ほっかいどう元気びと

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2018年8月12日のゲスト

田村 元江さん
室蘭シネマクラブ
田村元江さん

室蘭市出身 68歳。
地元の高校を卒業後、日本石油に3年半勤務。その後結婚し、専業主婦として3人の子どもを育てる。
2010年に映画好きの友人に誘われ「室蘭シネマクラブ」に入会。現在は会計を務めながら仲間と共に活動を続けている。

村井裕子のインタビュー後記

 前回のこの後記の結びで、「国際情勢、政治、経済、天候、人の心・・・様々な枠組みが歪み、沢山の危機的状況が浮き彫りになりつつある今の世の中だが、人が生み出すより良いエネルギーはきっと世界を変えていくことを信じ続けたい」と書いた。書いているそばからも、信じられないような“歪み”の実態が次から次へと浮き彫りになっている。人を“生産性”で選り分ける、“いろいろな人生観”などでは済まされない政治家の発言に耳を疑い、スポーツ界の権力至上主義の残滓に呆れ果て、さらには、これが事実なら守るべき規範が足元からガラガラと崩れてしまうほどの重大な裏切りである医科大学での女性受験生差別問題まで・・・ただでさえこの酷暑というのに、まさに“怒髪天を衝く夏”。特に、ここのところの“歪み”は、言い訳やら取り繕いやら隠蔽やら、「フェイクだ!」の一言で無かったことにしようとするエライ人もいるやらで、油断していると信じられないズレが「正しい」ことになってしまう。・・・なんともはや、今の世の中はトリックアートか。何かがぐにゃりと曲がっているのに、その歪んでいるほうが真っ直ぐなのですなどと言われかねない。
 とはいえ、日々人と話をすることで、曲がっているものは曲がっている、おかしいものはおかしいと思っている人が少なくないことに気づき、「まだまだ大丈夫」と本来の軸を取り戻すことが出来る。放送や番組こそそういう役割が出来なくてはと願う。そうでなくてはならないとしみじみ思う。文学や映画・ドキュメンタリーの役目もそう。何かを道徳的に教えるのでも教条的に思想を押し付けるのでもなく、何かを感じさせ、考えるきっかけとなる様々な世界観をただ受け渡す。効果は目には見えないが、考え方や判断、決断のための体力はそんなところから付いていくだろう。

田村元江さん そんなふうに、何かを通して“何が大切なのか”の軸を共に考える活動は道内各地で行われているが、8月2週目の『ほっかいどう元気びと』でお話を聞かせていただいたのは、良質な映画を自主上映し続けている「室蘭シネマクラブ」の取り組み。運営会員8名の中で会計を担当している田村元江さん(68歳)に活動への思いを伺った。
 「室蘭シネマクラブ」の発足は2009年。“何処かで社会と繋がっていて、何かを問いかけている映画”を地方でも鑑賞したいと地元有志で立ち上げ、協力会員100名の支えの中、年に数回、室蘭市民会館などで上映会を続けているという。作品選びは運営会員達が沢山のテーマの中からいろいろな情報によって候補に挙げたものを実際に観て決めるとのことで、今年4月には沖縄の米軍基地問題をテーマにしたドキュメンタリー映画『標的の島 風(かじ)かたか』を上映。「沖縄と戦争」をテーマにジャーナリズム活動を行っている監督の三上智恵さんを呼んでお話も伺ったのだという。
 人が生きる上で“何が大切なのか”を改めて考える上で、「戦争と平和」というテーマは欠かせない。これまでも「室蘭シネマクラブ」では、『TOMMOROW 明日』や『父と暮らせば』、ドキュメンタリー『ひめゆり』を上映してきたという。田村さんは、「戦争がひとたび起こると普通の人達のごく普通の日常が奪われる。何もかも失われる。その恐ろしさや悲惨さを映画やドキュメンタリーは訴えかけている」と言い、戦争反対と声高に言うよりも、そういうものを若い人達にも観て貰って、感じて欲しいと続ける。
 田村さんが戦争という事実を知ったのは、子供の頃の祖母や母親の話からだったという。実際に体験した人達の言葉で聞く「戦争」。すでに体験者は少なくなり、“語り部”が全くいなくなるこれからは自分達が責任を持ってその事実を何らかの形で受け渡していかなければとも。3人のお子さんを育てたお母さんでもある田村さんは言う。「子供を育てるのはほんとうに大変なこと。手もかかる、お金もかかる。そうやって一生懸命社会に送り出した子供を絶対に戦争になど送り出したくないと思っていました」と。子育ての手が離れてから、地域を良くする活動や映画の自主上映の会に参加していったのは、そんな思いが強かったのとPTA活動で何かを作り上げる楽しさを体験したこと、そして、必ず「良かったよ」と言って貰える嬉しさが元になっていますと、収録後にも話されていた。
田村元江さん そして、「こういうことは、とにかく続けていかなくっちゃね」と語る言葉に、“ある地方”で暮らす“ある主婦”としての気概が感じられる。雑談の中でご本人がご自身のことをそう呼んでいたのでその通り書かせていただくが、頼もしい“おばちゃん”の気概だ。普通に、どこにでもいるおばちゃんのパワー。お話のひとつひとつから、ごく普通の“平和で穏やかな国”という向かいたい先の世の中が同じだと共感し、「こういう地道な活動や大切なことを細々とでも共有し続ける取り組みは、いざとなったら私達は黙っておきませんよと立ち上がる準備でもありますよね」と投げかけると、何度も何度も頷いて、「そうなんです。そのために大事なことは、続けるということなんです」と力を込めていた。
 そうして、「『元気びと』の収録スタッフは皆女性で嬉しい!私は女性を応援したいの」と嬉しいエールも。“おばちゃん”パワーをお裾分けされながら、ここにもひとり、“曲がった軸を真っ直ぐにしたい”人がいるのだと心強い思いでお見送りさせていただいた。

 ただただ平和で穏やかな日々を次の世代に受け継ぎたいという市井の願いは世の中の流れの中で時として挫かれそうになることもある。萎えそうになることもある。だが、やはりその思いを丸ごと伝え続けるしかないのだ。果てしなく大きな世界の中では声も小さい、力も弱い、ちっぽけな私達ひとりひとり。でも、“大事なことは大事”と言い続けて次に繋げていかなくてはならない。仲間をひとり、またひとりと増やしながら。
 日々の小さな歪みを放置していると、それが肥大化していってやがて戦争に繋がっていく。日々の小さな歪みを少しずつ、しつこく、諦めず中心軸に戻す意志を持ち続けることで、平和は保たれるに違いない。戦争は明日急に始まるのではなく、そんな小さな歪みの集積の結果、人の心が引き起こすものなのだと思うから。
 2018年、酷暑と言われる夏。果たして人の心は進化しているのだろうか、まさか劣化の道を辿っているのだろうか。・・・そんな問いに答えは出ないまま、今年も終戦の日が巡ってくる。

(インタビュー後記 村井裕子)

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