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「完全に肉食動物の状態になっている」新聞配達中の52歳男性死亡のクマ事故“生ごみ”に対する執着心のスイッチが入った…専門家が見た予兆と危険

2025年08月10日(日) 08時00分 更新

今年7月に北海道福島町で起きたヒグマによる死亡事故は、私たちに大きな衝撃を与えました。防ぐことは、できなかったのか?

鳥獣対策の専門家と現場を取材すると、予兆と住宅街に潜む危険が見えてきました。

■現場近くの草やぶと強い執着心

福島町三岳地区。

札幌市を拠点にハンターとしても活動する鳥獣対策コンサルタントの石名坂豪さんと事故が起きた現場にやってきました。

麻原衣桜 記者
「住宅が並んでいて、その向かいにあるこの場所で佐藤さんがご遺体で発見された草地です。まずここでまさに向かいの住宅で、クマに襲われてそのまま引きずられていってっていう、この状況見て、まずどう思われますか?」



野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪さん
「山見えていますけど、結構離れてる。夜とはいえ、クマがここまで家の間に入り込んでいる状況というのが、なかなか通常は取らない行動」

石名坂さんも、クマが住宅街の奥深くまで入っていた事実に驚きを隠せませんでした。

野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪 代表
「ここに夜とはいえクマがいたというのが、日常的に起こることではない」



7月12日の未明、新聞配達中の男性がクマに襲われ、死亡した事故は、未だに小さなマチに影を落としています。

日課の散歩ができない。

子どもたちは、学校までクルマで送り迎え。

大相撲の九重部屋の夏合宿が中止に。



人気スポット「海峡横綱ビーチ」です。

厳しい暑さにもかかわらず、事故の影響で海開きは10日遅くなりました。

夏休みを迎えていますが、初日のビーチは親子1組だけです。

小学生
「楽しい。(先生が)大人いないといけないよって」

ビーチの監視員
「午前中は何人か来ていた。まだ怖い、うちの周りも草刈りをしている」

今も残るクマへの恐怖心。

石名坂さんは、現場近くの草藪が、事態をより悪化させたと指摘します。

野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪 代表
「ここに引きずっていって中に引き込んだというのは、完全に肉食動物の状態にクマがなっている状況。動物を捕らえたときは横取りされないよう落ち着いて食べるために、やぶの中に隠す」



先週、北海道羅臼町で撮影されたシカを襲うクマです。

捕らえた獲物を藪に引っ張り込もうとしています。

今回の事故も、近くに草が生い茂る藪があったため、クマが、人を襲った後も執着した可能性があるのです。

麻原衣桜 記者
「さすがに山まで引きずるということは?」

野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪 代表
「少しやろうとしたかもしれないけど、おそらくは成功しなかったと思う」



事故が起きる数日前から、現場周辺で相次いでいたクマの目撃情報や痕跡。

さらに3日前には、現場の集落に隣接する月崎地区でクマにごみ箱が倒され、生ごみの入った袋が無くなっていました。



野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪 代表
「大概最初の生ごみ被害はこういう山際で起こるんですけど、一度山際で生ゴミに餌付いてしまうと、山から多少離れたところであっても、完全に執着心のスイッチが入ったクマが住宅地徘徊して、ほかの生ごみ探し回るので」

事故後も「ごみ」への執着は続きます。

麻原衣桜 記者
「2日後の14日には2度にわたってスーパーマーケットの隣のゴミの入った倉庫が、完全に鍵がかかってたのを壊して、中のゴミを荒らすっていう」

野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪 代表
「あれがまさに典型的ですよね。どんだけいい生ゴミの臭いがしても、国道沿いの山から離れたところに、途中にやぶが多少あったとしても、いきなりはやらない。人身事故があるかどうかは別にして、スーパーのごみ倉庫がやられた、あそこまでは全道どこでも簡単になり得ます」

事故から6日後、クマは、駆除されました。

現場から800メートル離れた住宅街の草藪でした。

■4年前にも70代女性を襲う



DNA型鑑定の結果、男性を襲ったクマは、4年前にも、福島町の白符地区で当時77歳の女性を死亡させていたこともわかりました。

福島町民
「人間の味を知っているのかね。恐ろしい」

女性の親族
「まさかクマ生きてると思わなかった、もうちょっと早くね、なんか手を打てばよかった」

大好きだった畑仕事の最中に、クマに襲われたとみられる女性。

主を失った畑は、すっかり荒れ果てていました。

女性の親族
「当時はなんも声でなかった。遺体見ていないから。帰ってきたあとも、もう袋詰めできたから。そのまま焼き場に行ってすぐ焼いて骨になって。」

事故の1週間後、福島町は、クマが山から住宅地に入ってこないよう長さ1.5キロの電気柵と15台のカメラを設置しました。しかし、課題も…。



麻原衣桜 記者
「普通にここがもう空いてしまっているっていういうのも…」

野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪 代表
「通路だから張れないとか、いろいろ問題あると思う。これたぶん道庁が緊急でかき集めた、簡易に張りやすい電気柵なんですけど」

5日、同じ場所を取材すると、その出入口にも新たな電気柵が張られていました。

対策に、終わりはありません。

野生動物被害対策クリニック北海道 石名坂豪 代表
「全道民がすぐできるクマ対策としては、生ゴミを夜間クマが手出しできるところに置かない。特に山際の家に住んでる方は、徹底していただかないといけない。夜間に生ゴミ出すなコンポストやめろっていうのが一番わかりやすい」

人の住んでいる場所には、クマを入れない。

被害を防ぐには、人間の側で対策を進める以外、方法はありません。

■「住宅街にクマを入れない」

福島町では、事故の3日前に生ごみを荒らす被害がありました。

近隣の上ノ国町や江差町では、最近、家庭菜園や生ごみを荒らす被害が相次いでいます。

家庭菜園をしている人たちに話を聞くと「商売でやっている訳ではないからお金をかけてクマ対策をするのは難しい」という声も聞こえてきます。

しかし、石名坂さんは「札幌も含め、北海道どこでも山際には、もうクマがいる状態。クマが食べたがるような作物の栽培には、電気柵の設置などの対策が必要」と話しています。

環境省によると北海道のクマの生息域は、2003年からの15年間で「1.3倍」に広がっています。

これは、姿を見なくても、クマの身近で暮らしていることを意味しています。

北海道ニュース24