ニュース

Official Account

【産後ケアの現場】「横になった瞬間に赤ちゃんが起きて…」座る間もなく育児に追われるママたちをどう支える?低い普及率と担い手不足…“ケアの質”向上など課題は山積

2025年06月08日(日) 08時00分 更新

 核家族化などにより、子育てを親に頼りづらくなっている今。産後の母親を社会全体でサポートしようと、行政は“産後ケア”に力を入れています。しかし、まだ十分に普及していません。一体なぜでしょうか。

◇《座る間もなく育児に追われる日常》



 風邪をひかないようにと、自分よりも、子どもたちの髪を先にドライヤーで乾かします。安藤のぞみさん35歳。8歳の長女を筆頭に、5歳の次女、4歳の三女、そして生後6か月の四女と、4人の女の子を育てています。

晩御飯は、子どもたちの大好物のローストビーフ。子どもが食べる量に合わせて盛り付けますが…。赤ちゃんの泣き声が聞こえて中断です。



安藤のぞみさん(35)
「すーちゃん、眠いんだわ」

お腹を空かせた子どもたちが待っています。片手で料理を続けて…完成。食事中は、赤ちゃんをあやしながら、幼稚園に通うお姉ちゃんの話にも耳を傾けます。

安藤のぞみさん
「ゆず…きょうは、のぼり棒やった?」

次女(5)
「一番上まで行けた!」

安藤のぞみさん
「お~」

のぞみさんの夫・遼さん(36)は、消化器科の医師です。子育てに協力的ですが、夜勤などがあるため、4日間、家に帰ってこられないこともあります。



安藤のぞみさん
「きょうは、座って食べられたほうです。いつもはキッチンで終了のときも多いので…」

子どもたちが寝るまでは、ゆっくり座る暇もありません。

◇《1人ではない安心感「頼ってみるものいいかな…」》



 この日、生後6か月の四女を抱っこして訪れたのは助産院。安藤さんが楽しみにしていたのが“産後ケア”です。札幌・手稲区にある助産院『うめさんのcareルーム』。札幌市産後ケア事業の委託助産所です。

安藤のぞみさん「こんにちは~」

笑顔で迎え入れたのは、助産師の梅本智子さん60歳。安藤さんが出産したクリニックで働いていました。

2016年から始まった札幌市の"産後ケア"事業。対象は、生後1年未満の子どもがいる母親です。育児の悩みを相談したり、ゆっくり時間を過ごしてもらったりすることを目的としています。

サービスによって異なりますが、札幌市では利用料は2500円(訪問・日帰り)から7500円(宿泊)となっています。

助産師 梅本智子さん(60)
「できました。きょうは和食になりましたよ」

安藤のぞみさん
「わぁ~すごい、美味しそう!」

野菜たっぷりの手作りランチ。安藤さんは普段、赤ちゃんのお世話をしながら、余ったおかずで済ませているそうです。

安藤のぞみさん
「美味しい~お味噌がすごく美味しい」

助産師 梅本智子さん
「まだ手作りの味噌が残っていたの」

安藤のぞみさん
「うれしいです。ただただ、うれしいです」

お腹を満たした後は、ふかふかのベッドでお昼寝です。

安藤のぞみさん
「(普段は)お昼寝できないですね。子どもが寝ているときに家事をやって…。赤ちゃんがちょっと寝ているから、横になろうかなと思って、横になった瞬間に、赤ちゃんが起きるとか」

安藤さんが夢の中にいるころ…赤ちゃんもグッスリです。そして1時間後…。

安藤のぞみさん
「なかなか頼るということが、今までできなかったんですけれど、“産後ケア”を頼ってみるのもいいかな…と思って。やっぱり安心感がありますね。子供がみていてもらえるというだけで、1人じゃないんだという…すごく来てよかったです」



