今日ドキッ!トークライブ民意の受け皿…選挙イヤーを振り返る

2019年12月27日・「北海道大学 W棟103教室」にて開催

会場の様子(画像)

統一地方選と参院選が重なった2019年。知事選では、自民党と公明党が推薦する鈴木直道氏が、野党が推薦する石川知裕氏を破り初当選しました。また3つの議席を争った参院選道選挙区でも自民党が2議席獲得するなど、自公政権の盤石さが際立ちました。一方、野党側では既存政党の弱体化が浮き彫りとなる中、山本太郎氏が率いるれいわ新選組が大躍進。これらの選挙結果は、果たして本当に民意の受け皿となっているのでしょうか。
今回のトークライブでは、北海道大学の吉田徹教授とHBCの大佐賀南記者が、参院選での有権者の投票行動とれいわ新選組の躍進の背景について、選挙報道のウラ側を交えながら解説しました。
※トークライブの模様は動画(Youtube)でご覧いただけます
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テレビの「選挙」報道とは

大佐賀 2019年は統一地方選と参院選が重なる12年に一度の年です。波乱を呼ぶ亥年選挙とも呼ばれています。選挙報道では、投票が締め切られる午後8時に「当確(当選確実)」を打てるように、さまざまな世論調査を行っています。投票所での「出口調査」や電話による「オートコール調査」などです。さらに各候補者の陣営への取材を加えて、午後8時の時点で大きな差がつけば当確となります。大差がついていない場合は、開票所で開票作業の手元を見ながら票を数える「票読み」を行って、すばやく当確を打てるように情報収集します。
また選挙取材は、投票日だけではありません。期間中、候補者に密着して有権者に訴える政策や支持を受ける団体を取材します。選挙の争点や構図をわかりやすく伝えながら、有権者に興味を持ってもらうように工夫しています。

開票作業の様子(画像)
開票作業の様子(開票特番より)
今日ドキッ!内で放送した「1分で分かる争点~農業自由化~」(画像)
今日ドキッ!内で放送した「1分で分かる争点~農業自由化~」

選挙戦をテレビで放送する「意味」

大佐賀 テレビの強みは映像と音声ですが、それだけでは伝わらないことがたくさんあります。取材で意識するのは、候補者の訴えと選挙戦の構図をあぶりだすことです。今回の取材では、ある候補者が所属政党の現職議員と目を合わせない不自然な光景がありました。実はその候補者には現職議員から支援を得にくい状況が横たわっていました。なぜそんなギクシャクした状況が生まれてしまったのか?その背景を探っていくと、陣営内の複雑な力関係が見えてきました。政策や争点はもちろんですが、対立の構図がわかれば、選挙はぐっと面白くなります。

吉田 政治家にとってテレビは非常に重要なメディアと認識されています。1960年のアメリカ大統領選では、テレビで若々しく歯切れの良い印象を与えたケネディが、現職のニクソンを破りました。政治は見た目も重要です。それから半世紀たち、SNSやYouTubeを駆使した候補者が議席を獲得するまでになっています。テレビというメディアが政治の世界でも問い直される局面になっています。

大佐賀南記者(画像)
大佐賀南記者

大佐賀 選挙を取材する心構えには「公平・中立」、一党一派に偏らないように注意するという原則があります。今回の参院選では、「れいわ新選組」が比例代表にしか立候補者がいなかったため、選挙期間中、地上波のテレビではなかなか取り上げられませんでした。

吉田 比例代表の場合、全候補(155人)を平等に扱うことが求められるということですが、何を伝えるかということと平等に扱うということのジレンマがテレビにはあると思います。

吉田徹教授
吉田徹教授

2017年の衆院選で分裂した旧民進のその後…

大佐賀 今回の参院選では、自民党の高橋氏と岩本氏の得票数は合わせて128万票で、前回の参院選の自民候補(長谷川氏と柿木氏)の得票数113万票を13%上回っています。一方、旧民進党から分裂した立憲民主党の勝部氏と国民民主党の原谷氏の得票数は、前回(鉢呂氏と徳永氏)より23%少ない75万票でした。

吉田 非自民勢力の票が分散した結果、共倒れしてしまった構図です。現在、立憲民主党と国民民主党が合流するかどうかという話になっていますが、選挙区ベースでみると非自民勢力で協力関係にないと自民には勝てないという状況です。

