9月17日放送

赤坂裕美子さん 「ほっかいどう元気びと」でインタビューしていると、しばしばその人の内面の“ビフォー・アフター”が語られる。前回の久木田裕常さんは、一冊の本をきっかけに「人間嫌い」だった自分が「人間って面白い」と視点が変わり、人との関係作りもより良くと変わったと話してくれた。
 今回のゲストも、そんなふうにあるきっかけを境に最大限自分の力を発揮してきたおひとり。「以前の私は流されてばっかりだったけど、トレーナーとして目の前のやれることに無我夢中になっているうちに、自分はやれば結構出来るじゃないかと気づいていったんです」と言う。彼女が出会ったツールは、父親から受け渡された「ボクシング」。15年前、北海道から日本ライト・フライ級チャンピオンを輩出した「協栄札幌赤坂ボクシングジム」、マネージャーの赤坂裕美子さん(45歳)にお話を伺った。 

 病気を患った父親・元日本ミドル級王者の赤坂佳昭さんが運営していたジムに裕美子さんが関わっていったのは20代半ば頃。父親の代わりに経営に携わっていた母親にも背中を押され、OLを辞めての転身だったそうだが、最初からトレーナーとしてバリバリ取り組んだわけではなく、ジムの留守番や電話番をしていればいいかなという軽い気持ちだったとか。そんな中で、もし自分が教えることになったとしたら何を準備すればいいのかと考え始め、競技経験の全く無い立場としてはまずは情報収集からと、実際の試合やビデオを数多く観、分析を繰り返し、その上で自分の身体を実際に動かしてやってみるという確認作業を重ねていったのだという。
 見よう見まねでシャドウボクシングをしてみると、案外、頭の中のイメージと動きがスムーズに繋がっていったのだそうだが、それは誰にでも出来ることではないのではというこちらの驚きに、「遊びで父親相手にボクシングごっこをしていたからかなぁ」とこともなげに話す。そうやって徐々に“スイッチ”が入る中でいよいよ本気になっていったのは、後にチャンピオンになる畠山昌人選手ら、高いところを目指して入ってくる子達に触発されたから。彼ら以上の真剣さを身に付けなければ置いて行かれる、自分は常に一歩先を行かなくてはと、パンチを受けるための技をさらに身に付けるなどトレーナーとしての自分自身を一から作っていったのだそうだ。
 特に、強くなりたい気持ちが人一倍強かった畠山選手との二人三脚から得たものは多かったと言う。その目標に向かう過酷でエネルギッシュな日々は8月末に発売された『無敵の二人』(中村航著 文藝春秋刊)に詳しいが、“役割が人を作る”ということは確実にあるのだなぁと感じながら赤阪さんの“ビフォー・アフター”、そして、そこに込められた強い思いを聞かせていただいた。

赤坂裕美子さん 収録後に尚も続く話の中で、赤坂さんはこの時代のトレーニングの関わり方の難しさをふと口にする。たとえば現代の子供達、若い人達の“あきらめる”タイミングの早さ。少しきつく指導すると次の回には来なくなってしまう傾向が少なくないという。一昔前の、自分でガンガンメニューをこなし、力を出し切らないであきらめたり人前で涙を流したりすることを恥だと思っていた世代とは明らかに違うため、少しやり方を変えた方がいいのか、いや、これまでの厳しい指導を貫いたほうがいいのか・・・人知れず迷うことがあるのだそうだ。ご両親が存命だった頃は、父親の存在が支えであり、母親の助言が往く道を照らしてくれていたそう。その支柱の存在を喪った後は孤軍奮闘されてこられたのだろう。その頑張りが言葉の端々から伝わってくる。
 ふと、「今、迷いや考えを話して整理できる“メンター(仕事上や人生の指導者、助言者)”のような存在はいますか?」と問いかけてみる。赤坂さんは、「います、います、メンターが!」・・・と満面の笑顔。それはジムにトレーニングにやって来る様々な職種の顔馴染みの人達。準備体操や柔軟の時に“こういう時、どうしていますか?どう思いますか?”など自分から話しかけて、ヒントを沢山貰うのだそう。体力作りや筋力アップなどにやって来る人達は、様々な場で経験を重ねてきた、いわばそれぞれのその道の“プロフェッショナル”な人達。医師や警察官、放送関係者…いろんな立場の人と話をすることで見えてくることが多いと言い、彼らと定期的に集まって話すこともやっていますと語る。仲間というメンター。そういう人達を引き寄せるというのも赤坂さんの天性の魅力なのだろうと微笑ましく聴かせていただいた。

 あれ?そう言えば、赤阪さん、“人見知り”と話していたはず。よその土地に行くとひとりでご飯を食べにお店に入れないともこっそり言っていたが、軽やかなフットワークの人間関係がなんとも上手そう。「全然、人見知りじゃないじゃないですか?」・・・そんな疑問を投げ掛けると、「自分のテリトリーの中なら大丈夫!典型的な内弁慶タイプです」と気持ちよく笑ってみせるのだった。
 「ほっかいどう元気びと」で毎週インタビューしていると、人って面白いなぁ、興味深いなぁ、いとおしいなぁと思う。インタビュアーを続けてきて私の中で変わってきたところと言えば、“人間への興味”がどんどん増している。今回は、赤坂さんと対話をし、経験が無い中でプロボクサーを育て上げるというその底力や信念の強さに惚れ惚れしながら、その強さの奥にある裏腹な繊細さが手に取るように伝わってきて、しみじみと人は多様性を内側に抱えているものだと改めて感慨深かった。

 ほんとうに強い人というのは、ほんとうは弱い人だ。弱いということを知っている人だ。弱いからこそ、努力し、準備し、ひとりで立とうとし、同時に人との絆を大事にする。ひとりじゃ何も出来ないことを知っているからだ。そうして、いろいろなものと真っ直ぐ闘い、乗り越え、傷付き、ひとりの時に悔し涙を流していたりもする。
 「“弱み”があるからこそ人はいとおしい」。これまで300人以上の“元気びと”達に話を訊いてきて、じわじわとそんな実感がしみている。

(インタビュー後記 村井裕子)

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