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【ヒグマSOS】9月1日から「緊急銃猟」制度スタート ヒグマ出没で市街地での猟銃発砲が可能に 一方、ハンターからは不安や葛藤の声も

2025年09月01日(月) 20時14分 更新

 ヒグマの出没が相次ぐ中、9月1日から、これまで禁止されていた「市街地での発砲」ができるようになりました。新たな制度「緊急銃猟」とは。


■北海道各地で相次ぐヒグマの出没
夜の畑に現れ、スイカをむさぼるヒグマの映像です。

畑の所有者
「(残っていたスイカ)19個、何もない。全部終了。早く本当に捕獲してほしい…」



北海道内で連日確認されているヒグマの出没。

7月には、北海道南部の福島町で新聞配達員の男性がヒグマに襲われ、命を落とす事故も。

ヒグマの行動範囲がヒトの生活圏にも及ぶ中、9月1日、始まったのが、市町村の判断で、ハンターが発砲できる「緊急銃猟」です。

人里に現れるクマから住民を守ることはできるのか?もうひとホリします。


■「緊急銃猟」とは?
8月、札幌市で行われた「緊急銃猟」の訓練です。

札幌市の担当者
「緊急銃猟のチェックリストに基づいて条件が整っているか最終確認したいと思います」



緊急銃猟とは、クマやイノシシなどが人の生活圏に出没した時に、「危害を防止する措置が緊急に必要」なことなど、条件を満たせば、市町村の判断で発砲できる制度です。

これまでは、市街地での猟銃の使用は禁止されていて、緊急時に限り、警察官の命令などで認められていましたが、相次ぐヒグマの出没に迅速に対応する必要から、法律が改正されました。

ただ、肝心の“スピード”をめぐって、早速、課題が。

札幌市環境共生担当課 坂田一人課長
「避難誘導や交通整理にかなりの時間を要することが分かった。速やかに済むように人手をかき集めていきたい」

江差町の訓練でも、ハンターに発砲を委託するまでに安全確保や書類の準備など、多くの手続きが必要になりました。

ハンター「捕獲する前に?」

北海道の担当者「そうです。捕獲する前に」

北海道の担当者「安全確保のすべての条件がそろってから、捕獲者に…」

ハンター「クマ逃げてまうべや…」


■出動するハンターの責任
新たな発砲の制度に、懸念を抱いている人もいます。砂川市のハンター、池上治男さんです。

北海道猟友会砂川支部 池上治男さん
「これ、ヒグマの足跡です。ヒグマの足跡ありました」

池上さんは、2018年、砂川市の要請で市街地に出没したクマを猟銃で駆除。



しかし、その後、「住宅に銃弾が届く恐れがあった」として、北海道公安委員会に「猟銃所持の許可」を取り消されました。

現在も、北海道を相手に裁判で争っています。

池上さんは、市町村判断による新たな制度でも、ハンターの責任が問われる事態が起きないかと、心配しているのです。



北海道猟友会砂川支部 池上治男さん
「ハンターは不安どころじゃない、それ(緊急銃猟)は無理…。自分たちが、私のような目に遭ったら…ということをみんな思っている。本当に撃つ最終的に要請かかるハンターの身の安全(保障)がどうなるのか。ってところを、決着してもらわないとだめだと思う」



現場の不安の声を受けて、北海道猟友会は先週、すべての支部に向けて、市町村から要請を受けたとしても、状況を確認して発砲に疑念がある場合は、ハンターの判断で「中断または中止」できると、通知しました。



北海道猟友会 堀江篤会長
「撃った後どうなるか、そういう心配をなくしてほしい。安心して発砲・捕獲できる体制をしっかりと作ってほしい…」

人里での迅速な駆除には、関係者の連携と、ハンターが安心して発砲できる環境づくりが求められています。


世永聖奈キャスター:
クマによる犠牲者も出る中、新たな猟銃発砲の制度は、切り札となるのでしょうか。

堀内大輝キャスター:
HBC北海道放送では、シリーズ「ヒグマSOS」として地域の住民や対応に追われる行政など、様々な「SOS」の声やサインを取材して、問題解決の糸口を皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

■「緊急銃猟」制度スタートでどう変わる?
堀内大輝キャスター:
緊急銃猟によって、クマの駆除がどう変わるのか、整理しました。



これまでは、市街地での猟銃発砲は禁止されていました。
▽人への危険が生じた緊急時には、警察官の命令によって使用できます。

9月1日からは、
▽緊急銃猟では、市街地や農地、商業施設など「人の生活圏」で使用が可能になり、市町村の判断で撃てるようになりました。

これまで禁止されていたヒトの生活圏での発砲ができ、撃つかを市町村が判断するので、駆除の迅速化が期待されます。これまでの制度も、活用できるということです。


■どんな時に撃つことができる?
堀内大輝キャスター:
また、どんな時に撃てるのかというと…以下の4つの条件全てを満たす必要があります。

【4つの条件】
1)ヒトの生活圏にクマが侵入
2)ヒトへの危害を防止する措置が緊急に必要
3)銃猟以外の方法で駆除が難しい
4)銃猟によって人の生命・身体に危害が及ぶおそれがない

コメンテーター 平野龍一さん:
できるようになったことと、実際に発砲する許可を与えることは、次元の違う話だと思う。自治体の担当者も、判断のスピードや適正な判断をしているかどうかについては、決断ができるかどうかが肝になってくる。


■専門家・酪農学園大学 佐藤喜和教授の見解
堀内大輝キャスター:
この「緊急銃猟」によって、本当に、人里に来たクマを駆除することができるのでしょうか。



酪農学園大学 佐藤喜和教授によりますと
◎駆除について
「クマの背後に山があるなど安全に発砲できる状況では、速やかな発砲ができ、大きな前進」

◎ただし、限界も…
「札幌市の住宅街のような本当の街中では、周りへの被害を考えると発砲は困難」

◎制度を有効に活用するためには…
「事前に、市町村と警察、猟友会などが役割分担や課題を十分話し合っておくことが大事」

堀内大輝キャスター:
クマについて「知ることで防げる被害」もあります。HBC北海道放送の特設サイト「クマここ」では、北海道内から集められた教訓や知恵を紹介しているので、ぜひ、ご覧ください。


■残る課題は?
コメンテーター 満島てる子さん:
「緊急銃猟」によって、実際に出動する人たちの安全や安心感が担保できているのかということが気になる。街中にハンターが出動してクマを撃つことになった時に、発砲の責任はだれが負ってくれるのかというのが大事だと思うし、クマと向き合うハンターの皆さんだけだとおかしい。そのシステムに問題があるので、猟友会の人たちも発砲の中断が可能と通達しているわけで、制度を作る以外に、たくさんやらなければいけないことがあると思う。

堀内大輝キャスター:
市街地にクマが来ないためにどうするのかというのも考える必要があると思います。

世永聖奈キャスター:
酪農学園大学の佐藤喜和教授は「捕獲だけですべての問題を解決できるわけではありません。クマをひきつけないごみや畑の管理など、クマに強い地域づくりが安全な暮らしにつながる」と話しています。

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