ほっかいどう元気びと

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2018年9月30日のゲスト

谷 光さん
札幌子ども日本語クラブ 代表
谷光さん

札幌市出身 75歳。
小学校教諭として36年間務めたのち、日本語教師養成過程のある専門学校で半年間学び、外国から来た日本語を話せない子供たちなどに日本語を教えるボランティア団体「札幌子ども日本語クラブ」に参加。
また「札幌“非行”と向き合う親たちの会・雪どけの会」の世話人を、2006年からは「北海道子どもセンター」で電話相談員として活動するなど、子供たちの教育に携わっている。

村井裕子のインタビュー後記

 この夏、故郷の中学校時代の同級生達と久しぶりに会う機会があった。ある人は30年ぶり、ある人は卒業以来。10代後半から50代までのそれぞれの日々がすっぽり抜け落ちて今みんなで60というのは何とも不思議な感覚であり、またとても愛おしいものだった。そんな中のひとり、小学校の校長先生をしている級友が定年を迎えるとのこと。中学時代は野球部のピッチャーとして活躍していたので、「その後野球は?」と訊くと、おもむろに取り出した名刺の裏には少年野球のコーチの肩書が。ちょっと誇らしげに見えた顔に確実に“14歳”が混じっていた。
 私の中にも14歳もいれば5歳もいる。仕事を始めた初々しい21歳も今の年齢の中に溶けている。全部がわたし。その人自身。○○歳だから何をしなければならない、何かをするべきだ、或いは、勤めを終えたらするべきことがなくなった・・・ではなく、自分の中に溶けている幼い自分が好きだったことや得意なことを純粋にやってみればいいのだなぁとしみじみ思う。
 現役を離れると立ち位置は変わるが、教育関連の仕事の人はやはり子供達に接する活動をしていたり、マイクを持つ仕事の人はやはり何らかを伝えることに携わっていたりと、ひとりの中では一貫しているのも面白いところ。今回の『ほっかいどう元気びと』も、小学校の先生を退職後に学校の外側から子供達に関わる活動を続けてきた人。第二の人生で大切なことも含めて興味深くインタビューさせていただいた。

谷光さん お客様は、外国人や帰国者の子どもの日本語学習支援ボランティア「札幌子ども日本語クラブ」で代表を務める谷 光(あきら)さん 75歳。他にも36年間の小学校教諭の経験を生かし、「札幌“非行”と向き合う親たちの会・雪どけの会」世話人や、「北海道子どもセンター」の相談員として子供は勿論、親達や現役の先生達を支える活動を続けている。
 お話の中から伝わってきたのは、“何か困ったことを抱えている子供や親たちに寄り添いたい”という思いがすべての活動の源にあるということ。定年退職後に専門学校の日本語教師養成課程に通って若者達と机を並べて学んだ後、地元札幌のボランティア団体に参加したことが現在も続く活動のきっかけとなったそうだが、日本語が理解出来ずに学校の授業を受ける子供のストレスは想像以上のものがあると、日本語習熟のための手助けの大切さを語る。谷さん始めボランティアの方々はマンツーマンで家庭教師のように子供に向き合うのだそうだが、ただ言葉を教えるだけではなく、その子が“何に困っているのか”や、“どんな気持ちでいるのか”に寄り添うこともそれ以上に大事にしているのだと、活動の根本についても語ってくれる。
 「親たちの会」に関しても、“困り事”を抱える存在に寄り添うスタンスは同じだ。先生と言われる側の人達がこうした方がいいとアドバイスをするのではなく、困っている人の話を“聞いてあげる”ことや“そのまま受け止める”役割に徹するという。谷さんは「伴走する」という表現も使われていたが、“一緒に問題を解決する道を探していきましょう”という気持ちで寄り添うことで当事者の心が変化していくことも多いと静かに語る。
 現役の時代を終えてから学校の“外側”へ出て、多くの学びや人との出会いによって谷さんが今感じていることは、「一緒に学ぶ」ということの大切さなのだそうだ。教えることも勿論大切だけれど、目の前の相手と一緒に進んでいく気持ちで共に学びながら答えを探していく。それは、日本語がわからなくて日々の生活に葛藤を抱えている子供に対しても、我が子の非行で悩んでいる親たちに対しても同じ。時代も環境も変わり、かつての認識だけで理解出来ないことが次々と現れている。大人だから何でもわかっているわけではない。新しい問題に大人も一緒に考えていかなければ、と続ける。

谷光さん 世の中で様々な問題が起こる度に必ず出てくるのは、「やはり教育の問題だ」という言葉。教育の根本的なところをどうにかしなければこの世の中は良くなっていかない、と。ほんとうにそうだと思うが、その最も大事な「教育の問題」は年々複雑化し、思想なども絡み合って益々難しさを増している。そうして、その渦中の当事者である子供達は見るからに“大変そう”。現場の先生達もしかり、だ。谷さんは、「今の子供達は“豊かな子供期”と言えるものが無いですものね」と話されていた。自分達の時代は、学校の時間が終わるととにかく外で遊ぶ時間がたっぷりとあってそれがとても“豊かな時間”だった。今は、塾だ習い事だとほんとうに忙しそうです、と。制度や枠組み、何かを大きく変えることはとても難しいことだが、例えば、その“豊かな子供期”が無くなっている現状で、谷さんのような“先生の経験者”達が、学校の外側から様々なかたちで子供達に関わり、“困っている誰か”をひとりでも多く救うことが益々求められていくのだろう。
 終始クールな話し方をされていた谷さんが、収録後にぽろりと発した言葉が心に留まる。
 「子供って可愛いんです」
 どういう可愛らしさですかと訊くと、「子供は本来誰でも可愛いものなんです」との答え。世間一般が求める“いい子・出来る子・頑張る子”が可愛いのではなく、例えば反抗して荒れたり暴言を吐いたりしている子も、その気持ちの奥に何があるのかに気づいてあげられれば、みんな可愛いい。その可愛さに気づくことで、接する大人が掛ける言葉が変わる。大人が変わることで、子供もいい方に変われるんですと、経験則からの言葉。そして、「そんなふうに、子供を支える大人がさらに増えていけばいいですね」と話されていた。

 困り事に“伴走”し、答えをくれるのではなく共に考えてくれる存在。子供でも大人でも、誰かが見ていてくれる、誰かがわかっていてくれるという実感が何よりの力になる。
 現役の仕事を一旦終えたその後。10人いたら10通りの生き方がある。人の目から見て“活躍”しているかどうかなど関係ない。“生産性”など問題外。誰かにとっての心の支えとなる小さな役割をそれぞれがそれぞれの場でいろんなやり方で果たせればそれでいい。そうすれば、“困っている人”も力を得て、やがて誰かの困り事に寄り添えるだろう。
 そんな優しい連鎖を担えるのが、「第二の人生」世代のほんとうの役目なのかもしれないと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

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