自民党候補の票数・旧民進党の票数(画像)

れいわ新選組に期待する人とは…

大佐賀 既存の野党が得票数を減らす中、れいわ新選組は2議席を獲得しました。れいわの道内の得票数は、前回2016年の参院選(「生活の党と山本太郎となかまたち」)の倍以上となる9万票に伸びました。既存の野党に対する有権者のあきらめがあるのではないでしょうか。今の自公政権を変えたいが、今のままの野党ではどうなんだろうと思う人がれいわに投票したと思われます。

吉田 誰がれいわに投票したのか?誰が台風の目にしたのか?政治学者も喉から手が出るほど欲しいデータです。今後いろんな分析が報告されると思います。ただ、れいわと立憲民主の支持基盤は重なっていて、立憲民主の支持基盤が高い地域でれいわへの得票が伸びている傾向がみられます。

比例代表 道内の結果発表(画像)

吉田 れいわは「左派ポピュリズム」に位置付けて良いと思います。れいわは基本的に経済面では反グローバル主義を掲げ、TPPやEPAには反対です。また社会的にはダイバーシティ(多様性)を大事にしていこうという考えです。なぜ今、ポピュリズムというものが寛容されてきたのかというと、根底にはメディア不信があります。既成メディアが正しく物事を伝えていない、自分たちが感じている大事な問題を、メディアは伝えてくれないという不信感が既成政党とメディアに向けられています。それが新しい声となって表現されているのが一つのポピュリズムです。そういう意味では今回、台風の目になったれいわ新選組というのは、メディアそのものが作り上げたとも言えます。

「国民のみなさん」ではなく「あなた」

大佐賀 れいわ新選組の街頭演説を取材して、実感したのは幅広い世代に支持を広げているということです。山本代表は元俳優ということもあって話は上手です。「皆さんからの質問に、なんでも答えます」というのが山本代表の演説スタイルです。一方的な演説ではなくて、「はい次、あなた!」と集まった人から質問を募り、それに答えていきます。「あなた」と呼びかけることで、政治の問題を「私」の暮らしに結びつけるのが上手だなと感じました。

れいわ新選組“該当記者会見の様子”(画像)

野党と「れいわ新選組」の今後

大佐賀 立憲民主党と国民民主党は合流に向けた協議を進めています。そうした中、れいわの山本代表は、野党が消費税5%で合意できなければ各選挙区に独自候補を出すと表明しています。したがって今後、消費税をめぐって野党がまとまれるかどうかで選挙の構図は大きく変わってきます。そういう意味でも、れいわ新選組の動向が一つのカギになっていくのではないでしょうか。

利尻島から全国行脚をスタートさせたれいわ山本代表(画像)
利尻島から全国行脚をスタートさせたれいわ山本代表

政治とメディアが抱えている問題は同じ

吉田 政治は代表制民主主義が基本です。我々が代表を選び、彼らがもたらす法律とか政策とか、またその成果を共有するのが代表制民主主義です。そのサイクルがうまく機能するために必要なのは代表に対する信頼です。信頼があって初めて代表制民主主義が成り立ちます。しかし今、その信頼が壊れてしまっています。どの国も国民の多くが「政治家は自分たちを顧みていない」と思っていて、既成政党に対する不信感を募らせています。その結果、各国でポピュリスト政党が生まれています。

テレビにも同じことが言えると思います。放送している情報や内容が視聴者に"自分事"としてとらえられているかどうか?それがどんどん少なくなってきているからこそ、テレビが不信の対象だったり、視聴者のテレビ離れが進んだりしていると思います。

既成政党に対する不信とオールドメディアに対する不信は同じ次元にあると思います。その代わり強度を増しているのが、山本代表が「あなたは」と呼びかけるような当事者感、ライブ感のあるSNSです。自分を肯定してくれる、自分が知りたい情報だけを選び取ることができるメディアのほうが信頼感を増している、というような関係ができています。

こうした状況下で果たしてテレビは民意の受け皿となりえるのか、重要な局面になっています。今後、テレビ業界も視聴者とどんなインタラクティブな関係を築いていくか、そのためのイノベーションをどう起こしていくのか考えないといけないのではないでしょうか。

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