”から生まれ、地熱のようにその地域も温めていくのだろう。住んでいる私達も気づいていない感動を発掘し、出版という発信で見せてもらえるのを楽しみにしようと思う。

 地方からの“熱い”発信に、こうやってこの番組がちょっとでも関わらせていただいていることはとても嬉しくエキサイティングなことだが、つい先日、そんな地方からの発信のひとつである“静かな熱が込められた”映画を観る機会があった。番組に2014年と17年の2回出ていただいた室蘭在住の映画監督 坪川拓史さんによる『モルエラニの霧の中』。室蘭始め西胆振を舞台にした7章からなるオムニバス映画が5年をかけてようやくこの春完成となり、上映会が開かれたのだ。とにかく制作年数が長くかかるのが坪川監督の映画作りの特徴。インタビュー時も、「完成まで村井さんも長生きしてください(笑)」と言われていただけに、まるで遙かなる長旅をしてきた息子が忘れた頃に帰ってきてくれたみたいに(?)感慨もひとしお。そして、その室蘭周辺のそこここが映像の世界で様々な顔を見せる7つのストーリーは、物語の縦糸と横糸が絶妙に繋ぎ合わされて心の深いところに届き、「生きること」の切なさや愛おしさ、「いのちの意味」「永遠」といった深遠にも触れたような、とても上質な時間を堪能させていただいたのだった。
 そして、地方の発信には、その発信を支えたいという“地域の人達の熱”というのが確実にある。そんなことにも触れ、それぞれの“ふるさと”が発信出来ることは何だろうかというこれからの地方の可能性を考える機会にもなった。
 坪川さんの「映画」、そして、來嶋さんの「出版」という文化の発信、そして、その他にも北海道には自然、食、文学、フロンティア精神・・・などなど、誇れる“ツール”が沢山ある。耳をすますと、まだまだ「こんなものもあったのか」という驚きが発掘出来るかもしれない。

 『ほっかいどう元気びと』は、そんな、人の熱い発信にエールを送るような番組でありたいと、9年目の春に向けて思いを新たにしている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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