ほっかいどう元気びと

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2018年10月28日のゲスト

中山 ヒサ子さん
日本音楽療法学会認定 音楽療法士
「NPO法人 和・ハーモニー音楽療法研究会」理事長
中山ヒサ子さん

札幌市出身。
北海道教育大学札幌校卒業後、ピアニストとして活動。
祖母を自宅で看取ったのを機に死ぬまでの生き方を学ぶ『死生学』に関心を持ち、その後『札幌生と死を考える会』を立ち上げる。
活動の中で、当時日本音楽療法学会名誉理事長だった日野原重明氏から、世界のホスピスの音楽療法を学び、2000年に札幌で小さな勉強会を発足
2004年に「和・ハーモニー音楽療法研究会」と名付け、仲間たちと共に高齢者、障がい児、在宅難病患者への音楽療法に取り組んでいる。

村井裕子のインタビュー後記

 3年ほど前、札幌の大学で行われた「科学的スピリチュアル・ケアによる生きがいの創造」と題した飯田史彦さんの講演を聴きにいったことがある。日本看護学会で特別講演として話したという内容をこの日もされていたが、その中で出てきた3つのキーワードが興味深かった。それは、「人を救う3つのケア」。ひとつは「フィジカルケア」と言われる“物理的要素(肉体)の健全性を守ること”。ふたつ目は「メンタルケア」と言われる“感情的要素(脳の感情的反応)の健全性を守ること”。そして、もうひとつは「スピリチュアルケア」。“スピリチュアリティ(=より価値ある人生を創造しようとする精神性)を保ちやすい人生観に導くこと”だという。医療の現場で「メンタルケア」までは既に浸透しているが、さらに、人生観そのものが好転する「スピリチュアルケア」のアプローチによって人生のあらゆる事象に意味を見いだせるようになる考え方が今後益々医療現場でも必要になってくる・・・と説いていた。そのために大切なのは、“オカルト的”な受け止め方にならないような“適切な思考法・有効な情報”でアプローチする「“科学的な”スピリチュアルケア」。その「トランスパーソナル(=人間を超えた何らかの仕組みがある)な思考法」を学ぶのは、「道徳」ではなくメンタルヘルスとしての分野である「保健体育」であるべきというお話が面白かった。
 ここ数年でずいぶん耳にするようになった“音楽を医療の場で活用していこう”という「音楽療法」の考え方も、「メンタルケア」であり、そして、さらに人の心のもっと奥深くに何らかの作用をもたらすということを考えると、それはそのまま「スピリチュアルケア」なのかもしれない。今回の『ほっかいどう元気びと』でお話を伺っていて、そんなことを感じた。

中山ヒサ子さん お客さまは、北海道での音楽療法の浸透に力を注いできた「日本音楽療法学会」認定・音楽療法士の中山ヒサ子さん。「NPO法人 和・ハーモニー音楽療法研究会」を立ち上げ、理事長として音楽療法の実践や啓発のための学びの場を開催している。元々はピアニストとして活動していた中山さんがなぜ音楽療法に尽力するようになったのか、どんな思いを込めているのかお話を訊いた。
 音楽療法の定義を日本音楽療法学会の文言で引用すると、「音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」となっている。中山さんの研究会の活動の対象も高齢者や障がい児、在宅難病患者とその家族・・・などなど、お腹の中の赤ちゃんからお年寄りまで様々な人達に向けて幅広く行われているとのことだが、中山さん個人は特にホスピスへの思いが強いという。ホスピスと音楽療法、その結びつきの背景にはそもそも今の道に繋がるひとつひとつの経緯があったとか。演奏者だった頃に祖母を自宅で看取ったことが最初のきっかけとなって中山さんは「死生学」に関心を持ち、日本の「死生学」の第一人者である上智大学のアルフォンス・デーケン氏による“人の生き死に”に関する哲学を深め、「札幌生と死を考える会」を立ち上げることに。その会長をしていた折に、当時、日本音楽療法学会名誉理事長をされていた故・日野原重明さんとの出会いを得て、ホスピスでの音楽療法の学びへと“導かれていった”とのこと。その後、日野原さんの助言も得て室蘭のホスピスで音楽療法を一から立ち上げ、10年間の実践を経ながら現在の活動へ。そうして、医療の世界でまだまだ認知度の低かった音楽療法を少しずつ浸透させてきたというのが、偶然のように死生学から音楽療法へと繋がっていった中山さんの“必然”の道のりだ。

中山ヒサ子さん 世の中ではまだ漠然とした受け取り方の音楽療法を中山さんはこう表現する。
 「人間がこの世に現れたところからすでに人は音楽と共にあった。祈りや収穫の喜びと一緒に生活の身近にあったもの。その、音楽が持っている元々の力を活用して現代の人達の健康に役立てること。それが音楽療法です」
 そして、中山さんが音楽の力の中で最も着目しているのが、“スピリチュアルなところ”だと言い、「“人間は身体だけではないという存在”という観点から臨床で音楽を扱っています」と続ける。ホスピスが活動の中心という中山さんが、祖母の死をきっかけに、死と向き合う人は何を求めているかを追求する中で形づくってきた“音楽療法”というスピリチュアルケア。音楽でその人のいい時代に一瞬にして戻って貰うことはもちろん、“音楽の永遠性”と表現されていた言葉から、死を超えたさらにその先へも安堵の気持ちで向かって貰えるような、心よりももっと深いところへ寄り添おうとする取り組みでもあるのだと伝わってきた。
 すべての人の中には、皆その人の世界がある。その時間の連なりには確かに固有の音楽が刻まれている。嬉しい事や切ない事、その折々に琴線に触れた音楽と結びつきその人の歴史が作られている。その記憶自体はきっと心を超えた何か大きなものと繋がっているのだろう。その“何か大きなもの”に宿る記憶はその人の中で永遠であり、きっと肉体が滅びても好きだった旋律と共にそれは消えないで永遠に残るに違いない。だから、“今この時”を大切に生きていたいと思う気持ちが自然と涌きあがる。それが、“第三のケア”の意味あるところなのではないか。・・・お話を伺いながらそんなことを感じさせていただいた。

 赤ちゃんからお年寄りまで、あらゆる人の心身を音楽という“ツール”で健やかに上向かせようと様々な可能性を試みる「音楽療法士」。その人達に必要なことは何なのだろう。収録後にさらに伺ってみると、中山さんの答えは、「相手の思いに寄り添えること」。ひとりひとりの中にはその人特有の想い出がある。音楽療法士は、「その思いを“ぐいぐい引っ張り出す”のではなく、洞察力を持って“見極める”ことが大事です」と。そして、「学生達に教える時に、“if I were you”と考えてみてと話しています。“もし、私があなただったら・・・”と思う気持ち。そうして、積極的にではなく、そっと寄り添うことが何より大切」とも話されていた。
 その“寄り添う”場所は、メンタルの場合もスピリットの場合も様々にあるのだろう。ごく普通の生活の中、ごく普通の人と人の繋がりの中でも、そういう“ケア”のヒントは優しい時代を作るための大事な要素になるのだろうなと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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