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“赤ちゃんポスト”開設から2年 北海道からの中止要請受けながらも運営続ける理由…行政に相談できない“匿名を望む女性たちの存在”

2024年05月15日(水) 20時16分 更新

 親が育てられない子どもを匿名で受け入れる赤ちゃんポスト。北海道当別町で個人の女性が開設して、今月で2年を迎えました。

一方、北海道は施設に対して母子の受け入れの中止を要請しています。母親と小さな命を守るために必要な支援とは。

自宅にベビーボックス「赤ちゃんポスト」を開設した坂本志麻さん(49)
北海道当別町で孤立する妊婦や母親の支援をしている、公認心理師の坂本志麻さん(49)です。

自宅の玄関のすぐ横にあるのが、ベビーボックスいわゆる「赤ちゃんポスト」です。 相談は2000件を超え、全国から寄せられています。

坂本さんの自宅の玄関横にあるベビーボックス「赤ちゃんポスト」(北海道当別町)
当別町で赤ちゃんポストを運営 坂本志麻さん(49)
「孤立や周りを信用できない思いを持っている親にとっては、救いの場になると思う。お金もなくて保険証もなくて1人で悩んでいる妊婦さんがいる中で、“どうぞ”と言ってくれる場が必要ですよね、それは強く思います」

坂本さんは獣医師として海外協力隊に参加。ラオスで動物や子どもたちの支援活動にたずさわる
坂本さんが母子支援の活動を始めたのは、今から15年前。

 26歳の時、青年海外協力隊に参加。貧困であえぐ東南アジアのラオスで、獣医師として動物や子どもたちの支援にあたった経験から、帰国後、九州で孤立する母子や虐待を受けた子どもたちの保護にあたってきました。

 当別町で赤ちゃんポストを開設して2年。活動をめぐって、行政とは対立が続いてきました。

開設時から道は施設に対して、医療体制が取れていないとして、赤ちゃんポストの運用の自粛要請を22回に渡って出してきました。


1月、坂本さんは独りで出産した未婚の母親2人から、匿名で新生児2人を預かりました。しかし、母親が医療機関を受診できておらず、児童相談所の判断で新生児は医療機関へ搬送することになりました。

受け入れ先の医療機関を探すのにも、問題が起きているといいます。

当別消防署 救急課 小出謙二主幹
「当別町の立地から搬送医療機関が札幌市が主になりますが、(新生児の搬送に)必要な情報共有が滞ってしまう場合があって時間がかかった。救急業務とは違うところで問題が発生しているように感じている」

 一方、坂本さんに医療機関と連携する考えがないのか聞くと…。

当別町で赤ちゃんポストを運営 坂本志麻さん(49)
「特定の医療機関だけに、負担をかけるのはよろしくないと思っています。みんながわが事として手を差し伸べる形が本来の姿じゃないかなと思う」

北海道 保健福祉部子ども政策局 東幸彦局長(記者会見 2月)
「新生児ということがあり、医療機関に速やかに受診してもらうことが必要だった」



北海道は坂本さんに対して、妊婦や乳児の「受け入れの中止」を求めたのです。 

中止要請に反して活動を続ける坂本さん。行政など公的機関に抵抗感を持つ、匿名を強く望む女性たちの存在を訴えます。

当別町で赤ちゃんポストを運営 坂本志麻さん(49)
「本当であれば、北海道が匿名窓口、公的機関ができる形の内密出産を実践してくれたら、私が素直に中止要請に従うことができるようにはなる」

 匿名を望む母親と赤ちゃんの命をどう守るのか?赤ちゃんポストを17年前に始めた熊本の病院を訪ねました。

日本で初めて「赤ちゃんポスト」を開設した慈恵病院(9日・熊本市)
 日本で初めて「赤ちゃんポスト」を開設した熊本市の慈恵病院です。

伊藤凛記者
「こちらの長い小道を歩いて行きますと、その先に見えてくるのが『こうのとりのゆりかご』。日本で初めての赤ちゃんポストです」

 熊本県内では、2005年から2006年にかけて乳児の遺棄事件が相次いで発生。そこで、慈恵病院が名乗りを上げ、当時の熊本市長が自治体として初めて、設置許可を決断しました。

自治体初の設置許可で開設された赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」(慈恵病院・熊本市)
5月で開設から17年。「ゆりかご」にこれまでに預けられた子どもは170人以上になります。

慈恵病院の蓮田健院長は、匿名を求める女性の意思を尊重する、当別町の坂本さんの活動に理解を示します。

慈恵病院 蓮田健院長
「匿名性が最も大事だと思っています。行政には絶対知られたくないとか、行政を信用していない人が多いです。ですから、そもそも必要としている人たちは行政には最初から相談しない」「彼女たちにとって、安心して赤ちゃんを預けられるところが大事なわけで、彼女たちが守り通さないといけない匿名性を受け入れなければ、(乳児の)遺棄や殺人の問題改善につながらない」

匿名を望む女性の存在に、道はどのように応えるのでしょうか。

北海道 こども政策企画課 中村浩課長
「(北海道の窓口に)相談していただくときには、匿名性は確保して保障した形で相談を受けられる。相談を重ねていくうちに、そこで終わってしまう方も中にはいるかもしれませんが、寄り添った相談対応していくと、匿名のままは、今まで相談受けているケースの中ではなかった」

蓮田院長は、道庁の見解に疑問を呈します。

慈恵病院 蓮田健院長
「現実、赤ちゃんの遺棄や殺人があるわけです。行政の人たちは一生懸命されてると思いますが、行政の方からご覧になるこの世界と、彼女たちが見ている世界は違う」



「匿名の人たちを受け入れないということは、お腹にいる赤ちゃんを見放していることになる。行き場がなくなるから。赤ちゃんのためと言いながら見放しているわけなので、私はむしろそちらの方が責められるべきじゃないかなと思います」

身元を明かさなければ受けられない行政サービスや医療。匿名を求める女性や赤ちゃんを救うことはできるのでしょうか?支援のあり方が問われています。

 開設から2年を迎えた、当別町の赤ちゃんポストですが、これまで直接預け入れられた事例はありません。
 
一方、海外では赤ちゃんポストが普及する国も複数あり、韓国では匿名のまま医療機関で出産することができる「保護出産」を国が制度化、7月から始まります。