DV被害者の証言「お前、逃げられると思うなよ」子ども3人を連れてシェルターへ…精神的にも経済的にも支配され孤立 被害者を守るワンストップの支援の必要性
2025年10月04日(土) 09時00分 更新
川崎市でストーカー被害を訴えていた女性が殺害されるなど、DVやストーカーをめぐる事件は、全国で後を絶ちません。北海道内におけるDV被害者の生の証言から、支援のあり方を考えます。(HBC報道部:貴田岡結衣記者)
◆《「パパから殴られて…」自分の意思を奪われた絶望》
北海道内にあるマンションの、一室。ここはDV被害を受けている人を一時的に保護する施設、シェルターです。咲さんは今から4年前、3人の子どもを連れて、このシェルターに逃げ込みました。
咲さん(仮名・30代)
「子どもたちと4人になったときに『ママ…実は、パパから殴られてたんだ』ということを言って。子どもの1人は『知ってた』と、もう1人は『転校になってもいいよ』って。そしてもう1人は『10何年間も、ママ独りで我慢して、なんで隠していたんだ」って怒って泣いたんですよね』
元夫から10年以上にわたって受けてきた暴力。咲さんは、外で働くことも禁じられ、経済的にも、精神的にも支配されていました。
咲さん(仮名・30代)
「馬乗りになって顔を拳で何発も、ずっと殴られ続ける。財布と携帯電話を、風呂にはってあったお湯に沈められて『お前、逃げられると思うなよ』って言われたことがあって…」
「何かを選んで、決めていく権利がないんだっていうことへの絶望のほうが、顔や身体への痛みよりも、かなり苦しくて辛いものだった」
◆《いま元夫の影に怯えることも…DV被害者を支援》
咲さんは、ネグレクトの家庭で育ち、親にも頼れませんでした。たとえ相談しても、自業自得と言われるのではないかと考えたと話します。
そうした中、半信半疑で頼った民間の支援団体で、思いもよらぬ言葉をかけられました。
咲さん(仮名・30代)
「(気持ちの上では)臨戦態勢で支援団体の事務所に入ったんですけれど、第一声、言われたのは『よく来たね、長いことがんばったね』だったんですよね。この人たちに頼ってもいいかもしれないって…」
咲さんがシェルターに居たのは、生活を整えるまでの1か月間です。この間に、離婚の申し立て、生活保護の申請、子どもの転校、新居探しなど、その度にさまざまな窓口に足を運び、手続きが必要でした。
咲さんは、被害経験を糧(かて)にDV被害にあった女性の支援者として、現在活動しています。
咲さん(仮名・30代)
「家も友達も住み慣れた地域も、すべて手放さなければいけないのは被害者。夫が乗っていたような車を見つけると、走って逃げたくなる衝動に駆られて…。結局は許されて、今まで通りの生活に戻っていく人があまりに多すぎる。この現実に腹が立つ」
◆《父親からのDV…“よってたかって”被害者を守る環境作り》
精神的に追い込まれているDV被害者にとって、大切なことは“心から“安心できる環境”を整えることです。
長年、DV被害者の支援に取り組む『女のスペース・おん』の山崎菊乃代表も、かつては子どもを連れて、シェルターに逃げ込んだ1人でした。
『女のスペース・おん』山崎菊乃 代表
「彼女が、彼のところに戻らないような、安心した状況を周りで、よってたかって作り出す。それは、私たち民間団体だけじゃなくて、行政、司法いろんな関係機関が被害者を守る」
この日、『女のスペース・おん』の事務所を訪ねてきたのは、父親のDVなどから逃げるため、4月にシェルターへと入居した、花さんです。
花さん(仮名・20代)
「私はそれこそ、小学生のときにまだ“モラハラ”という言葉がなくて…」
『女のスペース・おん』山崎菊乃 代表
「最近だよね、モラハラという言葉が知られるようになったのは」
花さん(仮名・20代)
「“不機嫌ハラスメント”ってまさに、父親を表しているなと思って」
◆《DV被害の辛さを共有する大切さ…ワンストップの支援へ》
花さんは、うつ病となった母親の介護をするヤングケアラーでもあり、自身も摂食障害などに苦しみました。いまも家族との関係に悩みはある中、仕事をしながら一人暮らしをしています。
『女のスペース・おん』山崎菊乃 代表
「一人で抱えないでね、一緒に共有しよう」
DVだけではなく、虐待を受けた経験や精神疾患、若年妊娠など、さまざまに困難を抱える女性たち。その困難に即した支援の在り方が模索されています。
堀啓知キャスター)
DV被害者が外部に被害を訴えにくい背景には、幼いころ虐待を受けた経験や精神疾患、貧困などの課題が重なっています。
世永聖奈キャスター)
DV被害者の支援にあたる団体『女のスペース・おん』では、厚労省や道、札幌市など行政を巻き込んでシンポジウムを開き、被害者が1か所(ワンストップ)で、さまざまな行政の窓口や支援団体につながり、長い支援を受けられる仕組みが必要だと訴えています。
堀キャスター)
DV被害者を支援をめぐって、民間だけでなく行政も、シェルターを運営したり、ホットラインなどの窓口を設けたりしています。支援は、民間のみとか、行政単独といったものではなく、それぞれが連携し、互いに強みのある支援を進めていくことが、DV被害者に手を差し伸べるためには必要だと思います。
DVをめぐる課題は、複合的であることから、その解決は一筋縄ではいきません。だからこそ、支援の在り方は、個人個人のケースにあった切れ目のない、対応が求められるということです。