11月12日放送

李 強さん 「ほっかいどう元気びと」では、海外から北海道に移住して様々な仕事に取り組んでいる人達にも出ていただき、外からの視点や考え方などを聞かせていただいているが、今回のゲストは中国・上海出身で札幌在住の株式会社「じゃるか」代表取締役 李 強(リ・チャン)さん 44歳。稚内出身で上海に留学をしていた女性と結婚したことをきっかけに来道し、故郷中国と北海道の架け橋になろうと海外プロモーションコンサルタントの活動をされているという。北海道への感謝の気持ちをお返ししたいと話すその思いを伺った。

 李さんが北海道で暮らし始めたのは今から20年ほど前。最初は、「ちょっと行ってみようか」という軽い気持ちでやって来たのだそうだが、よそから来た人でも受け入れる土地柄や、「まあ、いいんでないか」といった道民気質がとても居心地良かったそう。
 上海で体育の教員をしていたこともあり、小樽短期大学で講師として中国文化論と中国語を教え始め、「じゃるか中国語アカデミー」を立ち上げ、より二つの国を繋げる取り組みを深めようと現在の海外プロモーションコンサルタントの仕事に繋げていったのだと丁寧な日本語で表現していく。
 そんな活動の中で李さんの原動力になっているのは、違う国の人達同士が互いをより良く知って、正しく理解するために誰かがもっと仲立ちをしていかなければという思い。「中国人は・・・、韓国人は・・・」という受け身の“情報”だけでその国を理解した気になるのではなく、実際に人に会って話をしてみて、一人の人間として判断することが大切であり、それが国と国との関係をもより良くしていくことに繋がっていくという信念だ。李さん自身が全く予備知識の無かった北海道で、人によって支えられてここまで来られたという体験からその思いは来ているということが伝わってくる。
 具体的な取り組みのひとつは、北海道で出演するテレビ番組を中国でも配信する他、中国側のメディアクルーを招聘するコーディネーターを務めたり、ご自身で手がける映像を中国のSNSなどで発信する取り組みも続けているとのこと。観光地や美味しいもの情報というより、紅葉の色づき具合など“今”の季節の表情や、人々の日常の暮らしといった普通の日々を届けたいのだそう。
 そして、さらに深めていきたいのは、北海道のことを中国に知らせてインバウンド(海外からの旅行客)を増やすだけではなく、北海道の人達に中国の人達の今の暮らしを知って貰い、実際に中国を訪れて欲しいということ。インターネットや写真だけではない、人と人とのコミュニケーションこそがほんとうの理解に繋がっていく。だから、もっと北海道の人も他の国に関心を持って貰いたいし、そういうアウトバウンドの取り組みもさらに考えていかなくてはならないと、二つの国の架け橋としての思いを丁寧に語ってくれた。

李 強さん 李さんの「人が大事」というキーワードにはどんな思いが込められているのか、収録後にもなお対話は続く。最も共感したのは、“観光客による経済効果という数字だけではない価値”を国同士、相互に共有したいという思いだ。
 「“あの人はいい人です”というのは、個人と個人の付き合いから生まれる。他の人達がある人を悪く言っても、実際に接することによって、価値観の違いはあるにせよ“自分にとってのいい人”になる。会って話すと、“中国人”とか“日本人”ではなく、○○さんという個人になる」
 そんな表現に深く頷いた。

 この収録の数日後、晩秋の中札内村に出掛け、私自身の活動のひとつである「朗読・宮沢賢治の世界~賢治が伝えたかった“ほんとうのさいわいとは”~」を村内、そして近郊、帯広の人達にも楽しんでいただいた。北海道文学館と地元の図書館の共催で、毎年、カンテレ奏者のあらひろこさんと道内数ヵ所ずつ訪れている朗読出前講座という企画。今年はこれで最後の開催になる。
 一時間半の構成の中、「雨ニモマケズ」「手紙」「永訣の朝」「告別」「農民芸術概論綱要」「生徒諸君に寄せる」「虔十公園林」などを読んでいきながら、一体、宮沢賢治は“みんなのほんとうのさいわい”というキーワードから現代の私達に何を伝えたかったのかを紐解いていく。
 何度か取り組んでいく中で私自身もわかってきたことは、この稀に見る天才は東北の花巻という小さな田舎から壮大な“世界”、いや、“宇宙”を見ていたということだ。そのすべてのものがひとつに繋がっていると信じていた人だ。その“繋がり”というのは、“国際社会は皆兄弟”という次元を超えて、人のみならず、自然も大地も水も生き物も植物も、石などの鉱物といったすべてのものは相互に繋がっていて、もしかすると時空すらも超えて“繋がっている”という真理を感覚として知っていた人。そして、人の中には、何か人智を超えた力である“まことのちから”が備わっており、どんな人の中にもあるそういった力を互いに敬うことで世界がより良く変わっていくと信じていた人。
 そういう考えを深めていけば、争いや戦争などは起こるはずもない。自分と他人とは繋がっているわけだから。勿論、自然を破壊することも自分と繋がるものを壊すということ。その意識を深めていくことで、世界がぜんたい幸福になっていく・・・そんな思いが作品には込められているのだとお話をさせていただいた。
 宮沢賢治の難解な表現や言葉は、前回の後記にも書いた、プラトンが喩えた“洞窟の外には何があるのか?”という視点で読んでいくと新たな深い発見がある。
 李さんのお話を聞いていて、「あの人は○○の国の人だから」とか「あの国はこういう国だから」と、何かで思い込まされている画一的な考え方は、“洞窟の奥でこれが真実だと見せられている幻燈”と同じことなのだと気づく。
 やはり、“真実”や“真理”というものは、自分の足で、行って、見て、聞いて、触って、自分で考える。そうして判断するということが欠かせない。
 宮沢賢治の言う「世界がぜんたい幸福にならないうちは、個人の幸福はありえない」を噛み締めながら、インタビューでの話を思い出していた。

(インタビュー後記 村井裕子)

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