令和のコメ騒動が酒米に波及 主食米よりも安く「辞めた農家もいる」 “日本酒”需要が高まる中で作付面積が減少
2025年06月18日(水) 16時27分 更新
コメの価格が高止まりしています。
「令和のコメ騒動」の影響を受けているのは、普段食べている「主食米」だけではありません。
伊藤亜衣記者
「栗山産のお米で作った日本酒『キタノニシキ』をいただきます。ちゃんとお米の甘さも感じられて美味しいです」
海外での日本食ブームに加え、
2024年12月には「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録され、世界から注目を集める「日本酒」ですが…。
酒造会社
「（原料の）米が大幅に上がってしまうので、やはり価格転嫁などが必要になってくる」
日本酒の原料となる酒米の生産地でも…
酒米農家
「このままいけば、やはり（酒米の）作付面積の減少、あるいは（酒米農家の）消滅…」
終わりが見えない「令和のコメ騒動」。
苦境にあえぐ酒造りの現場を取材しました。
明治時代から続く北海道栗山町の小林酒造です。
北海道産の酒造好適米にこだわった酒造りをしていますが、コメの価格高騰が大きく影響しているといいます。
小林酒造 小林米秋 取締役
「（日本酒の）小売価格が一気にこう上がってしまうと、使っていただいている飲食店や一般の消費者も手が出しづらくなってしまう」
価格転嫁による消費者の「日本酒離れ」も懸念される一方、コメの価格高騰に伴う、原料米の値上がりに対応するため、小林酒造では原料を有効に使う”精米方法”にも取り組んでいます。
小林酒造 小林米秋 取締役
「扁平精米というのに挑戦しまして、あまりお米を磨きすぎずとも、原料の歩留まりを高くして、いいお酒が造れる（と期待されている）」
主食米の値上がりと同様に、日本酒の原料となる酒米も高騰しています。
北海道産酒米のほとんどを取り扱うホクレンは毎年、全国の酒造会社に需要を確認して販売価格を決めています。
2024年の北海道産酒米の販売価格は、60キロあたり1万5550円。
それに対し主食用の「うるち米」の2024年の取引価格は2万4500円と前の年から9000円以上跳ね上がり、酒米を大きく上回りました。
酒米の作付面積”北海道内一”を誇る空知の新十津川町では…
ピンネ酒米生産組合 川村登 副組合長
「当然その分『うるち米』を作っているほうが収入にもなるし…当然（酒米の生産を）辞められていった農家もいます…」
新十津川町では2024年度、15戸の農家が合わせて、約148ヘクタールで酒米を栽培していましたが、2025年度は約100ヘクタールに減りました。
ピンネ酒米生産組合 川村登 副組合長
「やっぱり面倒臭いんですよ、酒米の肥培管理っていうのが…。やっぱり皆さん、一経営者ですから、当然、安いものというか、お金にならない物は作らないのは普通だと思うんですよね」
「ゆめぴりか」など主食用の「うるち米」に比べ、酒米は栽培が難しく手間もかかるうえ、主食米より取引価格が安くなってしまい、農家にとっては酒米を作るメリットがなくなってしまったといいます。
ピンネ酒米生産組合 川村登 副組合長
「このままいけばやはり（酒米の）作付面積の減少、あるいは消滅…ということも考えられる…。うるち米と酒米の価格差をなくす、っていうのが一番ではないか」
生産者の努力が実り、道産酒米の評価が高まってきた中での「令和のコメ騒動」。
重要なのは消費者と酒造メーカー、コメ農家のすべてが納得できる価格に収めることだと、小林酒造の小林米秋さんは話します。
小林酒造 小林米秋 取締役
「実際いろんなコストが上がってきているところだと思いますので、これを元の価格に戻そうというのは、正直農家さんのことを考えてもあまりいいことではない。まずは適正価格といいますか、今までと同じ価格とは言わないが、バランスがとれる価格に収まってもらうのが、いま、その（コメ騒動の）終着としては大切な部分だと思う」
■主食米と酒米の取引価格の動向
2023年産までは、それほど差はありませんでしたが、2024年産から主食米の価格が跳ね上がり、酒米の価格を大きく上回っています。
・道産酒米 18年産：1万4950円→24年産：1万5550円
・主食用米 18年産：1万5315円→24年産：2万4500円
2025年の酒米の価格は8月に正式決定され、引き上げられる見込みだということです。
■コメ農家が求めること
取材したピンネ酒米生産組合の川村さんによりますと、
・酒米は主食用米と扱いが同じなので、加工用米のような補助があれば
・米価格の安定につながる政策を（高騰した価格も備蓄米の放出などでどうなるか見通せない）
農家が安心して生産できる制度づくりが求められています。