秘密のベールに包まれた宇宙ビジネスの現場「リスクは爆発する…ドンと」北海道の廃校跡で若きエンジニアらが挑む超高性能エンジン開発
2025年05月03日(土) 09時00分 更新
北海道大学から生まれた宇宙ベンチャー企業が、超高性能のエンジン開発を進めている。機密情報が詰まった宇宙ビジネスの最前線、その現場は、廃校になった中学校にあった。
◇《宇宙ビジネスの世界市場規模は54兆円…北海道にも研究拠点》
空へ向かって飛び立つロケット。それは、遥かなる宇宙に想いを馳せる壮大なロマンだ。人工衛星を使ったビジネスなど、宇宙産業の市場規模は世界で54兆円にのぼる。
今後グングンと伸びていく成長産業だが、ここ北海道の宇宙ビジネスの最前線があった。
そこでは、人工衛星を目的の位置に配置したり、移動させたり出来る、超高性能エンジンを開発しているという。
記者の手に乗るようなサイズの物体が、開発中のエンジンの一部だという。しかし、その全体像は極秘のベールに包まれていた。
◇《廃校となった中学校で超高性能エンジンを開発》
超高性能エンジンの開発を進める現場は、北海道空知地方のこんなマチにあった。
藤田忠士記者
「うーん。滝川といえばなんといってもこの味付けジンギスカンですが、いま、注目を集める企業が滝川にあるんです」
北海道滝川市。マチの中心部から15分ほど車を走らせると、宇宙ビジネスの開発現場が見えてきた。
藤田忠士記者
「旧江部乙中学校、ここがレタラの開発拠点です」
廃校になった中学校の旧校舎を拠点に、高性能エンジンの開発を進める『レタラ』。北海道大学が2020年に認可した、宇宙開発ベンチャーである。
Letara(レタラ)糸魚川大和さん
「ロケットを載せて実際の振動を模擬して、ロケットの振動に耐えられるかテストする」
開発にあたる若きエンジニアは約80人。北海道大学のOBや学生、そして海外からの留学生が多くを占めている。
Letara(レタラ)の共同代表を務めるのは、平井翔大さんと、アメリカ人のケンプス・ランドンさん。ともに北海道大学で、宇宙工学の研究者を学び、この宇宙ベンチャー企業を立ち上げた。
Letara(レタラ)共同代表 ケンプス・ランドンさん
「宇宙は何もないから簡単に動けるイメージだと思うが、たとえば人工衛星が“東京の上にいるけれど、本当は札幌を観測したい”となったら、変更にはすごい燃料が必要になる」
「弱いエンジンでやろうとすると、何か月間もかかかるので、とてもビジネスにならない」
◇《民間主体の宇宙ビジネス…秘密のベールに包まれた開発現場》
宇宙ビジネスの中心は、いまや民間企業。4分の3を占めているという。2040年、世界の市場規模は140兆円に膨らむというが、高い安全性とコストダウンが、大きな課題となっている。
Letara(レタラ)が参入を目指すのは、人工衛星用のエンジンである。
Letara(レタラ)深田真衣さん
「白い固形のモノが燃料になっていて、この燃料をエンジンの真ん中の空間に入れて燃焼させる」
爆発の危険がないポリエチレン由来の燃料を使った、高性能エンジンの開発を進めている。Letara(レタラ)は、札幌に設計部門などを置き、滝川市江部乙にある廃校になった中学校の校舎跡で、エンジンの組み立てや実験を日々重ねている。
取材を進めていると、コンテナの前で、カメラ撮影を止められた。
Letara(レタラ)糸魚川大和さん
「撮影は、ここまでです。申し訳ないですけど。かなり最先端のものなので」
藤田忠士記者
「このコンテナの中に小型化したエンジンが…?」
鉄製のコンテナ内部には、実験機が設置されているが、高度な機密情報が詰まっているため、接近も撮影も一切NGである。
まもなく、燃焼実験が始まろうとしていた。だが、許されたのは、離れた場所から眺めることだけだった。それでも記者は、宇宙ビジネスのカギとなる一端を、どうしても知りたかった。
