JR・地下鉄の駅がない札幌市清田区にもう一つの“弱点”が…交通と医療の利便性向上へ無料『きよっちメディカルバス』運行 仕掛けたのは地域の病院
2025年08月12日(火) 18時30分 更新
運転手不足による路線バスの減便や廃線が進む中、札幌で無料バスの運行が始まりました。仕掛けたのは、地域の医療機関です。
清田区を走る、1台の車。先月末から運行が始まった、その名も『きよっちメディカルバス』。区内の病院や商業施設などをめぐる、無料の『デマンドバス』です。
■仕掛け人は“地域の病院”無料デマンドバス運行開始
札幌美しが丘脳神経外科病院・髙橋明理事長
「清田区内を回る交通網がないんですね。区内を回るバスがあれば、直接いろいろ買い物、病院も一緒ですけれども、足が向きやすくなる」
デマンドバスを運行するのは、札幌市でもバス会社でもなく、区内にある10の病院です。
“地域の足”を守ることはできるのか。病院が手がける地域交通サービスを「もうひとホリ」します。
岡田純ディレクター
「札幌市清田区です。こちらは市内で唯一、JRや地下鉄の駅が無い区で、ここ数年、さらに路線バスの減便がつづき、交通弱者が多いと言われています」
清田区を走る路線バスは、豊平区や厚別区の地下鉄駅を起点とする路線が多く、区内を公共交通機関で移動する場合、遠いバス停まで歩くか、路線バスを乗り継がなければいけないのが現状です。
清田区民
「バスの便がすごく減らされたので、非常に不便になりました」
そこで導入されたのが、この『きよっちメディカルバス』。利用条件は、乗る場所か、降りる場所のどちらかを『病院』にすること。
スマートフォンなどから「予約専用サイト」で乗る場所と行き先を予約すると、AIが効率の良いルートを設定してくれます。
岡田純ディレクター
「早ければ、数分で迎えに来てくれます」
昨年度の実証運行では、停留所は病院だけに限られていましたが、今回は商業施設や区役所などを加え、停留所を30か所に増やしたことで利便性も向上しました。
実際に、1日当たりの乗車人数は昨年度と比べて2倍以上に増加。高齢者の外出する機会を増やす効果も期待されています。
病院の利用者
「私も今回は免許たまたま更新できたけど、次回更新できなくなったら…そこは不安だったんですよ。外に出る機会が年をとると少なくなる。外に出て歩けるから助かりますよ」
札幌美しが丘脳神経外科病院・髙橋明理事長
「清田区の弱点を解消したいという思いと、地域の足という思いが合致して、われわれでも、もしかしたらバスの運行ができるかもしれないというのが始まりです」
■“縮む地域交通”バスがつなぐ総合医療
『きよっちメディカルバス』の発案者、札幌美しが丘脳神経外科病院の髙橋明理事長は、交通の便に加え、清田区には、もう一つの”弱点”があると指摘します。
札幌美しが丘脳神経外科病院・髙橋明理事長
「清田区には総合病院がないので、ただ多くの専門病院があって、その専門病院同士をつなぐことによって地域全体が総合病院のような形に機能できるのではないか」
JRや地下鉄の駅だけではなく、清田区には『総合病院』もありません。
このため、複数の診療科を受診しなければいけない場合、別々の病院に行く必要があるため、通院だけで数日かかることも多かったと言います。
そこで、病院と病院をバスで結ぶことで、総合病院のように利用してもらうのが、もう1つの狙いです。
札幌美しが丘脳神経外科病院・髙橋明理事長
「やはり地域交通なので、その地域に首座を置いてる人たちが何が必要かとか、やっぱり考えなければいけないと思うんですね」
今年度の事業費は、およそ2600万円。このうち3分の2を、国の補助金で賄いますが、残りは病院側が負担しています。
今後、『地域の足』として継続していくためには、病院だけではなく”地域の協力”が必要になってくると考えています。
札幌美しが丘脳神経外科病院・髙橋理事長
「(地域交通を)地域の中で誰が担うのかというのは、各交通空白地域を持つ所で話し合う必要があるだろう」
「市が主体となることは非常に重要なんですが、運用自体は、やはり地域の方々が運用をしていく、地域の方々が住み良くなるような形で運用していくというのが、大切かなというふうに考えています」
■国の補助制度を活用した取り組み
国の補助制度を活用した取り組みは各地で行われています。
【士別市・習い事応援タクシー】
士別市では交通手段がないことで部活や習い事を断念しないように、習い事に通う小中学生を対象に小中学校・児童館・自宅から習い事の施設までタクシーで送る実証実験を行っています。
▼事前予約制で料金は市街地が400円、市郊外は1300円
▼きょうだいが同時に利用すると2人目が半額になるなど、さまざまな割引サービスも
▼実証実験は今年度で終了し、小中学生にアンケートを実施したうえで来年度以降、事業化するかを検討
【上士幌町・郵便集配車でライドシェア】
上士幌町では、郵便局に委託して去年10月からの2か月間、郵便局の集配車の助手席に高齢者を乗せて運ぶ、公共ライドシェアの実証実験を行いました。
▼中心部から十数キロ離れた居辺(おりべ)地区3世帯の高齢者が対象、町が貸し出しているタブレットで事前予約
▼料金は片道1000円。2か月間で44回の利用
▼今年度の実証実験は行わず、今後の事業化については、日本郵便と相談