ほっかいどう元気びと

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2018年12月30日のゲスト

井田 芙美子さん
株式会社いただきますカンパニー 代表取締役/
農村ツーリズムコンサルタント
井田芙美子さん

札幌市出身 38歳。
帯広畜産大学卒業後、足寄少年自然の家、然別湖ネイチャーセンターなどで自然や農、観光に関わる仕事を経験。
2012年、生産者と消費者をつなぎたいと「いただきますカンパニー」を立ち上げ、生産現場を見学できる「とかちの畑でおさんぽランチ」が話題に。
2013年に法人化。独自の「畑ガイド」の仕組みや養成プログラムが道内・外で注目され、研修や養成、講座や講演などで広めながら「農業と観光」の連携の可能性を伝えている。

村井裕子のインタビュー後記

井田芙美子さん 今年最後の『ほっかいどう元気びと』は、これまで出演していただいた方に再度お話を伺う「もう一度会いたい元気びと」。番組出演以降どんな心境の変化があったか、その後どんな進展があったか、改めて大切にしている思いは何か・・・などをお訊きする企画だ。お招きしたのは、2013年4月7日に出ていただいた「株式会社 いただきますカンパニー」代表取締役の井田芙美子さん 38歳。当時は、帯広を拠点に農業生産者と消費者を繋ぐ“とかちの畑でおさんぽランチ”の取り組みをスタートさせたばかり。農業の大切さ、食の大切さ、消費者もその意識を持つことの大切さ、そして、そういったことに“お勉強”という肩肘張ったものではなく楽しく関われるような仕組を作っていきたいとお話されていた。希望で溢れるような笑顔が印象的。「実はプライベートでは大変な壁を乗り越えた直後なんです」と話す言葉にもエネルギーが満ち満ちていたのを覚えている。

 「お久しぶりです」と再会した井田さんは益々パワーアップ。大人のおさげ髪は、そのまま麦わら帽子を載せると小麦畑が似合いそう。この5年半で“とかちの畑でおさんぽランチ”の名称は“畑ガイドと行く 農場ピクニック”に変わってツアー客も倍増し、その“畑ガイド”の仕組み自体が道内のみならず道外でも注目され、研修や養成、講座や講演などで全国を飛び回っているという。「いただきますカンパニー」方式が生産地と消費者を繋ぐ取り組みのモデルケースとなり、新たに“農村ツーリズムコンサルタント”という役目を担ってきたのがこの5年半の道のり。その“畑ガイド”が農場を案内する方式が北海道を越えて遠く沖縄の島まで波及していったのは、農家が農作業も発信もすべてひとりで抱え込まない仕組みであり、農業を取り巻く外部の人達にも食の生産現場をサポート出来ることがあると気づいて貰えたことが大きかったのではないかとこれまでの思いがけない成果を語る。
 時代は変わりつつある。このお米はどんな人が作っているのか、どんな思いでこの野菜が作られているのかという“目に見える生産者”への意識が高まり、農薬はどうなのか、栄養価はどうなっているかの“農が生み出す食”への関心も高まっている。加えて、観光自体も体験・実感型が求められる。そんな中で“食の源を楽しく知ろう”という「いただきますカンパニー」の明るさが十勝以外の場所でも求められたのだ。その発案者が、ビジネスのアプローチというより、純粋に生活者目線だったというのも大きいのだろうと改めて思う。

井田芙美子さん 井田さんの目線は、ひとりの“お母さん”として子供達の健やかな食を守るという確固たるベースは勿論だが、同時に、“働き手”としての目線がある。例えば女性、例えば定年退職後の高齢者、例えば障がいを持つ人・・・世の中の声の小さい人達に向けられる眼差しがもうひとつのベースとなっている。力を持っていても活用されない社会の不平等が解消されないままなのはおかしいじゃないかという憤りが原動力となり、皆が力を発揮して働く喜びを持てるようにという思いがエンジンとなっている。第一次産業、観光、就業、共生、食育・・・いくつもの大切な要素がゆるやかに繋がる市民ベースの取り組みの先には、ひとりひとりが笑顔で仕事に汗を流す光景が確固たるビジョンになっている。
 「どんな立場の人も楽しく働ける組織作りをこれからもっと発信していきたいと思っています」というのは収録後の一言。働くということは本来とても楽しいこと。会社では定年を迎えた人も、様々な立場の女性も、それぞれのいいところや得意なことを伸ばせて主体的に働けるような場作り・仕組み作りを、「いただきますカンパニー」の実践から伝えていきたいと話されていた。今年はずいぶん“働き方”というキーワードが世間で取り沙汰されたが、こんなふうに農村地帯の小さな企業のチャレンジから生み出された“働き方”実践の中にとても大切なヒントがある。地方だからこそ発信出来ることはまだまだあるに違いないと、5年半でさらに経験を重ねた井田さんの引き出しから北海道の未来の希望を存分に感じさせていただいた。

 北海道は今年、大きな地震に見舞われた。この5年というスパンを振り返っても台風大災害などに何度も遭遇している。地震、災害、思いがけない試練に立ち向かう心構えを農家の方々から気づかされたことはなんだろう。収録の最後に井田さんに訊くと、すべてのことを“受け入れる”という農業の実践の哲学の奥深さを挙げてくれた。「どんな目に遭っても、その現実を受け入れ、前を向き、今出来ることを淡々とやっていく」。例えば、周りが騒然としている中でも何事もなかったかのように今日も土を耕すとか、明日のために種を蒔くとか。・・・来る日も来る日も自然と対峙しながら生きる人達はどんな知恵を持っているだろう。便利な世の中だからこそ、その“受け入れる”という言葉の持つ意味を共有することが益々必要になるのかもしれない。

 2018年。北海道全土がまさかのブラックアウトに見舞われるなど災害はいつどこで起こっても不思議ではないということを再認識させられた年。前の日まで当たり前だったことが、一瞬にして崩れてしまうという現実を突きつけられた胆振東部地震。何より、厚真町、安平町、むかわ町などで被害に遭われた方々の年の瀬はいかばかりかと切なくなる。お身内やお知り合いを亡くされた方、家を失い仮設で年を越す方、仕事を失った方、故郷からやむなく離れて新しい年を迎える方・・・環境が変わった中でもどうかお健やかな年末を。そして、来年は笑顔になれることがひとつでも多くありますようにと願う。
 こういう時代に大事なのは、何かあったときのための知識や防災のためのグッズを備えることは勿論、何より“心を備える”ことだと心に刻む。それは日々の中で少しずつ積み重ねるしかない。種を丁寧に蒔くように、繁る雑草をひとつひとつ抜くように。何が大切で、何を守りたいのか、今すべきことは何か・・・小さな日々に小さく備えていくことで、それらは人の内側で確固たる力になっていく。いざとなった時に、その積み重ねが“受け入れる”器を備えるのかもしれない。・・・そんなヒントを、新しい年もおひとりおひとりのインタビューから届けていきたいと思っている。
 2019年が穏やかで、幸せなものになりますように。皆さま、どうぞよいお年を。

(インタビュー後記 村井裕子)

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