4月16日放送

 ここ数年、「宮沢賢治の世界」と題した朗読構成に取り組んでいて道内各地にも出掛けているが、ある時、「雨ニモマケズ」の読み練習をしていて、「!」マークが頭の中に出現したことがある。
  「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ・・・」
 げ、玄米よん・・・ごう?・・・四合!?
 それまでまったくスルーしていたのだが、改めてイメージしてみたらすごい量でびっくりだった。賢治は一時期菜食主義であったし、昔のことだから米を一杯食べていたのだろう。元気な頃は農作業に汗を流し体も使っていたし、突然山に入り「ほほい、ほほい」と叫びながら創作の恵みをいただいていたというから、握り飯にしてちょこちょこ食べてもいたのだろう。それにしても多くはないか?玄米四合!!終戦後、教科書に載せる際に、「このご時世に四合はいかがなものか、三合に書き換えよ」と、“玄米三合バージョン”で掲載された時期もあったという。教育行政は時代時代で正しくないこともするのだという教訓でもあるなと思うが、いずれにしても、米を通して時代が透けて見えるエピソードではある。
 「雨ニモマケズ」は、「行って」誰かのために力を尽くしたいという、病いでそれが叶えられなくなった賢治が切望した理想の自分だ。東へ西へ、人の幸せのために馳せ参じるにはそれだけご飯を食べていなければという“しっかり食べて丈夫なからだ”という願望もあったのだろう。そんな切ない四合でもあるのだ。
 現代日本人、もうそんなにご飯をワッシワシと食べる人は高校運動部員か力士の皆さん位だろうと思っていたら、「私は一日六合は軽く食べてます」と爽やかに言い放つ人がいた。

川原悟さん 今回の「ほっかいどう元気びと2017」にお呼びした札幌のおむすび専門店「おむすびきゅうさん」店長の川原 悟さん 40歳。自らを「ライスボールプレイヤー」と名乗り、国内は勿論海外にも実演に出掛け、おむすび、ひいてはご飯の美味しさを広く伝えている。札幌の老舗米穀店「札米」に勤めて20年。「おむすびきゅうさん」の出店を自ら提案し、ご飯の炊き方、おむすびの作り方を研究し尽くし、お米の消費拡大のために日々奔走しているという。その思いの背景にあるものを伺った。
 「ライスボールプレイヤー」は、この世界広しと言えども自分ひとりしかいないと川原さんは笑う。プロたるおむすびのコツは、手数(てかず)を少なく素早く握るということ。おむすびは持ち運んで食べることが多いもの。数時間が経っても硬くならずふんわりとした食感を出すことが欠かせないと言うが、そのために最も大事なのはご飯を美味しく炊くという基本。ふわっとむすんでも崩れないように炊くプロの炊飯術は米穀店で経験を積んできているからこそと矜持をのぞかせる。
 まずはご飯を美味しいと思って貰いたいという熱い思いは、米穀に携わってきたここ20年でもずいぶん米の消費量が減って同業者が次々に店を畳んでいったのを目の当たりにしたからだという。研いで、炊いてという手順が必要なお米は簡単に食べられるパンやパスタなどに取って代わられ、コンビニエンスストアなどのおむすびがその手軽さで重宝されていることから自ずと家庭での消費量が減っていく。とは言え、食の選択肢が増えただけで日本人にとってお米は飽きられたわけではない。お米も品種改良で格段に味が良くなっている。どうやってもっと身近なものにして貰えるかと智恵を絞っていた時に、店の試食用のミニおむすびに「売ってちょうだい」というリクエストが多く、その思いに応えるようにおむすび専門店を始めたところ、主婦層のファンも思いがけず増えたのだという。
 「最近は、おむすびは買うものという人も多く、運動会などがあると10個20個と注文が入ります」と時代の変化を語ってくれる。子供の頃おむすびは家庭の味だったという川原さんにとっての願いは、「美味しいおむすびを味わって貰うということを通して家庭でもご飯をしっかり食べるということにもう一度戻ってみてほしい」とのこと。そのための「ライスボールプレイヤー」でもあるのだと説得力が伝わってくるのだった。

川原悟さん 今後は海外でも北海道のお米を美味しい炊き方も含めて定着させ、その土地のお母さん達がおむすびを作るようになってくれたら嬉しいと楽しそうに語るので、その原動力はどこから?と訊いてみる。川原さんは、農家の人達の所に足繁く通った時に畦道の刈りきれていない稲穂を鎌で大事そうに刈っている農家さんの姿を見て、これは自分達の役割としてその愛情に応え大切に売らなくてはならないと感じたことがあるからだと話す。そして、何より、お米に関していろいろと学んでいく中で日本人の体にとっての主食はやはりお米が理にかなっているということを実感し、それを多くの人に伝えたい思いが強いのだという。
 川原さん曰く、人は生まれて12歳位までに食べたものに依存する。だから、何を食べるか、食べさせるかがとても重要。食べ物は一生の体を作る。日本人の体にはお米が最も合うのだからお米を美味しく食べることが大事なんです、と。
 収録後に、「川原さんの仕事は、モノを売っているのではないのですね」と思わず呟くと、「命を売っていると思っています」と一言。そして、「仕事というよりもはや、趣味」とも話されていた。仕事を楽しめるというのは生きていることのほぼすべてが楽しいに違いない。さらに、「皆さんに、宝ものは何ですか?と伺っています」と切り出すと、「まさに、宝というのは昔お米のことだったんです」と即答。「宝」はその昔、「田から」という語源から生まれたという説があるそうで、「田から穫れた穀物」が日本にとっての宝ものだったそう。
 北海道の農家の方々が精魂込めて作っている北海道米は、さらに、米穀店の尽力や「ライスボールプレイヤー」である川原さんのような普及のための智恵を絞る人達によって価値を生み出しているのだと改めて感じたインタビューだった。

 ちなみに、「一日に6合を軽く食べている」というのは、おむすび専門店でおむすびを出す際、その都度ご飯の炊き具合をチェックするために自分でも必ずおむすびを試食するのだという。一日に何度も。しかも、売り物と同じ大きさのものを(!)そして、「試食の他に主食も食べますよ」とのこと。それだけご飯が好きなのは、「小さい頃、ご飯でお腹をいっぱいにしなさいと言われて育ったうちだったので」と笑う。そのおかげでこんなに元気な体になりましたと言い、軽いフットワークで帰って行った。
 付け加えておくが、川原さん、そんなにご飯をたっぷり食べていてもスマートな体型。ご飯で作られた“一生もの”の体は、まったく贅肉の付いていないフォルムだったことを付け加えておこう。

(インタビュー後記 村井裕子)

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