5月28日放送

小野田拓人さん 5月最後の「ほっかいどう元気びと」は、苫小牧の実業団アイスホッケーチーム「王子イーグルス」のゴールキーパーとして今年3シーズン目を迎える小野田拓人さん 25歳。
 アイスホッケーのシーズンは秋から冬の終わりまで。今はオフの真最中だが、早くも6月からはチームトレーニングが始まるという時期を前にお話を聞かせていただいた。

 恵庭に生まれ育ち、父親がアイスホッケーの指導者だった影響で小さい頃からスティックを握り、自分はゴールキーパーとして守りを徹底したいという強い思いでプロの道へ進んできたという小野田さん。プロテクターを付けて闘うゴールキーパーは大柄で筋骨隆々の肉体派を想像してしまうが、スタジオにやって来た小野田さんは中肉中背のスマートな体型。屈強な他の選手に技で勝るためにはバランスや俊敏さを鍛えるトレーニングの努力を欠かせないという。入団1年目にはアイスホッケーアジアリーグでは初めてという新人賞・最優秀セーブ賞・ベスト6の3タイトル獲得の快挙を成し遂げているが、浮き足立つことなく平常心で取り組む姿勢を丁寧に言葉にし、その言葉を支える真面目さが真っ直ぐに伝わってくる。 

 プロスポーツ選手はいつ頃からその道をと決めて突き進むのだろう。小野田さんは、「勝つ経験」が自信となって、「なれたらいいな」という漠然とした思いを「自分も出来る」という思いに変えられたのだと、気持ちの経過を説明してくれる。中学・高校では優勝経験に恵まれず、勝てるという確固たる思いを持てずに大学に進学したのだそうだが、強豪チームに入ることにより初めて優勝の“成功体験”を知ることになったのだという。優勝という結果を体験することによって、自分の力を客観的に知るということに繋がり、それが自信にも繋っていったのだそうだ。プロでもやれるという自信をひとつひとつの経験により積み重ねるということは勿論簡単なことではないと思うが、これから選手になりたいという子供達のために、どうしたら夢は叶えられると思うかと問いかけてみると、「努力を続けること」というとてもシンプルな信念の一言。「自信」を付けるためには「経験」が欠かせない。「経験」を積み重ねるためには「努力」が欠かせない。その「努力」がまた「自信」を生み出すというプラスのスパイラルなのだろう。そして、そのためには「人間性も大事です」と、これもまたシンプルな表現だが臆せず大切な思いを語ってくれた。

小野田拓人さん 収録後にも人間性の大切さについて対話は続く。“人間性”といっても十人いたら十人の言葉があるはず。「小野田さんが思う人間性とは?」と訊いてみると、次のキーワードがすぐさま挙がる。
 「努力を欠かさないこと・真っ直ぐな心を持つこと・真面目であること」
 それは、実際にそうしてきたことで目標が叶えられてきたから実感しているという。
 「人は何かを成功した時に油断が出てしまいがちだけれど、そういう時こそ初心に戻り、今までやってきたことを継続していくことが大事だと思います」
 今年は成果を出そうとも来年は呼ばれなくなるかもしれないという厳しいスポーツの世界。そこに身を置くからこそ、奇を衒うことなく真面目に努力することを自分の強力な“武器”として獲得したのだろうなと感じられる言葉だった。

 故 酒井雄哉(さかいゆうさい)さんの本が今話題を呼んでいる。私は講座の受講生の方が教えてくれて、その「大阿闍梨(だいあじゃり)」と呼ばれる人のことを知ったのだが、知れば知るほど凄い人だ。一言で表せば「比叡山延暦寺の千日回峰行を二度満行した天台宗の僧侶」と短い言葉で括ることが出来るが、「千日回峰行」とは7年の間に比叡の峰や谷を千日歩く荒行のこと。走行距離は約4万キロ。700日を達成した後には9日間飲まず食わず眠らず横にならずでお経を唱え続ける最も過酷な「堂入り」という修行も控えている。比叡山千年の歴史の中で二度成し遂げたのは3人だそうだが、酒井さんの場合は一度目の満行後わずか半年後に再度挑戦。二度目の満行達成は60歳というこれまでの最高齢だったそうだ。
 その、“凄い人”である酒井さんが言っていることがこれまた凄い。何が凄いって、一言一言が“すごく当たり前”なことなのだ。
 大事なことは、「ごく当たり前のことを日々続けるということ」「身の丈に合ったことを、くるくる繰り返すということ」「決めたことをやり続けるということ」
 そして、「今日の自分は今日でおしまい。 明日の自分は 今日の自分とは違う。 一日が一生だと思って生きること」・・・

 真面目にコツコツと日々を生きるとか努力をするということを揶揄するような時代もあったが、時代もブームも関係なく、その“ごく当たり前のこと”は自分をどこかへ運ぶ最強の牽引力になるのだと改めて思う。千日というのは膨大な日々だが、もとをただせば一日一日の積み重ねだ。そして、年齢は関係ない。若かろうが老いていようがそこに気づくかどうかだ。きっと、25歳のアイスホッケー・ゴールキーパーの小野田さんも、「ごく当たり前のことを、くるくる繰り返して」いるのだろう。
 それが出来るのは、やはり、自分にはこれという身の丈に合ったものを見つけられた喜びがあるからなのではと思う。

(インタビュー後記 村井裕子)

※『一日一生』酒井優哉著 朝日新聞出版より

HBC TOPRadio TOP▲UP