お互いばったり出会うとリスク高い「すべてのクマ事故は防げる」はず…危険な兆候に気づいて対処する手立てが“圧倒的に足りていない”専門家の警鐘
2025年09月06日(土) 11時48分 更新

7月12日、北海道福島町三岳で、近くに住む男性から「新聞配達員がクマに襲われ、引きずられていった」と110番がありました。草やぶの中で倒れている新聞配達員の男性が発見され、その場で死亡が確認されました。
事故があった翌13日、札幌市内の町内会で、ヒグマ勉強会が開かれました。この地域でも6月末にクマの出没があったばかりで、出没情報をどう受け止めるべきか、地域でできることは何かを考えました。(HBC北海道放送:幾島奈央)
■クマに気をつけるべき時間帯は?
ヒグマ勉強会を開いたのは、札幌市中央区の円山西町の町内会です。
勉強会には、クマの専門家・間野勉さんも参加していました。3月まで北海道立総合研究機構に所属し、長くクマの研究や調査に携わってきました。ヒグマ勉強会(7月・札幌市中央区円山西町)
前日に福島町で死亡事故が起きたばかりだったこともあり、参加者からは事故を受けての質問が相次ぎました。
たとえば、福島町で通報があったのは午前3時ごろだったことから、「円山西町でも早朝に散歩する人もいるが、どうしたらいい?」という質問が出ました。
間野さんは、「動物の活動時間帯は人間の影響を受けます。札幌ではこれだけたくさんの人が活動しているので、基本的にクマは日中の活動は避けている。でももしこのマチから人がいなくなったら日中も活動するでしょう。いま、日中にクマが住宅地を歩いていないということは、人を忌避している。積極的に寄ってくるクマではないと思える」と話しました。札幌市中央区円山西町に出没したクマ(6月24日午後10時半ごろ)視聴者提供
札幌市中央区円山西町の住宅地では、4月に「クマらしき動物」、6月末にはクマが目撃されていますが、いずれも夜の時間帯です。
間野さんは「人の活動がおさまっている夜明けと夕暮れの時間帯に、ジョギングなどの活動をすると遭遇の確率は上がるということになります。ただ、朝はやっぱり活動したいということはあるでしょう。そのときは、人の存在をきちんと知らせる。音は漫然と出すのではなくて、どれだけ音が出るかには風向きも考える必要がある。鈴をつけてるから大丈夫ではなくて、音を知らせるということを意識する必要があります」と呼びかけました。札幌市南区簾舞で防犯カメラに記録されたクマ(2025年6月18日午後9時半ごろ)札幌市提供
ほとんどのクマは、「音を出す」などで人がいることを知らせると、人を避ける行動をとります。お互いに気づかずにばったり出会うと事故のリスクが高いため、クマ鈴はそれを避けるための1つの対策です。
■例外となる危険な兆候
ただ例外として「人に近づいておいしいものを食べられたなど成功体験をしたクマ」は、人に積極的に近づくようになるとも話しました。クマの専門家・間野勉さん(7月・札幌市中央区円山西町)
7月12日の福島町三岳の事故については、HBCニュースでは、7月9日に福島町月崎で目が合うと近づいてくるクマが目撃され、荒らされたごみ箱も見つかったことや、亡くなった男性が職場の人に「2~3日前にもクマと遭遇した」と話していたことを伝えています。
間野さんも、福島町の事故の個別の原因や経緯はこれからくわしく検証される必要があるとした上で、一般的に、「人を見ても逃げない」、「住宅地でごみをあさっている」など危険な兆候のあるクマがいる場合には、すぐに気づいて対処する必要があると指摘しました。札幌市中央区円山西町の町内会で行われた勉強会(7月13日)
今回の勉強会では、地域で対策に取り組む効果や必要性がわかり、それぞれにできるクマ対策を考える機会になりました。
しかし終了後に間野さんは、個人や地域のレベルだけではなく、都道府県や国の仕組みのレベルでも対策が急がれるということも教えてくれました。
■即応できる人と体制の構築へ
「すべてのクマによる事故は防げるはずなのに、今の体制には、危険な兆候に気づいてすぐに対処するための手立てが圧倒的に足りていない。キーワードは『即応できる人と体制』」
プロの人材の育成や、各地域への配置や連携などの管理体制は、専門家らが長く訴えてきたことです。
地域単位で見れば少しずつ取り組みが進んでいるところもありますが、都道府県や国全体での動きが追いつかないうちに、痛ましい事故が繰り返されています。
間野さんは、「死亡事故はどういう経緯で起きたのかの検証が必要。同じ過ちを繰り返さないことしかできない」と強調します。
毎日のように起きる出没。繰り返される痛ましい事故。
どちらもそのときだけ漠然と不安になって終わるのではなく、1つ1つを検証し、二度と繰り返さないための対策が早急に求められています。(HBC北海道放送:幾島奈央)
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