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「乾いた日々に…魔法が広がるような時間」高校教師からストリートマジシャンへ転身…紛争や貧困に直面する子どもたちへ“笑顔を運ぶ旅”

2025年09月10日(水) 09時00分 更新

 困難に向き合う子どもたちへ、笑顔を届け続ける日本人男性がいます。
世界を旅しながら活動する、元高校教師のストリートマジシャン。その思いを見つめました。


◆《紛争や貧困にあえぐマチへ「乾いた日々を潤す魔法を…」》
中国とパキスタンを結ぶ『カラコルム・ハイウェイ』。舗装道路としては、世界一の標高を誇る道だ。1人の日本人が、パキスタンに向かうバスに乗っていた。



加藤竜平さん、29歳。世界各地を巡る、ストリートマジシャンだ。世界各地の路上に立ち、加藤さんは、コインやトランプなどを使ったマジックで、現地の子どもたちを魅了する。

その鮮やかな手さばきを目の当たりにした瞬間、子どもたちの表情は笑顔で溢れる。ストリートマジシャンの加藤さんは、1年の半分を旅先で過ごすという。



ストリートマジシャン 加藤竜平さん
「マジックは言語の壁を越える。みんなストレスとか全部忘れて、乾いた日々を、わっと潤してくれる、魔法が広がるような時間がいいなと思っている」


◆《旅する路上マジシャン29歳…100を超える国や地域へ》
加藤さんは9月、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区にいた。

ストリートマジシャン 加藤竜平さん(新疆ウイグル自治区・9月5日)
「たぶん、気温7℃とか8℃とか…朝は寒いです。ここは標高3000mなので…」

現地では、厳しい監視下で、多くのウイグル族が、息苦しい暮らしを強いられている。

ストリートマジシャン 加藤竜平さん(新疆ウイグル自治区・9月5日)
「どこ行っても監視カメラはあるし、宗教的なことは一切タブー」





---ストリートマジックは?
「路上でやって、結構ウケていました、反応はよかった。けれどやっぱり…あまり自由な感じに、ここでは旅ができない」



これまでに訪れた国や地域は100を超える。そんな加藤さんの姿が8月、札幌にあった。

ビアガーデン会場の客「これがもしかして…?わぁ~すごーい!」



毎年、夏の札幌を訪ねて、大通公園のビアガーデン会場やススキノの飲食店などを回って、マジックを披露している。旅をつなぐ渡航資金を得るための、貴重な1か月だ。

ストリートマジシャン 加藤竜平さん(札幌・8月)
「ビアガーデン会場では声を張らないと通らないので。休憩しながら、水も飲みながらマジックを披露して回る」


◆《世界史を担当する高校教師から…路上マジシャンへ転身》
大阪で生まれ育った加藤さん。幼いころから、人を驚かすマジックが好きだった。

大学を卒業後、世界史を教える高校の教師になったが、どこか違和感を拭えなかったという。

ストリートマジシャン 加藤竜平さん
「当時は23歳で、生徒とは年齢では5~6歳の差。みんな“Ryuhei”と呼び捨てにするくらい距離感が近すぎて。教員として、一人前と言えるには乏しかったものですから…」

加藤さんはほどなくして教師を辞め、独学したマジックと共に、旅に出た。

訪問先は、ネパールの孤児院であったり、シリア内戦を逃れた難民キャンプであったり、困難に直面する子どもたちの前に立って、その心を和ませてきた。

世界各地で笑顔と触れ合うようになり、6年になる。


◆《対立が続くマチから“リアルな日常”をSNSで発信…身の危険も》
世界各地で、今も紛争が絶えない。パレスチナ自治区のベツレヘムを訪ねたのは、今年3月のことだ。

ストリートマジシャン 加藤竜平さん(Instagramより)
「こっちは(ユダヤ人の)入植者がたくさんいる、壁の向こうがアラブ人たち…」「この通りも、昔はパレスチナの商店が並んで賑わっていた。だけれど、ことごとく閉鎖されて」

紛争と対立が続く現地で、厳しい現実を記録して、SNSを通じて発信している。

旅先では、現地で交流が生まれた人の家に招かれることが多い。加藤さんは可能な限り、滞在費を抑えながら、旅を続けている。ただ、紛争地や政情が不安定なマチでは、危険とも隣り合わせだ。アフリカのある国では、旅先の村でパスポートを取り上げられ、地元の警察に拘束される事態にも見舞われた。


◆《当たり前の日常を奪われた子どもたちへ…笑顔を運ぶ旅》
夏の札幌で渡航費を稼ぐため、加藤竜平さんは、夜からススキノの店を回る。その前に立ち寄ったのは、札幌・手稲区にある『子ども食堂』だ。

トランプのカードを使ったマジックを次々と披露すると、集まっていた子どもたちから、大きな驚きの声と歓声が上がる。いつも子どもたちの驚きと笑顔は、加藤さんにとって、とびきりの報酬だ。



ストリートマジシャン 加藤竜平さん(札幌・9月)
「来週からまた海外に行っちゃう。年に一回は、必ず札幌に来るから、来年もここにいたら、また新しいマジックを見せるね」

子どもたち
「ありがとうございましたー!」

ストリートマジシャン 加藤竜平さん
「シリア難民キャンプは、ちょっと大人たちの表情が暗かったと感じました。もしかしたら、僕らもそういうところに生まれたかもしれないと思ったら、ひと事にならないから自分の目で見たいし…」

「僕はマジックで、みんなを喜ばせたくて、あちこちのマチへ行ったのに、逆に僕がパワーをもらうほど、みんなパワフルで笑顔が絶えないくらい…世界中を回りたい、もっともっと」



現在はパキスタンに滞在中で、今後はリビアやチュニジアなどを回り、赤道を南下して、アフリカ大陸を旅する予定だという。ストリートマジシャン、加藤竜平さん。『魔法の旅人』は、当たり前の日常を奪われた子どもたちへ、笑顔を運ぶ旅を続けている。

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