ほっかいどう元気びと

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2019年3月3日のゲスト

青木 茂さん
第61次南極地域観測隊長/
北海道大学 低温科学研究所 准教授
青木茂さん

東京都出身 52歳。
京都大学、九州大学で世界各地の海洋について学び、東京の国立極地研究所に勤務。1997年、第39次南極地域観測隊越冬隊員として参加してから本格的に南極研究に関わる。
2003年に北大低温科学研究所に移り、特に南極海と南極の気候の変動の実態とそのメカニズムついて研究、南極への渡航は10回を数え、今年11月出発予定の第61次南極地域観測隊では隊長を務める。

村井裕子のインタビュー後記

青木茂さん 今回の『ほっかいどう元気びと』は、第61次南極地域観測隊の隊長 青木茂さん 52歳。現在、北海道大学 低温科学研究所で准教授を務める青木さんはこれまで10回の南極観測経験を持ち、第61次の主テーマが青木さんの専門である海洋に関するものということもあり、北大初の隊長任務の白羽の矢が立ったという。今年11月頃に出発し4ヶ月に渡って調査研究をする夏隊を率いるために今は準備の真っ最中とのこと。おいそれと経験出来ない南極観測。子供のようになぜどうしての興味が湧く。研究者としての南極の魅力は何なのか。今南極はどうなっているのか。隊員達をどうまとめ、それぞれの力をどう引き出していくのか・・・。初めましてのご挨拶で「興味津々、楽しみにお待ちしていました」とお声掛けをすると、青木さん、居ずまいを正して、思いがけない“逆お声掛け”。
 「これまでのインタビュー後記を読ませていただきましたが、美しい日本語の文章と凛とした内容に背筋が伸びます」。なんて嬉しく、麗しい言葉掛け・・・。迷ったり煮詰めたりして、けして簡単にではなく、思いを込め時間をかけて発信した自己表現の言葉に対し、それがどう響いたかという気持ちを言葉で聞かせていていただけることは、自分の命や魂を誉めていただいているのと同じ位私にとっては嬉しい。人には言葉あり・・・そこに心が込められるととてつもないエネルギーの受け渡しが出来る。そんな、出演者からの思わぬ“アイスブレイク”で特上の元気を頂いてインタビューを始めた。

 青木さんは“隊長”という立場に対し、「荷が重く、緊張しています」と重責を担う心境を表現されていたが、ご自身のメンタル面での準備は? と訊くと、想定外の質問だったらしく、「私は性格的に形式張ったことが苦手なので・・・何より、隊員が自然体でいられるような環境を整えることが出来たらいいですね」と、戸惑いつつも笑顔でお人柄をにじませる。
 以前の隊員としての経験がとても楽しく、それが成功体験にも繋がったのだそうで、その時の気づきを活かせたらとのこと。その気づきとは、越冬隊で1年以上仕事と暮らしを共にした時、人の“見えない力”というものを改めて認識出来たこと。観測機材のトラブルなどの時に、対処できる人がその持てる力を最大限発揮し解決したのを見て、それまで研究室の中での仕事が多かった青木さんは人が個々に持つ力を見直したという。閉ざされた場所で、それぞれの持てる力が研ぎ澄まされ、“濃縮”されるのだとしたら、場を束ねる人の最大の役割は、ひとりひとりが気持ちよく力を発揮出来る環境を整え、皆で補い合えるチームを作ることに他ならない。「風通しのいい環境を作っていきたい」と、青木さんは幾度もの南極観測体験からしみじみ語る。

青木茂さん 今回、そんな非日常の環境の中で調査するのは、海洋の変化が南極の氷にどのような影響を与えているのかということ。青木さんが南極の研究に携わり始めてからほぼ20年。海洋の専門家として、最初に南極海がものすごく変化している現象に驚き、その後の変化の進行に向き合う中で、やり甲斐と使命感も湧いてきたとのこと。
 60年という長いスパンをかけて行ってきた日本の南極観測。1回の観測で解る事は地球の歴史や大自然の悠久さから言えばごく小さなもの。ましてや極地というさいはての地、荒天に阻まれれば人間は手も足も出ない。だからこそ人の手で地道に変化を調べ、分析し、次の研究に繋いでいくその積み重ねこそが未来の地球を守っていく…60年の継続の意味はそこにあるのだろうと想像する。
 青木さんは、「南極は遙か遠くの場所なので普段の生活と関係が無いと思われがちだが、既に人間の社会生活が影響を及ぼしている。どこまでの影響なのかはまだ分からないが、この先の未来がどうなっていくのかに関心を持って貰うため、事実を伝えていきたい」と語る。
 日々の時間感覚とは全く違う時間がそこには流れているのだろうが、その遠い場所と何かが確実に繋がっていることを想像するその感性も地球を分かち合う者達としてこれから益々求められていくのだろう。ふと、研究者とは遥か遠くからの“手紙”の意味を伝え続けるメッセンジャーでもあるのだと感じた。

 改めて、隊長として何を大切にしたいかを締めくくりに質問すると、「やはりコミュニケーションじゃないかと思います」と青木さん。収録後、研究者という立場の方が人間関係についてどう考えを深めているのかをさらに訊いてみたくて重ねて問いかけると、「人の話を聞くことですね」と一言。以前は口下手な研究者でしたと言うが、「ちゃんと人の言っていることを聴いて、相手にやっていただくというやり方をするほうが、自分のやりたいこともよりちゃんと出来るし、次の仕事にも繋がる」と気づいたのだという。それは越冬隊の経験がやはり大きかったそうで、「やはり研究者も、人とどう向き合うかが大事ですから」とご自身の中の発見を楽しそうに教えてくれる。
 「そんなことは社会人として当たり前のことですが・・・」と恐縮していたが、いやいや、冒頭の温かい声掛けは、まさに“コミュニケーションの達人”そのもの。折角の自然な会話を“スキル”で紐解きフレームで切り取るみたいで大変恐縮なのだが、コーチング学びの中に「アクノレッジメント(存在承認)」という声掛けの方法がある。相手のことを肯定的に観察し、その取り組みや振る舞いに肯定的に声を掛けること。「誉める」という場合、「えらいね」「良くできたね」など「あなた(you)」を主語にすることがよくあるが、「you メッセージ」では「評価する人とされる人」になって、縦の人間関係になってしまう。「わたし(I)」を主語にして受け渡す「Iメッセージ」の「存在承認」の言葉掛けで信頼関係はより深まるというコミュニケーション技術のひとつだ。
 「(あなたは)文章が上手ですね」と言われるより、「(わたしは)あなたの文章で背筋が伸びます」と言われて嬉しいのは、それが「存在承認」そのものだからだ。“評価・批評”と“存在の承認”では自分自身が肯定されているという心の満足度が違う。
 人は自分のやっていることを誰かが見ていてくれる、認めてくれているというその事実(存在承認)でどれほど前に進む力を貰えるか。「いつもあなたの仕事を見ているよ」「あなたの頑張りを私は知っているよ」「あなたがいてくれて助かっている」「感謝しているよ」・・・さりげなく掛けられる言葉にどれほどやる気を支えて貰えるか。そして、それは、「コミュニケーション技術のひとつ」と書いたが、勿論、スキルを実践することの大切さではなく、そういうことが自然に出来る「人間力」を持つことの大切さであることは言うまでもない。
 意図などせずに「存在承認」の言葉をさりげなく相手に掛けられる“ネイティブコミュニケーター”の青木さん率いる隊なら、きっと明るくポジティブな第61次隊になるのだろうなと感じた。

(インタビュー後記 村井裕子)

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