北海道のニュース

 “アイヌ民族への差別”と批判の声「事実を歪曲している」札幌の地下歩行空間に展示されたパネル展をめぐる騒動 なぜ差別を禁じる法律がありながら許可されたのか? 札幌市

2025年10月01日(水) 18時10分 更新

 今年9月、札幌の地下歩行空間でアイヌ民族について、あるパネル展が開かれ、問題となっています。

アイヌが先住民族であることを否定した、パネル展の内容をめぐり、研究者は差別的だと指摘しています。その内容と、札幌市役所がとった対応の是非を考えます。

◇《アイヌ民族が先住民族であることを否定するパネル展》
 9月16日、札幌駅前通地下歩行空間で開かれた『アイヌの史実を学ぼう!』と題したパネル展。その内容をめぐって、展示に反対する研究者や市民との間で、騒動が起きました。



主催者
「すみません、展示会やってますから」

抗議する市民
「見たいので。展示しているんですもんね。見させてもらっているので」

アイヌが先住民族であることを否定するほか、アイヌの同化政策を進め、その後、廃止された『北海道旧土人保護法』を称賛。和人がアイヌを文明化したという趣旨の内容が、展示されたパネルには、書かれていました。パネル展の主催者は…。

『アイヌの史実を学ぶ会』伊藤昌勝会長
「このかたが、アイヌなんだっていうことは、全然会ったことも見たこともないし、アイヌが先住民だって全然わからない。わからない今でも。先住民の定義がわからない」



◇《研究者は展示内容は「事実を歪曲している」と強く批判》
 一方、アイヌの近現代思想史を研究するマーク・ウィンチェスター氏は、展示の内容について「事実を歪曲している」と強く批判します。

アイヌ近現代思想史の研究者 マーク・ウィンチェスター氏
「近代化の過程において、アイヌが優遇されていたかのような主張。こちらには“至れり尽くせりの北海道旧土人保護法”とあります」

「有効ないい土地が、すべて和人に渡された後に(北海道旧土人保護法の)法律がうたれたわけだが、水害地や斜堤など、農地に向いていないような土地もたくさんアイヌに付与されていました。見かけには平等だと言っているが、そのような歴史的事実は、まったく書かれていないわけです」



◇《アイヌ史研究者の著書を“つなぎ合わせて”異なる見解に…》
森田絹子キャスター)
 パネルの中には、ある研究について“正反対に引用している部分”もありました。例えば、アイヌ史や考古学を研究する瀬川拓郎教授の著書の文章をつなぎ合わせて、パネルのなかで、次のように“引用”しています。

▽【瀬川拓郎教授の著書から文章を“引用”して作成されたパネル】
『日本列島の縄文人は、隅々まで同一の祭祀や呪術という精神文化を共有していました』(『アイヌと縄文』ちくま新書)

『彼らの言語は「縄文語」という共通語である可能性があります」(『アイヌと縄文』ちくま新書)

『日本人の祖先とも言えるでしょう』



森田絹子キャスター)
 最後の文書(『日本人の祖先とも言えるでしょう』)は、主催者独自の解釈のものと思われます。

堀啓知キャスター) 
 言葉をつなぎ合わせて、新しい文章にして、北海道と本州の一体性を印象付けることで“アイヌが先住民族であることを疑う根拠”にしているということでしょうか。

森田絹子キャスター)
 HBCが瀬川教授にパネル展に引用されたことについて、取材をしたところ、次のような回答が来ました。

【札幌大学 瀬川拓郎教授】
「縄文時代以降、北海道の人びとは本土と異なる歴史を歩み、言語も含めて、本土とは異なる文化を形成してきた。そのような北海道の人びとが、近代には本土国家によって支配され文化的に同化されていったことから、国連などのいう“先住民族”と呼んで差し支えない」

「いずれにしてもアイヌが、縄文時代から北海道に暮らし続けてきた人びとである、という事実に注目する必要があります」



堀啓知キャスター)
 瀬川教授は“アイヌを先住民族”としていますが、異なる主張に利用されてしまったということになりますね。

森田絹子キャスター)
 『アイヌ施策推進法』でも先住民族と認めており、アイヌへの差別を禁止しています。今回のようにアイヌへの差別や誤解を招く恐れのある展示を公共的な空間ですることは、問題ないのでしょうか?

◇《アイヌへの差別禁止の法律がある中、なぜ許可された?》
 地下歩行空間の利用規約では『アイヌ施策推進法』や『ヘイトスピーチ解消法』を遵守するよう求めています。

これまでも、札幌市の施設や地下歩行空間では、同じパネル展が複数回行われています。そのたびに市民団体から、差別的な内容だと批判の声が上がっていました。

札幌市は、申請内容を判断するのは指定管理者の『札幌駅前通まちづくり株式会社』と前置きした上で、札幌市も協議して、許可を出したと話します。

札幌市都心まちづくり課 伊関洋課長
「憲法でも表現の自由、言論の自由、また検閲を行ってはならないという自由が定められてございますし、地方自治法でも公の施設の利用に関しては、利用制限をなるべく行わないような形で、法の上で保障されておりますので、非常に難しい問題だというふうに我々も課題として認識しているところでございます」



◇《パネル展の内容について沈黙する札幌市》
 それでは、今回のパネル展の“内容”に問題はないのでしょうか。札幌市のアイヌ施策課の担当者は、HBCの取材に対して、回答そのものを拒否しました。

ヘイトスピーチ問題に詳しい島田度弁護士
「ああいうことが、しかも公共の場でなされるというのは、別に札幌市がお墨付きを与えたわけじゃないんだけれど、一般に見てる人は“札幌市のお墨付きがあるんだな”と誤解をしてしまうかもしれない」

ヘイトスピーチの問題に詳しい島田弁護士は、札幌市がパネル展についての見解を示さないことは“問題”だと指摘します。

ヘイトスピーチ問題に詳しい島田度弁護士
「政府なり、自治体なりがはっきりと差別反対の姿勢を表明する、言明するということ、これ自体も差別の抑制のために非常に有効な機能を果たす」

「自治体としては間違ってると思うけれど、地方自治法の規定もあるから展示そのものは許可してるんですよっていう、そういう姿勢を自治体がしっかり打ち出すことが必要だと思います」

札幌アイヌ協会は9月30日、札幌市役所を訪れ、今後このようなパネル展を許可しないよう、札幌市に求めました。

札幌アイヌ協会の女性
「間違った歴史認識を流したり、ヘイトスピーチのようなものを流すということは、アイヌ施策を進める札幌市としては、まったく逆のことをしている」



◇《次回、開催予定だったパネル展は中止に…》
森田絹子キャスター)
 パネル展は、10月8日にも開催される予定でしたが、中止になったことがHBCの取材で判りました。

主催者によりますと、地下歩行空間の指定管理団体『札幌駅前通まちづくり株式会社』から利用規約に反すると指摘があったということです。

堀啓知キャスター)
 パネル展に反対する市民団体は、展示の中止を求めて署名活動を行っていて、約2万5千筆が集まっていたということです。札幌市は、アイヌや研究者、市民らの声をよく聞いた上で、対応を考えてもらいたいものです。

北海道ニュース24