不登校を乗り越えた女子高生「ここの学校でよかった」未明から実家のコンブ漁を手伝った後に授業 少人数ゆえの居場所だった地方の学校がまた一つ閉校へ
2025年07月26日(土) 07時00分 更新
今、地方から学校が消えていっています。人口減少が進む中、廃校になる公立学校の数は都道府県別で北海道が最も多くなっています。
そんな廃校になる学校のひとつ、江戸時代から続く産業を支え、子どもたちの居場所になっている高校を取材しました。(HBC梶原小春アナウンサー)
潮の香りが漂います。ここは函館市に編入される前は南茅部町と呼ばれていました。
人口は約4000人。
10ある漁港から毎日多くの漁船が行き交う、全国屈指のコンブ漁業の町です。
この地域唯一の高校、南茅部高校。生徒はわずか17人。全員が地元で育ちました。
・南茅部高校生徒
「今のクラス全員幼なじみ」
漁業の町ならではの独自のルールがあります。その名も、「逆サマータイム」。
コンブ漁を手伝う生徒たちに合わせて、学校の始業時間を1時間遅くするものです。
3年生の長谷川凜さん。実家のコンブ漁を手伝っているということで、密着させてもらいました。
■未明に実家のコンブ漁を手伝ってから登校
午前2時半。凜さんの1日は、星がまだ輝く時間に始まります。
・長谷川凛さん(南茅部高校3年)
「まだ眠いですね」
現在、国内で生産されるコンブのうち、約15%を南茅部産が占めています。
凜さん、手慣れたものです。
・長谷川凛さん
「(いつからコンブ漁を手伝っていた?)小学校3~4年くらいから初めてそれからずっとですね」
■初めて見る船上の父親に「かっこいい」
午前4時。この日は、お父さんと一緒にコンブを収穫しに沖へ。初めての経験です。
沖にはたくさんの養殖場があります。
潮の流れに沿って漂うコンブを集めます。
船の上でのお父さんの姿を初めて見る凜さん。
・長谷川凜さん
「(お父さんの仕事している姿みてどう?)すごいな。いつもふざけてるけど仕事になるとまじめで、そういうところはすごくかっこいいと思う」
お父さんに教えてもらいながら、一緒にコンブを次々と上げていきます。
・凜さんの父 長谷川広宣さん
「1人でできるね。頼もしい」
・長谷川凜さん
「こういいう景色をみるとやっぱりコンブ漁やっててよかったなと思いますね」
■起床して6時間…ハードな1日「やりがいはすごくある」
午前8時、漁を終えた凜さんは学校に。
・長谷川凜さん(南茅部高校3年)
「おはようございます。
・長谷川凜さん
「(朝からエナジードリンク?)はい、すごく眠いんで」
すでに起床して6時間。体育などの授業をこなし、放課後には生徒会の活動も…ハードな1日です。
・長谷川凜さん
「朝早いですし、終わった後のやりがいはすごくある」
■「中学のころは学校に行けなかった」
今では忙しい1日を過ごす凜さんですが、中学生の時は不登校でした。
・長谷川凜さん
「中学のころは全然学校に行けなった。高校1年のころは熱が出たりもした」
高校に入学しても保健室登校が続きましたが、高校の環境が彼女を変えたといいます。
・長谷川凜さん
「(人と)話せなかったらいやだなと思って、保健室に行くことが多かったんですけど、頑張れば話せるのではないかと思って」
■南茅部高校に通う生徒の4割も、難しい時期を乗り越え…
南茅部高校に通う生徒の4割は、かつて不登校だった生徒です。
・長谷川凜さん
「人数少ないっていうのもあると思うけど、本当に人があたたかくて」
しかし南茅部高校は、3年後の2028年度で閉校することが決まっています。
入学する生徒が減少した影響で、2年後には募集を停止します。
■母親「手助けになれる高校だったんじゃないか」
そんな中、最後の卒業生になるかもしれない中学生にむけた体験会が開かれました。
・学校に来た中学生
「おはようございます」
・長谷川凜さん(南茅部高校3年)
「ここでお弁当を食べたり、オセロで遊んだりします」
凜さんも高校の魅力を一生懸命アピールします。
・凜さんの父 長谷川広宣さん
「性格的に内気だったような子が、人とのコミュニケーションとか接し方とか変わってきたなと」
・凜さんの母 長谷川美香さん
「すごい勇気のいることだったと感じています、そばにいて。悩んでいる人が手助けになれる高校だったんじゃないかってすごく感じますよ」
■凛さん「ここの学校でよかった。本当はもう少し残ってほしいな…」
・長谷川凜さん(南茅部高校3年)
「みなさんこんにちは、いよいよこれから第76回はまなす祭の本番です」
楽しみにしていた学校祭です。
ポスターは、絵をかくのが好きな凜さんが担当しました。
いつもはどこか寂しい教室も、今日は久しぶりに賑わいを見せています。
・長谷川凜さん(南茅部高校3年)
「ここの学校でよかったなって思うし、本当はもう少し残ってほしいなって思う部分もありますね」
閉校まで残り3年半。
今を生きるからこそ、悩みを抱えている子どもたちの”居場所”がまたひとつ消えます。
■人口減少で消えていく地方の学校
・取材した梶原小春アナ
学校がなくなると、子どもたちの多くが函館市中心部の高校に通うことになります。南茅部高校の三浦信一校長は、朝6時台のバスに乗って学校に通うようになると、コンブ漁の手伝いがしづらくなってくるのではないかと心配しています。
また3年生の長谷川凜さんは、もし大人数がいる高校だったら通えなかったかもしれないと話しています。
・松本裕子さん
地域に根差した学び場がなくなることは、若者の社会とのつながりだとか夢、希望みたいなものも絶たれてしまう危険もはらんでいると思いますし、学校のそこにしかない価値みたいなものに少子化時代だからこそ目を向けていくべきではないかと思います。
・野宮範子さん
コンブ漁は家族総出でずっとつないできて、南茅部高校は、コンブ漁に合わせて学校の始業時間を変えたり、真コンブフォーラムなど縄文文化を学ぶオープンスクールを開講したりしています。生きた町の産業や文化を学べる場があって、そこで学ぶことでこの町に住み続けたい、いつか戻って来たいと思う若者を育む場だった高校がなくなるのは、教育の場がなくなるだけでない、地域にとっては大きな喪失だなと思います。
・堀啓知キャスター
学校がなくなっても地元の結びつきが維持できるような支援を、考えていかなければならないのかなと思いました。