◇《人工衛星用の超高性能エンジン…燃焼時間が4倍にアップ》
交渉の末、撮影範囲を炎の噴き出し口に限ることで、固定カメラの設置が許可された。いよいよカウントダウンが始まった。
燃焼実験のカウントダウン「10・9・8・7…」
カウントダウンが終わると同時に、超高性能エンジンの噴射口からオレンジの炎が、勢いよく吐き出された。
何度となく重ねられた燃焼実験だが、最新のタイプの実験機では5秒が最長記録だった。今回はどこまで続くのか。そして、炎が噴出口から消えたのは、20秒後だった。
Letara(レタラ)糸魚川大和さん 「よーし。大成功です」
若きエンジニアたちから歓喜の声と、力強い拍手が起きた。最新タイプの実験機では、燃焼で高温になるエンジンを冷ます改良を加えた。
その結果、燃焼時間は、これまでの4倍にまで伸びることとなった。
Letara(レタラ)糸魚川大和さん
「燃焼実験で20秒をクリアできたというのは将来、お客さんに売っていく時に大きなマイルストーン(到達点)になった」
◇《安全性の向上と性能アップが、宇宙ビジネス成功の大きなカギ》
Letara(レタラ)共同代表 ケンプス・ランドンさん
「いまの宇宙輸送技術はかなりリスクの高いもの、リスクは爆発する…ドンと。1~3%で爆発するそんな車や飛行機には乗らない。まずは、そのバリアを突破することが最初の仕事だと思っている」
Letara(レタラ)共同代表 平井翔大さん
「いま世の中にある人工衛星用のエンジンは、ランドンが言うように、危険なものか…あるいは安全ではあるが、非常に速度が遅いもの。このトレードオフをわれわれの技術でなくしていきたい」
Letara(レタラ)では将来、開発した超高性能エンジンで、人工衛星だけではなく、月や火星にも到達するパワーを備えたいとも考えている。
◇《ロケット発射台を持つ民間の“宇宙港”が、太平洋を臨む北海道のマチに―》
そして、宇宙ビジネスを巡る動きは、北海道の別のマチでも…。海を渡ってくるロケットの打ち上げが、間近に迫っていた。
北海道十勝地方の大樹町にある『北海道スペースポート』。ロケットの発射台を備えた民間の宇宙港である。現在、大型ロケットに対応した新たな発射場の建設が進んでいる。完成は来年9月の予定だ。
その『スペースポート』で、小型ロケットの打ち上げが迫っている。打ち上げを予定しているのは、台湾系のロケットベンチャー『jtSpace(ジェイ・ティー・スペース)』が所有する、全長約11メートルの小型ロケットだ。
これまでに何度も大樹町で、ロケットの発射を実施しているインターステラ社のロケット『モモ』と同じサイズである。
台湾には、民間の発射場がないため、ロケットは分割して船で運搬。苫小牧港に陸揚げし、トラックで大樹町まで運ぶ計画だ。
『スペースコタン』マーケティングPRグループ 伊藤亮太さん
「北海道という場所は、北海道スペースポートを中心に宇宙産業に非常に適した場所になっているので、今後の北海道の主要な産業になっていく、主要な産業にしていきたいと思っている」
「その可能性を皆さんに感じていただく機会になればいいなと考えている」
『jtSpace(ジェイ・ティー・スペース)』の小型ロケット打ち上げが、6月に実現すれば、大樹町では、およそ4年ぶりとなる。
北海道で挑戦が続く宇宙ビジネス…その動きは、いま活発になっている。
◇《日本の宇宙ビジネス市場は4兆円規模…政府は倍増させる考え》
森田絹子キャスター)
地球の低軌道を周回する人工衛星の打ち上げ数は、右肩上がりのペースで増え続けると予測されています。
現在、宇宙ビジネスの国内市場は4兆円ですが、政府は2030年代の早い時期に8兆円まで、倍増させる考えです。
堀啓知キャスター)
大きな成長が期待できる、宇宙ビジネス。北海道がその拠点となれば、未来を担う人材が集まり、地域の大きな力になってくれそうです。特集でした。