「悔しい」被害男性の父親、友人の必死の抵抗かなわず…「良くも悪くも知床のクマは人を怖がらない」人慣れ加速を専門家指摘 世界自然遺産登録後のクマ人身事故は初
2025年08月16日(土) 10時42分 更新

8月15日午後、北海道知床半島の羅臼岳(標高1661m)で見つかった遺体は、クマに襲われた東京に住む26歳の男性だったことがわかりました。
知床半島の羅臼岳では、14日午前、登山中の男性がクマに襲われ行方不明になっていて、15日午後1時半ごろ、登山道から200メートル離れた山中で遺体が見つかりました。
警察によりますと遺体は斜里警察署に運ばれ、家族が確認したところ東京都墨田区の会社員、曽田圭亮さん26歳と判明しました。
遺体が見つかった付近では3頭の親子のクマが駆除されていて、警察などは男性を襲ったクマかどうか調べています。
■友人は素手で殴り、追い払おうと…曽田さんの捜索にむかう警察(15日・北海道斜里町の羅臼岳)
14日午前11時10分ごろ、北海道斜里町。知床半島にある羅臼岳の山中から、警察に通報がありました。
襲われたのは、東京都墨田区の会社員・曽田圭亮さん(26)。
曽田さんは友人と羅臼岳を下山中、標高550メートル付近でクマに襲われ、そのまま登山道のわきの茂みに引きずり込まれていきました。
友人は曽田さんの約200メートル後方を歩いていましたが、名前を呼ぼれたため駆け寄っていくと、クマと格闘する曽田さんを目撃しました。
曽田さんは両足の太ももから大量に出血。友人はクマを素手で殴り、なんとか追い払おうと必死に抵抗しましたが、クマは曽田さんを引きずりながら、茂みに消えていきました。
警察は、山中にほかの登山者がいることなどから、クマが出没しても発砲できず、安全上の理由から14日は、地上からの捜索を断念。現場の登山道の入口(14日)
日没までにヘリで登山者約70人を救出し、翌日15日早朝からハンターや警察犬らとともに曽田さんの捜索を再開しました。
午後1時ごろ、捜索隊は曽田さんが襲われた現場付近で、親子グマ3頭に遭遇。
ハンターが親グマを駆除し、その30分後には子グマ2頭も駆除されました。
曽田さんは駆除された親グマのすぐそばで、遺体で発見されました。下半身が激しく損傷していたということです。
また、近くには曽田さんの所持品だと思われる財布や催涙スプレー、血の付いたシャツや破れたズボン、腕時計、キャップなどもありました。
曽田さんの遺体はヘリで収容され、斜里町の病院に搬送されました。
搬送先の病院で曽田さんの遺体を確認した父親は、「夏に野生動物の事故に遭うのは悔しい」と話していたということです。
■世界自然遺産の知床で発生したヒグマ襲撃
羅臼岳がある知床半島は、2005年に世界自然遺産に登録されました。
北海道によりますと、世界自然遺産に登録されて以降、ヒグマが人を襲う事故は初めてだということです。
しかし、知床のヒグマに詳しい専門家・鳥獣対策コンサルタントの石名坂豪さんは、「ヒヤリハット」は山ほどあったと、知床の山の実態を指摘します。鳥獣対策コンサルタント 石名坂豪さん
・鳥獣対策コンサルタント 石名坂豪さん
「登山者が頂上まで登るとき、荷物が重たいので、食べ物が入った大きい荷物を登山道の途中で置いてしまって、荷物から離れて登って戻ってくることが昔からよくある」
石名坂さんは、こうした事例の中で、登山者の荷物を荒らして食べ物を得たクマがいたのではと推測しています。登山者が置いていった荷物(去年7月・大雪山系白雲岳)
・鳥獣対策コンサルタント 石名坂豪さん
「良くも悪くも知床のクマは非常に人を怖がらない。いわゆる“人慣れ”状態が加速していますので、それは餌付け行為がなくても,単純に人と出会って怖い目に遭わなければ、人のことは気にしなくなるんです。こうしたことが、北海道の中で一番進んでいるのが知床地域だと思います」
■ヒグマによる死亡事故は後を絶たず…
《2023年5月・幌加内町朱鞠内湖》朱鞠内湖で駆除されたクマ(2023年5月)
北海道幌加内町の朱鞠内湖の湖畔で、釣りをしていた54歳の男性がクマに襲われ死亡しました。
当時、男性は釣りに出かけたまま行方不明になっていて、朱鞠内湖の湖畔で人の遺体の一部が見つかりました。
付近では、オスのクマ1頭が駆除され、胃の内容物から行方不明だった男性のDNA型を検出。
死因はクマに襲われたことによる「全身多発外傷」でした。
《2023年11月・福島町大千軒岳》大千軒岳で見つかったクマの死骸(2023年11月)
北海道福島町の大千軒岳で、北海道大学水産学部4年生の男子大学生が遺体で見つかり、近くでは体長125センチのクマ1頭が死んでいました。
警察は、回収したクマの胃の内容物についてDNA鑑定を行った結果、男子大学生のDNA型と一致しました。
死因は、全身に激しい損傷を受けたことによる「出血性ショック」でした。
男子大学生の近くで死んでいたクマには、刺し傷がありました。
現場付近では、事故の直前、登山中の消防士3人もクマに襲われ2人がけがをしていて、その際、1人がナイフでクマの首などを刺して撃退していました。
この首の刺し傷が気管、大動脈まで達し、致命傷になっていたことがわかっています。
《2024年10月・厚沢部町》ハンターが死亡した現場付近(2024年10月・北海道厚沢部町)
北海道厚沢部町の山林で、70代のハンターの男性が死亡しているのが見つかりました。
男性は箱わなを確認するため1人で山林に入ったあと、行方がわからなくなっていましたが、捜索に向かった別のハンターが山林で男性を見つけ、その場で死亡が確認されました。
男性の顔にはクマにひっかかれた傷があり、そばには男性の猟銃が落ちていました。
《2025年7月・福島町》52歳の新聞配達員が死亡した福島町(2025年7月)
北海道福島町で、52歳の新聞配達員の男性がクマに襲われ死亡しました。
クマの体長は1.5メートルほどで、男性の全身には爪痕があったほか、腹に噛まれた痕がありました。
襲われる瞬間を目撃した男性は、HBCの取材に以下のように話しています。
「玄関のドアを開けたら、目の前でクマが人間の上に覆いかぶさるような状態が見えて、すぐに声を出して追い払おうとしたが、逃げようともしない」
「警察に連絡して、それが時間的にどれくらいかわからないが、そのうちにクマが人間を引きずって、藪の方向に逃げていった」
1週間後、現場から800メートル離れた住宅街でクマ1頭が駆除されました。
北海道立総合研究機構(道総研)がDNAを調べたところ、駆除されたクマは男性を襲ったクマと判明。
さらに、このクマは、2021年7月に同じ福島町で77歳の女性を襲って死亡させたクマと同じ個体だったことがわかりました。