14年ぶりの津波警報で避難 北海道内38市町にアンケート 4割自治体が「トラブルあった」避難情報の周知に課題 担当職員「初動期の対応や庁内の連携不足」
2025年09月04日(木) 00時22分 更新
7月30日、カムチャツカ半島近くで発生した巨大地震。北海道内の太平洋沿岸に津波警報が発表されましたが、浮かび上がったのは、「情報伝達」のもろさでした。
・住民
「今ごろになって、ずいぶん遅いな」
・釧路市防災担当者
「市民の皆様に届くのが遅れた」
なぜ、対応は遅れたのか?
HBCでは今週、防災減災を考える「防災ウイーク」をお送りしています。
「今日ドキッ!」では、7月に津波警報が発表されたときの対応について、道内太平洋沿岸の38の市と町にアンケートを行い、37の市と町から回答を得ました。
その結果、道内でおよそ40万人を対象に緊急安全確保や避難指示が出され、あわせておよそ4万7000人が、高台の避難場所や避難所に実際に避難したことがわかりました。
東日本大震災以来、14年ぶりの「津波警報」で避難行動を取った人が多くいました。
一方で「住民避難に関するトラブル」を尋ねると、4割弱、14の市と町が「トラブルがあった」と回答しました。
■住民避難に関するトラブル「あった」14市町/37市町
・Lアラートの入力が遅れた
・避難する車で渋滞が起きた
・遮断機が下りたままで通行できなかった
・警報解除前に帰ろうとする住民がいた…など
課題のひとつにあがった「Lアラート」ですが、避難情報の周知に、大きな役割を果たしています。
仕組みはこうです。
市町村がシステムに情報を入力すると、報道機関や、携帯電話会社などに一斉に配信されます。
スマートフォンの「緊急速報メール(エリアメール)」もLアラートを通して送られています。
Lアラートの入力が遅れると、スマートフォンの通知がこないことがあるのですね。
現場では何が起きていたのか、釧路市を取材しました。
■「避難指示メール」は津波到達後…
・石黒拓海記者(7月30日)
「午前9時40分です。釧路市内、今、無線が鳴っています。津波警報に切り替わったところで、無線が鳴りました」
釧路市内の高台にある公園。50人ほどが避難していました。
・釧路市民 安藤朝興さん
「警報が出てテレビで『避難しろ』と言っていたので、避難するまで時間はかけなかった」
安藤朝興さん。自宅の300メートル先に釧路川が流れています。
安藤さんは、足腰の悪い妻と、車で高台の避難場所に向かいました。
・安藤朝興さん
「駐車場が埋まっていて駐車場でないところまで、駐車、誘導していた。避難場所では昼に非常食と水が出た。みんな比較的落ち着いていた」
安藤さんのスマートフォンに、避難指示を知らせる緊急速報メールが届いたのは高台に避難してから1時間以上あとでした。
・安藤朝興さん
「あの時間(午前11時半)だったらもう津波来てたからね。津波来た後に『あなたの地域は避難しなさい』と指示が出た。これはまずいよなと思う」
釧路市の担当者は、市民からの『問い合わせ』が、遅れが生じた原因のひとつだと振り返ります。
・釧路市総務部防災危機管理課 島田勇気 避難対策調整主幹
「(市民から)電話が多くきた。『どういう警報なのか』『自分の地域が避難対象なのか』とか、『どこに逃げたらよいのか』という内容の電話がほとんど」
防災担当の職員全員が、市民からの電話に対応していたのです。
釧路市沿岸に津波の第1波が到達したのは午前10時30分。市の担当者がLアラートの入力に着手できたのはそれから30分ほど経った、午前10時59分でした。
さらに、避難場所など必要な情報を手入力で打ち込むのにも時間がかかり、Lアラートが発信されたのは、午前11時35分でした。
・釧路市総務部防災危機管理課 島田勇気 避難対策調整主幹
「事前に入力内容を保存できない、入力に時間がかかるシステムため遅れが出た。初動期の対応や庁内の連携不足が出てきた。今後は周知などを徹底していきたい」
■課題の洗い出し、優先度の検討を
釧路市は、Lアラートの入力方法について道に改善を求めているということです。
Lアラートの発信が津波の第1波到達時刻より遅れた自治体は、ほかにもありました。
・住民対応に追われた…釧路市
・代替施設に移動したため端末操作ができなかった…室蘭市・厚岸町
北大地震火山研究観測センターの高橋浩晃教授は、津波警報の経験がない自治体職員が増える中、今回は課題の洗い出しができるよい機会だったと分析しています。
しかし日本海溝・千島海溝の地震では、第1波が最大となり、到達まで20分ほどしかありません。
そのため、自治体は、短時間で「何を優先すべきか」事前に検討することが大切だと指摘しています。
私たち住民側としても、今回のことを防災対応を見直す機会にしたいですね。