ほっかいどう元気びと

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2018年8月5日のゲスト

三栗 祐己さん
パーマカルチャー研究所 代表
三栗祐己さん

旭川市出身 39歳。
北海道大学工学部でエネルギーや電力について学び、2003年 東京電力に入社。その後、北海道に戻り教員になるため退職し、大学院で学び直し高等専門学校に勤める。
しかし、家庭を顧みることができない忙しさから、本当に幸せな生き方について考えるようになり、かつて訪れたタイのパーマカルチャーファームの生活を思い出し、2016年、「パーマカルチャー研究所」として札幌市南区で新たなライフスタイルをスタートさせ、持続可能な暮らしに取り組んでいる。

村井裕子のインタビュー後記

三栗祐己さん 今回の『ほっかいどう元気びと』のお客さまは、「パーマカルチャー研究所」代表の三栗祐己(みつくりゆうき)さん 39歳。パーマカルチャーとは、「パーマネント(永続的)」と「アグリカルチャー(農業)」、或いは「カルチャー(文化)」を組み合わせた言葉。“環境的にも持続可能な農法、文化、生き方、暮らし方”を示す幅広い概念で、1970年代にオーストラリアで提唱されてから世界中で実践されているとのことだが、三栗さんはそのライフスタイルにタイで出会い触発され札幌市南区北ノ沢でその研究と実践を始めたという。いろいろな仕事や経験を経て見つけた“最も自分らしく生きられる”その暮らし方とはどういうものなのか、お話を伺った。

 現在の研究に辿り着くまでの三栗さんの道のりを挙げてみると、北海道大学工学部、さらに大学院でエネルギーや電力を学び、エネルギー問題解決の研究に携われる仕事をと「東京電力」に入社。2012年、北海道に戻って研究者を育てようと退職し、再度大学院で学び直して高等専門学校で助教、准教授として教鞭を執ってきたという経歴の持ち主。世間の物差しで測ればいわゆる“エリート”として順風満帆に映るが、志したエネルギー問題は東日本大震災を挟んで大いなる疑問やさらなる解決策といった課題と直面せざるを得なくなり、そんな葛藤が有りながらも、手塩に掛けた学生達を消費拡大を続ける社会に送り出さなければならないジレンマにも悩まされたと言う。
 三栗さんは、生きることに関してのひとつひとつの疑問を流せない性分と自分自身を分析する。周りは皆上手にその場に適応していく中、とことん考え、本を読み、答えを探そうとしているのにうまくやれない自分は駄目なのではないかという劣等感がずっと付きまとっていたと。そして、高専の准教授として役割をこなしながらも忙しさで家族を顧みられない仕事とは何なのだろうとの疑問から“本当に幸せな生き方”を追求し続けるようになったのだと続ける。そんな悶々とする中で閃きのように思い出したのが以前家族で訪れたタイの「パーマカルチャーファーム」のやり方。暮らしと仕事、遊びまで一緒になったようなそこでの“手作りの暮らし方”の中に目指す答えがあったという。三栗さん曰く、「エネルギー問題はエネルギーの問題ではなく、暮らし方の問題だったのだ」と。拡大していく一方のエネルギー消費を見直して、“生み出す暮らし”に変えていく、その実践こそが求めていたものでしたと研究所を立ち上げることになった心の経緯をとても楽しそうに語ってくれた。

三栗祐己さん 「パーマカルチャー」を三栗さんの言葉で説明して貰った時に、「持続可能な暮らし方」という表現とともに、「環境的にもそうだが、精神的にも持続可能」という一言が付け加えられていた。地球環境のためにとあまりにもストイックな生活を強いられてしまったら精神的に辛くなってしまう。地球も大事、人も大事、そのバランスが不可欠なのだと。実際に、パーマカルチャーの実践を始めることで三栗さんの中からは“生きづらさ”や“劣等感”が消えていったという。「自分は駄目だったのではなく、その枠の中での仕事や暮らしは自分には合わなかったのだ」という気づきを得て、楽になったのだそうだ。
 自分の居場所をようやく見つけた人の話、壁を乗り越えて仕事を楽しめる心境になった人の話を聞くとほんとうに良かったと心から思うし、そこから貴重なヒントも感じる。
 三栗さんが願う暮らし方は、最近よく耳にする“仕事と家庭(家族)”、或いは“仕事と個人の生活”のバランスをとりましょうという「ワークライフバランス」というより、その線引きすら感じさせない「仕事も生活も遊びもすべてひっくるめてのライフ」なのではないか、そんな印象を共感と共に伝えてみると、ご自身で作ったという四字熟語を教えてくれた。
 「『遊暮働学(ゆうぼどうがく)』、それは、遊びと暮らしと学びと仕事が一体化したような生き方のことです」
 例えば、マイホームを30年ローンで買ったとすると、そのお金のために“今”辛い思いをして働かなければならないかもしれない。極端な例かもしれないが、雨風しのげる位の家を子供達も含めて自分達の手で作ろうとすればその過程は遊びであり、働きであり、学びである、と三栗さん。まさに、“すべて楽しめるライフ”が理想と伝わってくる。

 大量生産、大量消費、経済至上主義の世の中が“当たり前”のようになっている今、エネルギー問題も含めて社会の仕組みをガラリと変えていくことは困難だが、三栗さんのように「パーマカルチャー」の研究と実践を発信していく意味は、何かこの時代-特に東日本大震災以降-の暮らし方にほんとうにこれでいいのかと疑問や葛藤を感じている人達や、出来ることから持続可能な暮らしにシフトしていきたいと思っている人達、生き方についての根本的な問いに対して簡単に流せない人達の何らかの触発になるのではないかと思う。
 そして、何より、「この世の中で生きづらい自分は駄目なのではないか」と思っている人達への勇気付けにもなるのではと感じた。「その居場所が合わないだけで、けっしてあなた自身が駄目なのではない」という触発は、“持続可能な”人づくりへも繋がっていく。

 人の日々の言動や行動も社会の循環をマイナスにするかプラスにするかに関わる大事な要素、“エネルギー問題”だ。目の前のことを嫌々こなしていれば口から出てくるのは負の言葉。“モノは身の回りに溢れているのに満たされない悪循環”が不機嫌な空気を蔓延させていく。エネルギー研究の三栗さんが辿り着きたい境地には、そんな“人の心”のエネルギーの悪循環を良循環に変えていきたいという願いも込められているのだろう。締めくくりで話されたこんな表現にそんなことを感じた。
 「世界を“愚痴や文句”ではなく、“喜び”で作るということをイメージしたい」
 そのために、自分のことは自分で決められる“自立的暮らし”をする人を増やしていきたいのです、と。
 国際情勢、政治、経済、天候、人の心・・・様々な枠組みが歪み、沢山の危機的状況が浮き彫りになりつつある今の世の中ではあるが、小さな力でせめても出来うることは、“人が生み出すより良いエネルギーはきっと世界を変えていく”ということを信じ続けるということなのかもしれないと、改めて感じるひとときだった。

(インタビュー後記 村井裕子)

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