“産後ケア”はここで終了です。

助産師 梅本智子さん
「気をつけてお帰りください」

安藤のぞみさん
「ありがとうございます~」

◇《増える“産後ケア”の利用者…母親支援の現場》

 助産師の梅本さんは、子育てサロンなど、産後のお母さんたちの悩みに答える活動を10年以上続けてきました。

助産師 梅本智子さん
「ここに来る方は、育児のことを一緒に練習したいという方もいるし、お休みしたい、ゆっくりご飯を食べたいという方もいらっしゃいます」

去年“産後ケア”を始めてから、利用者の数は増えています。5月の利用者は延べ15人。前の年に比べて3倍以上になっているとのことです。

この日は、生後4か月の赤ちゃんを育てる利用者に、離乳食を食べさせるコツを伝えていました。。

助産師 梅本智子さん
「離乳食をあげるスプーンはこんな感じ。浅いやつがいいの…」

大岩舞さん(34)
「すごい平らですね!?」

助産師 梅本智子さん
「(離乳食をスプーンの)3分の1くらいちょっと乗せて、下唇にちょんと乗せてあげて。そうしたら上唇がこうやって閉じてくるから。そうしたらスプーンを引き抜く…赤ちゃん自身で食べてもらわないといけないので」

大岩舞さん(34)
「普段のお昼じゃ考えられないメニューがいっぱい出てくるので、料金も札幌市が助成してくれるから、通常よりも多分大分安いんですよね」



◇《“産後ケア”の担い手不足…現場には課題も》

 札幌市から“産後ケア事業”を委託された施設には、利用者1人あたり約7000円(訪問)から6万円(宿泊)の助成金が出ます。

ただ、梅本さんの施設では1日に受け入れられる利用者は2人ほどと限られています。スタッフの給料も支払っているため、週50時間以上働いても、梅本さんの月収は約15万円です。

助産師 梅本智子さん
「"産後ケア"だけで収入が回っていかないので…。食費とかもすごく上がってきているので。食事もお母さん方に、しっかり出していきたい…となってくると経費もかかってくるので」



そこで梅本さんは、収入を補うため、小児科で週に一度、看護師として夜勤のパートをしています。

助産師 梅本智子さん
「じゃあ左手から注射を打ちます…ちょっとチクってなるよ」

この日は午後6時から10時までの間に、20人ほどが来院。休む間もなく、問診などをこなしました。

“産後ケア”の利用率は15%ほど。十分に普及していないことも課題です。

◇《“産後ケア”を受けるのは弱い母親…という誤った認識》

東京情報大学看護学部 市川香織教授
「"私がケアを受ける対象かわからない?"っていう人もいる。“産後ケア”を受けるってことは、母親として弱いんじゃないかとか…」

札幌市は“産後ケア”事業を始めた当初、対象者について『家族などから家事や育児等の援助が受けられない』といった条件を厳しく設定していました。

しかし、利用のハードルを下げるため、去年から、対象を『すべての母親』に変更しました。

東京情報大学看護学部 市川香織教授
「ケアされて当たり前で、子育ては人手がいるんだよって、もっと気軽に(産後ケアを)使ってもらいたいと思っている」



“産後ケア”を必要とする全ての母親にサービスを届ける…。そのためには、行政が積極的に母親の背中を押すことが鍵になりそうです。

◇《普及が進まない現状と対応施設の不足ー》

森田絹子キャスター)
 東京情報大学・看護学部の市川香織教授によりますと、産後1か月で“産後うつ”になる可能性が高い母親は、10%ほどいると考えられています。

そして、育児への不安が大きい“産後うつ予備軍”もいると想定すると、産後ケアの利用率は、今後、20%ほどまで高めることが理想だとしています。

取材した複数の助産師さんは「“産後ケア”の予約を断らなければならない現状もある」と話していました。

堀啓知キャスター)
施設の数は、まだまだ十分ではないとのことですね?

森田絹子キャスター)
 札幌市の“産後ケア”事業を受託している施設は、5月時点で31施設となっています。ただ宿泊を実施しているのは、そのうちの半分ほどに留まっています。

北海道内の自治体では“産後ケア”事業そのものを実施していない市町村もあり、もっと施設を増やし、普及させていくことが、大きな課題となっています。

また、そうした施設の数を増やす取り組みと同じように、産後ケアには『質』も欠かせません。どの施設でも、一定の質のケアを受けられるようにするために、担い手である助産師の人材育成も、重要な課題とされています。

堀啓知キャスター)
 6月4日、厚生労働省は『国内の出生数』を発表しました。去年、国内で生まれた日本人の子どもの数は約68万人で、1899年の統計開始以来、初めて70万人を下回りました。子育てをしやすい環境をしっかりと作っていくことは、もはや"待ったなし"と言えるのではないでしょうか。

北海道ニュース24