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記録的なスルメイカ不漁で珍味の製造会社は乾燥機を使い「干し芋」に活路を…専門家“黒潮大蛇行”終息の兆しで秋くらいから漁獲増の可能性示す

2025年06月16日(月) 20時49分 更新

深刻な不漁が続く北海道南部のスルメイカ漁。ピンチを乗り越えようと北海道函館市の水産加工会社はある農産加工品に目をつけました。

■歴史的な不漁にあえぐ北海道函館市



函館名物「スルメイカ」。函館の食文化を語るうえで欠かせない存在です。

・観光客
「おいしい」
「新鮮で甘みがあっておいしいです」

近年、記録的な不漁が続くスルメイカ漁。今月1日の「解禁日の漁」では、水揚げ「ゼロ」で、初競りが取りやめとなる異例の事態に。

1週間遅れとなった初水揚げも、10隻あわせて、約300キロにとどまり、サイズも小ぶりなものが目立ちました。

・漁師
「ちょっと期待外れ」
「燃料代にはならない。厳しいですね」

危機的な状況に、新たな道を切り開くため農産物に活路を見い出す会社も。

・山一食品 吉村直人常務取締役
「イカの漁獲がどんどん減っている中で、何か代わりのものを」

生き残りをかけた、イカのマチの挑戦を、もうひとホリします。

・麻原衣桜 記者
「函館市内のスーパーです。スルメイカは鮮魚コーナーのこの辺りに並ぶということですが、16日は仕入れがないため別の魚が並んでいます」

こちらのスーパーでは、初競りが行われた9日のみ、100グラム698円で販売しましたが、価格が高騰しているため、現在は仕入れていない状況です。

・客
「主人が透き通ったのが好きなので食べたいと言うけどなかなかなくて…」



・客
「やっぱり高すぎる。(イカが並ばず)ちょっとさみしいね」



道南のスルメイカ漁は、ここ数年大幅に漁獲量が減少していて、2025年度の函館市の卸売市場での取扱量は、過去2番目に少ない、約400トンにとどまっています。

■仕入れ価格10倍で老舗塩辛店は海外産も使用

不漁の影響は、地元の水産加工業者にも。

昔ながらの製法で塩辛をつくる「小田島(おだじま)水産食品」です。木樽仕込みにこだわった塩辛は、発酵菌の働きによる、深みのある味わいが特徴です。



工場に併設されたバルでは10種類の塩辛を食べ比べることができます。

・客
「どれもおいしかったです」
「これからも来るたびに食べたいなと思う味でした」

観光客にも人気の味ですが、スルメイカの仕入れ価格は、この10年で10倍に増えたと言います。

・小田島水産食品 小田島隆社長
「10年ほど前はキロ150円くらいでしたが、いまはキロ1500円になっています。(高いですね)ハハハ。信じられないです」

塩辛に加工するスルメイカは、身が厚くなる秋にとれたものを使っていますが、今年は海外からの輸入にも頼っています。



・小田島水産食品 小田島隆社長
「去年まではまだ国産オンリーだったんですが、外国のアルゼンチンイカも少し混ぜて作っています。基本的には函館のスルメイカを使ってきたので、ぜひ秋口にたくさん取れてほしい」

■珍味製造会社はイカ乾燥機で“干し芋”を製造

一方、こちらはイカの珍味などを製造する「山一食品」です。

乾燥機に並んでいるのは、どことなく黄色っぽいイカのようにも見えますが、完成した商品を食べてみると…。

・麻原衣桜 記者
「とってもしっとりしています。甘さが口に広がります」



実はこれ、道産のサツマイモ「紅はるか」でつくった干し芋です。

イカの不漁を受け、スルメイカの代わりに目をつけたのが、道内でも生産量が増えているサツマイモ。

3月から「さきいか」の乾燥機を活用して、干し芋の製造に乗り出しました。

・山一食品 吉村直人常務取締役
「イカも水分を落として旨みを凝縮する工程があるんですけど、それに近いものが干し芋にもあるなと。70年近くイカの製品でお客様に購入していただいている身としては、やはり(イカ製品を)なくすことはできない。他のもの、食品全般を作りながら山一食品を知っていただけたらと思う」

■イカが復活するまでの苦肉の策

堀啓知キャスター:
イカの加工技術を生かして「干し芋」を製造いるんですね。

鶴岡慎也さん:
自称、サツマイモ大将の私としては嬉しいんですけれど、やはりイカの加工会社がこうやって何とか売り上げを上げていこうとする企業努力には、頭が上がりません。でもやっぱり僕はイカが食べたいですね。

堀キャスター:
結局、高いイカで生産してても採算が難しいですね。イカの加工品を10倍の値段で売るということにはならないですよね。

堀内大輝キャスター:
完全に干し芋に振り切ったわけではなくて、あくまでもイカが復活してくれるまでの苦肉の策ということです。



■イカの養殖技術の現在地

堀内キャスター:
水槽で泳いでいるのは、スルメイカではなく、日本沿岸に広く生息するアオリイカです。イカの養殖は困難と言われている中で、2022年に沖縄科学技術大学院大学の研究チームが、5年がかりで、ふ化から繁殖までの累代飼育を10世代に渡って繰り返すことに成功しました。

ふ化してから90日までの生存率は平均で60%、90%を超えるときもあったということです。これにより商業的な養殖の可能性が見えてきて、現在はスタートアップ企業が5年後をめどに養殖技術の確立を目指しています。

堀内キャスター:
商用化を目指すカフーオーシャンの中島代表にイカの養殖の難しさを聞きました。

【イカの養殖が難しい理由】
・水槽の壁にイカがぶつかって死んでしまうことがある
・共食いの危険性
・水温などの水質管理が難しい
・生きた餌を好むため、餌の調達にコストがかかる

■スルメイカの養殖は現状では困難

堀キャスター:
スルメイカはどうなんでしょう。

堀内キャスター:
スルメイカは、稚イカのサイズが小さいんですね。アオリイカは約7ミリと言われているが、スルメイカはかなり小さく約1ミリ。そうすると餌を与え続けるのが非常に難しい。そのため、技術の応用はできるかもしれないが、現状はかなり難しい。

鶴岡慎也さん:
その困難乗り越えてもらわないと…生でも加工品でもスルメイカ食べたいですよね。養殖でぜひ頑張ってもらいたい。まあ、海にかえって来てもらえるのが一番ですけどね。函館の為にも。

堀キャスター:
今までは本当に無理なんじゃないかと言われていたけれども、イカの種類によって今一歩二歩前進しているということですよね。そして今年のスルメイカ漁の見通しはどうなのでしょうか。

■「黒潮大蛇行」が終息する兆しで復活の可能性

堀内大輝キャスター:
専門家に聞きました。不漁の原因の1つに挙げられているのが「黒潮大蛇行」です。



そもそも黒潮は、東シナ海を日本の南岸に沿って北上する海流で、2017年以降、大きく蛇行していて、稚イカが南に流されてしまい、日本沿岸で育ちにくいなどの問題がありました。

しかし気象庁は5月、7年9か月続いた「黒潮大蛇行」が終息する兆しがあると発表しました。北海道大学大学院の中屋光裕准教授によりますと、黒潮大蛇行が終息することで、流れ的に進みやすくなる。

上手く生き残った稚イカが育っていたら秋くらいから漁獲が増えてくる可能性があるということです。

堀キャスター:
ぜひその通りになってほしいですね。海の資源が減っているという話題はよくありますが、一つは養殖技術向上で何とかしてほしいと思う一方で、環境を私たちがどう守っていくかということも、同時に重要になります。

北海道ニュース24