6月4日放送

 人には産んで育ててくれた実の親だけではなく、いろいろな出会いによって第二第三の“おかあさん”“おとうさん”が出来ることがある。見知らぬ土地での暮らしで支えてくれたり気遣ってくれたりする年配の人達との縁。私も18歳で地元を離れ、21の歳に誰一人知る人のいない北海道にやって来たので、最初の頃は小樽出身だった短大同級生のお母さんとお父さんがなにくれとなく面倒を見てくれたり、たまたま転勤で道内に住むことになった母の従姉夫婦が懐かしいだろうからと故郷の手料理を食べさせてくれたり、結婚した後でも夫の両親が仕事を続ける私に孫みたいな優しさで接してくれたりと、折々で沢山の“実の親代わり”に恵まれてきたと思う。
 特に、“おかあさん”的な女の人の空気感というのはなんとも温かい感じで、時々そんな空気をまとっている人に出会えると、実の親には甘え下手でしっかり者だった私がちょっぴり“甘えのタガ”をはずしたい気持ちになってしまう。
 言葉にすると難しいが、“おかあさんをずっとやって来た人が醸し出すおかあさん感”みたいなものが溢れていて、それに触れるとなんだかきゅんと泣きたいような気持ちになってしまうのだ。

関根久子さん 「母恋(ぼこい)」の人・・・だからというわけでもないのだが、今回の「ほっかいどう元気びと」は、そんな“母の恋しさ”が懐かしく思い出されるような人。こういう“おかあさん”がきっと北海道のあちこちにいるのだろうなと思わせていただいた。
 お話を伺ったのは、室蘭「母恋駅」名物の駅弁「母恋めし」を発案し、製造販売を手掛けている「母恋めし本舗」代表の関根久子さん 67歳。思いもかけずに人気の駅弁が誕生したきっかけからインタビューは始まった。
 「母恋めし」は現在、一日限定40食と数を絞り、調理師免許を持つご主人と長男夫婦で製造しているとのことだが、関根さんご夫婦はお二人とも工芸作家。久子さんは銀細工のアクセサリーなどを手掛け、夫の勝治さんは貝殻工芸が専門なのだそう。室蘭の母恋という地名はアイヌ語で「ポク・オ・イ=ホッキ貝の沢山あるところ」が語源だけに、やはりホッキ貝で工芸品を作りたいと意を決した勝治さんが日々ホッキの貝殻と格闘。中身もそれでは美味しく食べましょうと、久子さんが関根家の食卓に数々の調理法でホッキ料理を登場させたのだそう。お刺身のみならずカレーライスにフライなどを作る中、お子さん達に最も人気があったホッキの炊き込みご飯を「第二回むろらん郷土料理コンクール」に出してみたところ、見事弁当部門で最優秀賞を獲得。それが今から30年前。若い頃に調理師資格を得ていた勝治さんはその頃から工芸製作とともに喫茶店もされていたそうだが、何か食べるものも・・・というお客さんの要望に応えてそのホッキの炊き込みご飯のおにぎりを定食のように出してみたところ大好評に。リクエストに応えて作る流れでJRにも掛け合い、母恋駅の売店で置かせてもらう運びになったのだそう。それからかれこれ15年。現在はすっかり地元の人気弁当になった「母恋めし」の誕生のストーリーをほっこりとしたいい味わいで語ってくれた。

関根久子さん 「いつも外へ出て話をするのはおとうさんだから緊張する」と言いながらも思いが次から次に言葉になる久子さん。それがとても温かい。あ~、“北海道のおかあさん”だなぁ・・・と優しい空気感に包まれる。お話の中に出てくる二人三脚の“おとうさん”も、お会いしてないけど“北海道のおとうさん感”満載のイメージで伝わってくる。
 そう思えたのは多分、“商売”ということ以上に“美味しいものを食べて貰いたい”という気持ちが伝わってきたからだ。「母恋めし」のホッキめし作りで外せないのは出汁をきちんと取ることだそうだが、材料もいいと思ったものしか使わないと言う。収録後にさらに詳しく教えて貰うと、出汁は室蘭特産の昆布と削り節を使い、お米はゆめぴりか一筋、コクを出すためのハチミツも北海道産のもの。茹で玉子とチーズの薫製は毎日久子さんが手を掛けているのだそうだ。「採算度外視で、私とおとうさんの人件費は無しです」と笑っていたが、その気持ちは、「身体にもいいものを食べて貰いたいから」。
 そして、室蘭港のエンルムマリーナにある喫茶店には作り方の書いたレシピを置いていて希望者に配っているそうだが、それも、多くの家庭で郷土の料理としてホッキめしを作って貰いたいからとのこと。まさに、“関根家のお弁当“のお裾分けという思いが伝わってきたのだった。

母恋めし この日は午後からの収録。関根さんは朝作ったという「母恋めし」をお土産に持って来てくださった。
 「ごめんなさい・・・今日のホッキ、ちょっと目を放して少し硬くなってしまったかもしれない。ごめんねぇ」
 その日その日によって、少し味は違うのだそうだ。そんなところも“おかあさんのお弁当”だ。そんなやり取りだけでもなんだか私はきゅんとなってしまう。在りし日の母とのやりとりの既視感みたいで。
 そんな“おかあさん感”の元って何なのだろう・・・? いただいたホッキのおにぎりのなんとも言えない甘みを噛みしめながら考えていたら、ああ、そうか・・・と胃袋に落ちると共に腑に落ちた。それは、「食べさせたい」という気持ちが醸し出す優しい空気だ。子供に、好きな人に、「美味しいものを食べさせたい」という熱く強いエネルギー。その思いが、身内だけでなく、「喜んでくれる誰かに」と外へ向けられるから、“母恋しさ”が感じられるのだ。
 この「母恋めし」のファンは多く、一度食べた人は今度は“誰かに食べさせたい”という思いで再び買ってくれたり、口コミを拡げてくれたりしているのだそうだ。
 そんな、「食べさせたい。美味しいもので喜んで貰いたい」という“おかあさん感”が連鎖している地域は、きっと幸せな空気に包まれているのだろうなと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

HBC TOPRadio TOP▲UP